空白

背中が見える 3

「着きましたで」
 白いベンツの後ろでやっさんと2人して眠りをしていた。若頭の運転手が声をかける。いつの間にかタクシー会社の本社の門をくぐっている。やっさんは少し上品な背広を着ている。私はいっちょらのスーツにワイシャツの襟を出してチンピラだ。やっさんは社長室に入ると若頭に貰ってきた少し名の通った不動産会社の部長の名刺を出す。若頭の名前で面会を取っている。
「隣の土地はそちらの組でしたんか?売ってくれと言いはってもあきまへんで」
 後ろに屈強な京都の組らしき男が立っている。
「そうやないんです。売りたいと思ってます」
 私が鞄から区画図を出す。
「いや許て言う人が何度も売ってくれと来られるもんで。そちらに持って行きはったら?」
「それは不味いらしいんですわ」
「まあそうですな。でもなんで売はるんでしゃろ?」
 やっさんが詰まってこちらを見る。
「道路に面してない土地ですから」
「その通りでんな。でも金のなる土地やという評判ですよ」
「いえ線引きの話はいつになるのか分かりません」
「そうですな。あんたどこかで会った顔してはるな?」
 私もそんな気がしていた。
「一度検討してみまっさ。指値でよろしおすな」









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背中が見える 2

「やっぱりこの区画図面は何度も見たことがある」
 今日は一日中事務所の中に籠って姉さんと話し込んでいる。親分が持病の痛風が起きて昨夜入院した。朝病院から戻ってきた姉さんが親分からの伝言を伝えた。そろそろ姉さんが全般を見るようにと言うことだ。その補佐役を私に任せると言うことだった。
「人夫出しとビルと店舗管理と貸付で3等分ですね」
「人夫出しは私がやれるけどビルと店舗管理と貸付は苦手やよ。イサムが何とかしてよ」
「ええ、ビルと店舗管理は課長のカメさんがいいのではないかと思います。前の番頭が苛めていたのですがちょっとどんくさいですがきちっとしてます。全体は私が見ます。それよりあの番頭が気になりますよ」
「私も思てる。その横の地図なんやの?」
「これは京都の駅裏の地上げですよ。若頭に調べてくれと言われて見てるんですが記憶に残っているんです」
「それやったら知ってる。3年前やったかな」
と言ってごそごそ未決案件のファイルを探している。
「これや。兄貴がこの土地を買うてと持ってきたんや。3億でその細長い隣の部分の黄色の土地や」
 一斉にこの辺りの土地が買い占められ始めた時期だ。
「親分が現地に言ってやばいところやとダメだししたけど」
 週刊誌の切抜きが張ってある。
「その土地を含めて地元のタクシー会社が買い取ったと・・・。ここはS銀行がタクシーの駐車場で融資した・・・」
 口に出して読んでいてその時車からよたよたと歩いてくる野良犬を覚えている。
 それでやっさんの事務所に電話を入れて若頭に伝えてもらうように言伝を頼んだ。
「隣のタクシー会社に売るのがいいと」


 



背中が見える 1

 どうしたのか初めて病院から戻った夜に女を抱いている夢を見た。お尻を大きく突き出したら、そこにぽっかりと10円玉のような穴が開く。すらっとした足を抱えるようにしてそこに差し込む。最初ぎゅと締まるが後は吸い込まれるように入って行く。女が横顔を歪めるように振り向く。どうしたことかあの『白薔薇』のママの写真の顔だ。
 今日は退院を待ってたと言う若頭に呼ばれて、昼過ぎに金融会社の事務所へ白のベンツの迎えが来る。部屋に入るとすでにやっさんも来ている。
「大変やったなあ」
 鋭い目つきをしている。
「こいつはなあ。本家が手付けてる京都の駅裏の地上げ物件や。もう2年になるが20億が無駄金になっている。こちらも1億融通させられている。やっさんに調査させたがこちらの周りを許と言う男が買いまくっているようや」
「許の後ろは伊藤や」
 やっさんが地図を広げて見せる。どこかで何度も見た記憶がある。
「ITMファイナンスが35億、Kファイナンスが8億出している。完全に取り囲まれたようや」
「接道部分は?」
「ない。もともと前の話があって乗ったのやが、許に先を越された。持ってきたブローカーが繋がってなかった」
「この向こう端は誰が持っているのですか?」
 塞がれていない個所が1か所ある。
「やっさん至急調べてくれ」
「この書類コピー貰えませんか」
 どこか記憶に引っかかるものがある。やっさんはもう部屋を飛び出している。
「今調べているとこやが、あんたがS銀行にいたと言う東京の社長がいるんや」






