空白
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向き合う 9

 黒鞄の中にあった鍵をネックレスにぶら下げてサエの首に掛ける。これはたぶん貸金庫の鍵だろうと思っている。ただサエはこれが伊藤や頭取達が血眼になって探しているものとは思っていない。ただ私の手掛かりになる重要なものという認識はある。
 昨夜またカオルが車で修繕する衣装を運んできて、明日の晩二人で来てほしいと告げて手紙を置いて帰った。カオルと東京に行くと言うことだ。会う相手は頭取だ。1週間欲しいとある。
「大丈夫?」
 胸から顔を上げたサエが心配そうに言う。
「その鍵がなければ殺されることはない。それにここまで来たらカオルに掛けるしかない」
「信じるわ」
「万が一も考えてフミコのところに泊めてもらうといい。困ったことが起これば姉さんに相談するのがいい。頼れる男のような女だからな。カオルと姉さんに抱かれるなら嫉妬しない」
「記憶が戻ったら?」
「その時はカオルに頼んでおく。これは想像だが、ここに逃げて来る前まで相当カオルに仕込まれていて男を愛す体になっていたと思う。ほれ、今でもサエに見詰められるだけでこんなに立ってしまっている。カオルはサエを妹のように思っている」
「うん」
「彼女も危険な綱渡りをしている。私も同じ綱を渡らなければならない。3人とももう隠すものも何もない。裸であそこまで愛し合ったんだから」
「戻ってきたらこの町に逃げてきた話を聞いてね?誰にも話さなかった恥ずかしい話」






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向き合う 8

 朝リヤカーでビールを運んでいるボンと会う。
「あれからサエがめっちゃ明るくなった」
 そう言うと路地の中に消えて行った。あの日から二人は同じ布団の中で寝ている。
 今日は地上げの進行をチェックしがてら新聞社の近くで記者と待ち合わせしている。
「ITMファイナンスの最近の情報は?」
「そうですね。どうも伊東退任だけでは済みそうにありませんね。これは東京のライバル誌ですが」
と言って白黒の写真を見せる。
 そこには伊藤と話している『白薔薇』のママの写真が載っている。
「これはいつくらい撮られた写真なのですか?」
「10日ほど前でしょう。『白薔薇』のママの後ろ盾は頭取とはこの業界では周知の事実です。それに大蔵省がメイバンクの頭取を呼びつけていますよ。負債は銀行も入れると1500憶では済まないと言われています。バブルを抑える意味でも政府は厳しい手を打つだろうと言われています」
 記者もまだ頭取と総理の黒い関係は知らない。
「伊藤の行方は?」
「関西で消えたと言われていましたが、どうして東京のホテルで『白薔薇』のママと会っていたのでしょうかね?」
 身の危険を感じていた伊藤がどうして東京まで出掛けたのか。これはカオルが例の証拠を持ち出したのだろうか。
「これはオフレコですが、警察が第2総務課長の自殺の調査に加えて前任の課長の行方不明も調査を始めましたよ。その眼鏡だけでは危ないですね。警察の写真はスーツ姿で髭もないですから」
 私が警察に上げられたらカオルの絵はすべて壊れるだろう。ひょっとして殺されることも。







向き合う 7

「今日は『白薔薇』のママの指示ではなく自発的に来ました」
 初老の男性が珍しく歩いて事務所を覗いた。それで商談に使う喫茶店に案内する。明るいところで見ると表情に元女だった感がある。それに気付いたのか、
「元々私は伊藤の店でママをしていました。年を取って男に戻りました。ニューハーフは年を取ると惨めなものです」
 カオルもサエもそれを口にする。
「ところでママの話ですが、実は頭取との話はそんな簡単なことではなかったのです。それをしっかり理解してもらわないとママが大変な危険に状態に陥ります」
「頭取とは話ができたと?」
「いえ、そんな生易しい話ではなかったのです。あなたの部下が頭取の指示で閉じ込めた部屋のガス栓をひねった話は聞きましたか?」
「ええ、それで逃がしてくれたと」
「それで今度は頭取にママが監禁されたのですよ。電話がかかってきて私が迎えに行った時は全身ムチの傷で2日も熱を出して寝込みました。その後ママはその時に雲隠れしていた伊藤を綱渡りで関東やくざに引き渡したのです。これも頭取との約束事だったようです」
「頭取と関東やくざは?」
「関係があります。関西やくざとも。でもその仕事をしていたのがあなただったのですよ」
「とんでもない銀行員だったわけですね」
「でもママには優しかった」







