空白

糸口 3

「だいぶ慣れて来たな?」
 姉さんと集金から戻ってくると、親分が
「座れ」
と言って調査ファイルを手にお茶を飲んでいる。姉さんはそのまま労務者を迎えに出かける。
「謄本も決算書も読めるようやの」
「ちょっと聞いていいですか?」
「おい、コーヒー入れたれ」
「伊藤って聞いたことありますか?」
「伊藤と言っても分からんがな」
「金融界で伊藤と言うと有名らしいのですが?」
「彼奴か」
「20年前は大阪をうろうろしてた。金融ブローカーや。ここの事務所もよう来てたな。大体怪しい貸し付けが多かったな。最近は東京で新聞を賑わせているようや。番頭そこの新聞の束を取ってやれ」
 新聞を広げると指をさす。
「ITM事件と言うのですね」
「会社のM&Aや地上げ資金を触っているらしいな」
 東京から逃げて来たのか。
「まだ疑惑段階だが、いずれ警察が動くことになるな。新聞が書きだして騒ぎになってから警察が動く。それから税務署やな。新聞が騒ぎ出したら納め時やが、このタイミングが分からん奴が多い」
「この新聞貰ってもいいですか?」
「紙くずや持って行け」








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糸口 2

 姉さんに頼んで兄貴の組の小頭を紹介してもらった。彼は女房に小料理屋をさせていて、姉さんから親分に話してもらって開店資金を借りていた。その集金は組事務所ではなく小料理屋に行く。それでその店に9時から会うとになっている。
 カウンターにすでに酒を飲んで座っている。女将は可愛い感じの年上で、小頭はやくざと言われないと分からない剽軽な顔をしている。
「これはちょっと貸付の関係なので内緒にしてもらいたいんです」
「貸付やってるのか?よろしく頼むわ」
「それで最近関東のやくざ来ましたね?」
「ああ、組長と会った」
「頼みごとをしたと聞いてます?」
「詳しいな。どうもな、やくざにその男をはねる依頼したようや。殺す気はなかったようや。怪我したところを身柄を押さえる気だったみたいや。それが戻ってきたときは姿がなくなっていたわけだ。そのやくざも詳しいわけを聞かされてなかったようで、戻って報告をしたら指を詰めろと言われたらしい」
 女房が酒を注いでくれる。
「これはちょろっと言いよったが、伊藤ちゅう奴が絡んでいるらしい」
 どこかで何度か聞いた名前だ。
「その伊藤は?」
「詳しないがな、貸金の世界では有名らしい」
 貸金、伊藤・・・。








糸口 1

 日曜日ボンとモーニングを食べる。サエは今日も押し黙って隣の席でサンドイッチを抓んでいる。一緒に食べに来るまでにはなったが、相変わらず機嫌が悪い。
「あの関東のやくざ店に来たんだ」
「あの女将の店?」
「いや、親父のしている本店の立ち飲み屋だよ」
「学校から帰ってきたら手伝っている。ビールの入れ替えや皿洗いだけど」
「ここの親父は息子を丁稚としてか思っていない」
 サエが独り言のように言う。
「やはりイサムを探してると思う」
「何か話していたの?」
「どうも関東対関西ではないらしい。関西のやくざにも頼んでいるようだ。この通りの奥の組にも挨拶に出かけたようだった」
 姉さんの兄貴のところだと思った。
「あのトンネルの前で車にはねられた男と言っていた。はねたと言っているのははねた側の人間だと思う。大きな病院はすべて回ったようだ。親父に小さな病院を聞いていた」
「それでやぶ医者のこと言ったの?」
「いや。親父は係りたくないタイプだから言わない」
「やくざの抗争?」
「そのやくざも頼まれ仕事のような口ぶりだった」








生活 3

 サエはこの3日間口をきいてくれない。
「あのな、こういう場合調査するのは分かるか?」
 親分が帰って行った店の女の後姿を追いながら言う。
「決算書は当てにならないぞ。このおしぼりやを調べてみろ。おしぼりの数はごまかせない。わしの名前を出せば教えてくれる。それから集金の帰りにこの店を覗け。領収書を貰ったら落としてやる。延長はするな」
 親分のそばでこの3日間貸付先と会う。貴重な話を聞いていてメモを取る。それから問答があって調査を担当する。
今までは会計の番頭の仕事だったが、彼奴のはセンスがないとの親父の評価である。どうもこの貸付が裏稼業で儲かるようである。
「あのカラオケバーに飲みに行く?」
 集金の終わりに姉さんが声をかけてくる。
「いえ、これから貸付先の調査に行きます」
 別れると地図を取り出して本通りをまっすぐ抜けていく。店の看板を確認してドアを押す。
 割れるような音楽が流れていて、薄暗くてしばらく部屋の中がよく見えない。入口で3千円を払い嫌がるのを領収書を貰う。ボーイがビールを運んできて、すぐに小太りの女が座る。
「後ろに入る?ええことしたげる」
 更に6千円を取るようだ。でも結構この時間でもカーテンに入る客はいるようだ。
「退き!」
 女の声がして小太りの女を弾き出す。
「延長はせいへんで」
「何言ってるの会いに来てくれたんと違うの?」
 黒髪の女だ。
「指名の金は持つから入って」
 さっそくズボンを脱がせると口に含む。
「今日は後ろはだめなのごめんね。あれからまたやぶ医者の治療中。オナニーしてきた?」













生活 2

 親分がサエの勤めているカラオケバーに入る。夜にここに入るのは初めてだ。サエは気が付いたようだが親分のカウンターの前に着く。親分が姉さんと私を横に座らせて周りにいる女に酒を飲ませる。どうも指名客のようなシステムになっているようだ。寿司などは近くの店から取るようだ。
 いつも間にかあの時の流し目の女が私の横に座って肩に手を回す。姉さんの目はサエを捕らえている。この女はそう言う動物的な感が働くようだ。
「サエ、あの曲をやってくれ」
 親分の指名でマイクを握る。初めてサエの歌を聴いたがプロ並みだ。
 姉さんはサエの指を掴んで離さない。
「アヤって言うの」
と小さな名刺を出してくる。どうもカウンターの中と外の女の動きが違うようだ。
「今日は初店のサービス」
 言うなりズボンのにチャックから細い指が忍び込んでくる。ボックス席も同じようなことをしている。
 サエの目がさらに突き刺されるように向けられる。この雰囲気はたまらない。でも男はキンキンになっている。どうもこうした生活に慣れてきたのだろうか。堪らず噴出したものをアヤは隠そうともしないでティシュで丁寧に拭う。これはいかにもまずい。
 次は親分が古い演歌を歌いサエにマイクを渡す。これもうまい。
「明日から貸付をやってみるか?」
 親分が真顔で言う。
 姉さんがサエの指を舐めている。






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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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