新しい一歩 8

 翌朝、サエが新聞を買ってくる。
 昨日のミナミの発砲騒ぎが記事になっている。だが発砲した3人組は姿を消したらしく警察が捜査中とある。また撃たれたという人物も姿を消したとある。サエが傷口を押さえてタクシーで走ったのだ。事務所に休みを伝えるのと新聞記者の名刺を渡して簡単に昨日の話をしてここに来るように頼んだ。
 夕方やっさんと記者がやってきた。
「えらい目にあったな」
 やっさんも手に新聞を丸めて持っている。
「今朝チンピラが拳銃を持って自首して来ましたよ。関西のやくざと言うことですが、喧嘩と言うことになっています。だが屋台の親父に会って来たんですが、この写真の男を見つけたと連絡したようです。もちろん警察にはオフレコです」
 記者が髭のない私の写真を出す。
「若頭に聞いたんやが、この組は関東系や。関西系にはこの写真は回ってないそうや」
「これもあの屋台の親父に聞いたのですが、騒ぎに後サングラスの男が訪ねて来たそうです。しばらくミナミは鬼門ですよ。それとこれは頼まれていた『白薔薇』のママの写真です」
「ええ女やなあ」
「男ですよ」
 サエどことなく似ているが表情が冷たくて背が高そうだ。
「東京の記者に聞いてみたのですが、今はこのママと伊藤は男女の関係ではないようです。パトロンは分からないということです。それに伊藤は近々にITMファイナンスで背任になると噂で先にその記事を出すことになります。ただ大株主のS銀行がもう一つ乗り気ではないのです」






新しい一歩 7

「ボンやっとやったみたいよ」
「そんなのサエに報告するか?」
 飽きれてサエの背中に声をかける。今日は二人にとって初めての日曜日だが、ミナミに端切れの買い出しに駆り出された。物色に3時間ほどかかると言われて仕方なく街の中をうろつく。裏道を抜けていくと道頓堀の馬券売り場に出る。しばらくオッズを見ているがさほど興味がわかない。裏道の屋台に入ってビールを頼む。サエの入っている店から100メートルも離れていない。
 2本目を頼もうと親父を見るがトイレにでも行ったのか姿がない。隣の労務者が小銭を置いて席を立つ。私もそれにならって小銭を置いて暖簾を出る。路地を元来た道に歩き出す。
「おい!」
 後ろから3人組が羽交い絞めにしてさらに狭い路地に押し込む。
「金は置いてきたで」
「そんなんどうでもええ。顔見せえ!」
「兄貴、本人やろ?」
 兄貴が上着のポケットから写真を出す。
「賞金首や」
 その声に思い切りあの兄貴の体に頭をぶつけた。それから両手を振り回して路地に出る。一人が足に飛びついてくる。それを辛うじてかわすともう一人が飛び掛かって来るのにこちらから体を当てる。路地から出てきた兄貴とちらりと目が合う。ピストルを構えている。思い切り走りだす。バンと音がして体が宙に浮く。
 目が覚めるとまたやぶ医者のベットに寝ている。サエが涙を浮かべてこちらを見ている。
「ごめんや。連れまわしたから見つかってしもた」
「脇腹の端を貫通してる。もうちょっとずれてたら骨がバラバラや」
 やぶ医者が血の付いたガーゼを洗面器に入れる。












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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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