向き合う 6

 サエは『白薔薇』の衣装をまとめて受けるようになった。それで友達の一人をアルバイトで雇ったようだ。どうも竿を持った少女のようだ。
 帰りがけに珍しく金融ブローカーのやっさんが覗いた。その足で定番の寿司屋に行く。
「ようやく京都駅裏の土地がまとまった。悪いけどまた一緒してや」
と言いながら週刊誌を開く。
「例の伊藤な、ITMファイナンスを解任されたで。800億ほどの焦げ付きが出ているようや。メインバンクが会社整理をするという噂や」
 やはりカオルが言っていたことだ。頭取が腹をくくった。例の証拠が伊藤のもとにないと判断して片をつけにかかった。
「それがあの記者曰く伊藤がその日に消えてしまったと言うてる。若頭は関東のやくざに連れ去られたと言うてる」
「でも伊藤は元々関東のやくざと組んでいたのでは?」
「伊藤は関東のやくざの金も運用してたんや。それも焦げ付かせとおる。金蔓も失って身柄を確保したそうや。しばらく安全やが伊藤が苦し紛れであんたの秘密をゲロしたら危ないと言ってたで」
 やっさんは私がなぜ狙われているのかは知らない。
 それにカオルは信じられるが、頭取が何を考えているのかはわからない。カオルの言うように早い時期に頭取に会わないといけない。何より記憶のあった時の私が逃げ出したのにはわけがあるはずだ。本当に信用していたら逃げ出さなかっただろう。ひょっとしたら頭取と会ったら記憶も戻るかもしれない。
「伊藤が生きていると困る奴がうようよいるのさ」
 頭取もその一人だ。






向き合う 5

 12時までにマンションに送ってもらった私とサエだが、言葉を失って並んで壁にもたれている。私は体中でサエとカオルを感じている。不思議なことには二人は私の中では一体だ。部屋に入った時からサエが私の手を握りしめている。商店街の明かりが消えて部屋の中も真っ暗になる。
「男の私でいいの?」
「男のサエがいい。記憶は戻らないがカオルに体の記憶を戻してもらった。カオルを抱くのはいやか?」
「彼女も好きになった。一緒に抱かれたい。でも捨てないで」
「いつまでも一緒にいたい。カオルとは話をした?」
「ええ、しっかり話をしてもらった。男女は愛する人を見つけるのは難しいと。私は女になったけど私を愛してくれる男の人は諦めていた。そんな時にイサムを拾って燃え上がった。カラオケバーにいた時は戻ってきてオーナーニーばかりしていた」
 この狭い部屋で一人しごいているサエの姿が浮かんだ。
「カノンが時々私をホテルに誘った。彼女はイサムに抱かれたとも言っていた。3人でやらないそれは悪魔の響きだった。でもやっと私はイサムの女として求められるようになって幸せだった。でももし男と分かったらと。だから私はカオルと勝負する気でいた。場合によれば殺していたかもしれない。カオルはイサムを裏切ったと言ってるけど、イサムのためにぎりぎりのことをしたんだと思う」
「まだ後始末があると言っている。これは私の仕事だと思っている」
「私も協力する。それにまた3人でやりたい。私って変態ね。もうまた立ってきている。私いつまでも綺麗でいれるように頑張る」








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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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