空白
FC2ブログ

過去に触れる 7

 メロディーに合わせて歌が唄えている。初めは用心深く歌詞を追っているが、自然に拳も入ってくる。
「記憶を失っても芸は忘れんもんや」
「歌い込んではるわ。親分頑張らんと」
 ママを挟んで5曲ずつ歌い終わった。ドアがそっと開いて先ほどの運転手の顔が覗く。優男の親分の目が光る。
「あのな、どこかで見たことがあると思っているんやが」
 ママがマイクをしまっている。私は思い切ってあの写真を出した。親分は指で抓んで、
「この顔やがのう。ITMファイナンスのお披露目の会場で見た顔や」
「伊藤の部下でしたか?」
「違うのう。S銀行の頭取の傍に立っていた。銀行員という風やった」
「ITMファイナンスとは親分は取引されて?」
「いや、伊藤が嫌いや。彼奴には信義がない。あれはなあ、お世話になっていた初代のITMファイナンスの社長を売ったんや。それで今の社長に代わって伊藤が役員に入った。伊藤も覚えてないのか?」
「見たことのあるような?」
 ちらりと腕時計を見る。
「信用できる金融ブローカーを紹介したる」
 と言って金融ブローカーと自分の名刺を出して裏にサインをする。
「ちょっと一緒に10分ほど乗ってくれ、後で好きなところに送るように言うからな」







スポンサーサイト

過去に触れる 6

 集金から戻ると、事務所の前にホワイトのベンツが留まっている。事務所を覗くと小柄だが幅の広い男が親分と話している。
「イサムに歌を付き合ってくれというてはる。これから出かけてくれ」
 車に乗せられると男が運転をする。
「もう15年も前に親分ところでお世話になっていたことがあるんや」
 話すと愛嬌がある。
「どこに行くんですか?」
「うちの親分の隠れ家のスナックや」
 右側に地上げ現場が見えたと思うと、細いネオン街に入っていく。その中のレジャービルの前に留めると、入口に黒づくめの男が立っていて中に案内する。ドアを押すと、あの優男が手を上げてカウンター席から呼ぶ。カウンターの中に和服のママが待っていたように寿司の皿を並べる。
「前は世話になった。取引は無事に終わった」
「いえ、あれはうちの親分の裁量です」
「その礼は金利出させてもろた。若いからビールがええやろ」
「はいどうぞ」
とママがビールの小瓶を抜いてグラスに注いでくてる。
「どうや。うちの金融会社で社長やってみいへんか?」
「いえ、親分に拾われましたので」
「そうかそうか」
 客は誰も入ってこない。
「このスナックの話ステーキハウスのママにしたらあかんで。殴り込んで来よるからのう」










過去に触れる 5

 夜にボンの親父のいる本店に行く。8時までに30分ほどある。親父が常連と話している後ろをボンが厨房を掃除している。大瓶を頼んで折り曲げた週刊誌に目をやる。
「イサムか?」
 背中を叩かれて振り向く。
「やぶの先生ですやん」
 やぶ医者が白衣以外を着ているのを見たのは初めてだ。
「俺だって飲むさ。3階には風呂がないから3日に一度通天閣の銭湯の帰りにここによる。部長になったんてな?」
「サエが話していましたか?」
 どうも半月に2度ほどやぶ医者の所に来ているらしい。
「あの女毎日隣の兄ちゃんに頼んで新聞を買ってもらって読んでいる」
「刺した男が捕まったか気になるんでしょう」
「ここの奴はみんな色々ある」
 もうやぶ医者の背中が暖簾の向こうに消えている。いつの間にか親父の姿もなくボンが前に立っている。鞄から先ほどの写真を出して黙ってカウンターに置く。
「あの日のイサムや」
「やくざが持っている回っている顔写真や」
「ひげは剃れないね」
「今日はサエには会った?」
「モーニング食べに来てた」
「ボンはサエのことどう?」
「何度も振られている。友達以上恋人以下だって」
 はにかんでいる。






過去に触れる 4

 昨夜はサエが蒲団のもぐりこんできて始めて電灯の下でピンと立った乳首を吸った。でもセックスに入る前に拒まれた。仕方なく朝まで抱いて眠った。
 最近は月給になったので手持ちの金が心細くなってきている。でも集金も一人でするようになって、鞄の中にボンから貰った週刊誌を持ち歩いて休憩時に読んでいる。ITMファイナンスには裏にS銀行が絡んでいるらしいのが見えてきた。どうもITMファイナンスの総融資量の6000憶の50%がS銀行系が占めていると週刊誌が書いている。どこに自分がいたのだろうか。
「部長?」
 小頭が手招きで呼ぶ。
「面白いのを見せてやる」
 そう言って組事務所の裏の階段を上る。
「ここは組長室が見れるようになっている。万が一の監視だ。防音だから気にしなくていいさ」
 組長の前に黒スーツの男が座っている。
「東京の組の幹部らしい。ここに来ていた関東のやくざに指示をしていたようだ」
「組長に怒られないか?」
「いや今回は稼がしてもろたと。イヤホンを挟め聞えるで」
「やっぱりそれらしい男は見つからないのか?」
 男の声だ。
「どういう男なんですか?」
「それは言えん」
「病院と日払いホテルは調べたんですやろ? 他の町にふけたのでは?」
 男は立ち上がって不機嫌そうに出ていく。
「この写真持って行けや」
 組長が手渡す。
 これは私だ。

















過去に触れる 3

『5時に早引けして救急病院の待合室に来て』
とサエの置手紙があり本人は爆睡している。
 それで親分に早引きを頼んで、まだ陽の登っている町の中を抜けて阿倍野まで出る。
 待合室に入るとボンがリヤカーを傍に置いて立っている。
「どうしたんや?」
「昨日カラオケバーに男が飛び込んできてホステスを刺したんや」
 それきり詳しい情報はないらしい。しばらくしてサエが顔を出して病室に入る。流し目の女アヤだ。二人掛けでアヤを毛布に包んでリヤカーに積みこんで裏口から出る。
「横浜のやくざの男らしい」
「逃げてきたと言ってたな?」
「どうも関東やくざが教えたみたいやの。脇腹を7針縫ったけどどうしても姿を隠したいと頼まれた。犯人はまだ捕まってないのよ」
 やぶ医者の所に担ぎ上げる。
 どうも昼のうちにアヤの部屋から衣類関係を運んできているようだ。やぶ医者も例のごとくベットでアヤを半裸にして傷を見ている。思ったより豊かな乳房が丸見えだ。
「迷惑かけるわ」
「いいよ。イサムの蒔いた災いかもしれないから」
 どうもサエも詳しい話をボンから聞いているようだ。







プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR