空白
FC2ブログ

過去に触れる 1

 朝珍しくサエが起きていて一緒にモーニングを食べた。妙にはにかんでいるサエが可愛い。
 今日は姉さんと集金の後は早い目に事務所に戻る。事務所の前に兄貴の組長のベンツが留まっている。私が戻ると小頭が運転で横に組長が乗って親分と私が後ろに座る。
「今日からお前は貸付部長や。月給制や。前借がいるんなら言えよ」
と名刺を親分が渡す。
 地上げの現場に止まって半時間ほど見てから、5分で約束のステーキハウスに着く。
 組長がママを見て立ち上がって頭を下げる。
「久しぶりですなあ」
 銀行員に見える男がにこにこ笑いながら席に座る。横の男はどう見てもやくざだ。名刺を交わす。こちらが金融会社の社長のようだ。
「土地建物は契約できるんか?」
「いつでも」
「入居者が6名と聞いているのやが?」
「4名はいつでも即決和解巻けますよ。親分に嘘言っても仕方ないですわ。土地建物で8億、追い出しで3億」
「幾らいる?」
「10億で」
「買い手はITMか?」
「いえ、あそこは商売敵や。向こうの購入先と話しつけてます」
「ここが買えんやったら間口が取れんからな。時価で20億は吹っかけるわな」
 どうもこれだけで手打ちになったようだ。
 先ほどの優男の頭が私の名刺を見ながら、
「一度ゆっくり飲みたいな」
と妙な言葉を漏らす。
 












スポンサーサイト



糸口 6

 不覚にも調査のバーで飲んだ水割りに酔ってしまって眠ってしまった。いつもは疲れで寝込んでしまうのに、妙な感触で目が覚めた。だが、夢の中かどうか確信がない。カーテンからのアーケードの灯が淡く差し込んでいる。黒い影が私の下半身に取りついている。誇張したものが張り裂けて液を噴射する。
 私は堪えるようにその影の肩を掴んでいる。夢ではない。
「電気をつけないで」
 確かにサエの声だ。そのまま濡れた唇が吸い付いてくる。自分の臭いが充満する。イサムは小さなサエの体を抱きしめる。
「隠していることがまだ一杯あるの。このまま抱いて眠って」
 まるで夢のような朝にサエを見るといつもの布団の中ですやすや眠っている。
 今日は朝から親分に昨日の調査結果を見せる。
「地上げが残っている部分は?」
「この地図の赤い線で囲った区画です。後は閉められたアパートと駐車場です。甲区は東京の会社に移転されていて、乙区にはITMファイナンスがついています」
「この部分は土地と建物が同一の個人ですが、6軒店が入っています。でも営業をしているのはこのバーと組事務所だけです」
「バーは流行っていたか?」
「閑古鳥が鳴いています。でも立退きの金のために頑張っているようです」
「よう調べたな。明日に借主と会う。お前も来るか?」







糸口 5

 朝目覚めると、卓袱台の上に週刊誌が積み上げられていた。ボンが届けてくれたようだ。その上に小さな便箋が乗っていた。
『ごめんなさい。口もきかないで。本当はイサムが大好き!』
 便箋の余白に涙の滲みがあった。
 新聞で見た限り、ITM事件は大手の商社の子会社のファイナンス会社の膨大な貸付のようだ。伊藤はそこの役員で社長より権限があるらしい。元々親会社の商社の支払いを手形での支払から支払通知書にしたのを、下請けは手形割引できずこのファイナンス会社で高金利の融資をしたところから一躍伸びたらしい。そこから地上げ資金、M&Aなどの際どい銀行の隙間資金を扱うようになったようだ。
「当社でもITMのような支払い通知書貸付はできないのですか?」
 借入希望先が帰った後、親分に聞いてみる。
「通知書はただの紙や。担保にならん。焦げ付きになったら取りようがないわ」
「これも伊藤の考えですか?」
「彼奴にはそんな頭はないわ。後ろにはもっと賢い奴がいる。ところでこの地図の謄本を全部あげてきてくれ」
 ミナミの道頓堀の近くだ。
「それとその中にあるバーに寄ってきてくれ。店の状態と地上げの話を聞き出してくれ。領収書は取るんだぞ」
「貸付ですか?」
「ああ、馬鹿息子が持ってきた。それだけに要注意や。久しぶりに気合の入る話や。貸付先がミナミの組関係の会社や気付けなあかん」
 事務所を出ると法務局を回って60筆の登記を1時間半かかってあげる。それから8時頃の暇な時間にバーに入る。今日はあまり飲まず夜にサエと話したいと思っている。












糸口 4

 初めてボンの親父の本店を覗いてみようと言う気なった。夜はサエも仕事だし外で食事を済ますことにしている。大半はボンの女将の店のカウンターでビールを飲みながら9時頃に戻って風呂に入って寝てしまう。サエは12時前に戻ってきて風呂に入って1時頃に寝るようだ。朝は10時頃まで寝ているようだ。
 暖簾を思い切ってくぐる。入る席がないくらい混んでいる。しばらく呆然と立っていると、ボンを強面にしたような親父が隙間に入れと言うような仕草をする。ボンの姿を探すが、カウンターの中には見たことのない顔しかない。
 造りをあてにゆっくりと飲みながら新聞を追って目を通す。いつの間にか8時になるとあっという間に客が引いていく。そのうちに親父もカウンターを出て板前も調理場の整理も始めている。
「始めてやな」
 肩をポンとたたいて入れ替わりにボンがカウンターに入ってくる。
「親父は8時に帰る。ここからは2人で10時まで店じまいをするんだ。客は本当の常連しか来ない」
 ボンは要領よく皿とグラスを洗っていく。
「あのやくざの話を調べてみたんだ」
 新聞を広げて見せる。
「どうもITM事件として特集にもなっている。ここに出ている伊藤と言う男が絡んでいる」
「そう言えばこの週刊誌も特集している。明日でも集めてみるよ」
「もちろんどんな役回りで絡んでいるか分からないので慎重に調べてみる」
「サエにも詳しく話してやれよ。心配しているから」
「でもないよ。口をきいてもくれないんだ」
「あれは焼きもちだ」









糸口 3

「だいぶ慣れて来たな?」
 姉さんと集金から戻ってくると、親分が
「座れ」
と言って調査ファイルを手にお茶を飲んでいる。姉さんはそのまま労務者を迎えに出かける。
「謄本も決算書も読めるようやの」
「ちょっと聞いていいですか?」
「おい、コーヒー入れたれ」
「伊藤って聞いたことありますか?」
「伊藤と言っても分からんがな」
「金融界で伊藤と言うと有名らしいのですが?」
「彼奴か」
「20年前は大阪をうろうろしてた。金融ブローカーや。ここの事務所もよう来てたな。大体怪しい貸し付けが多かったな。最近は東京で新聞を賑わせているようや。番頭そこの新聞の束を取ってやれ」
 新聞を広げると指をさす。
「ITM事件と言うのですね」
「会社のM&Aや地上げ資金を触っているらしいな」
 東京から逃げて来たのか。
「まだ疑惑段階だが、いずれ警察が動くことになるな。新聞が書きだして騒ぎになってから警察が動く。それから税務署やな。新聞が騒ぎ出したら納め時やが、このタイミングが分からん奴が多い」
「この新聞貰ってもいいですか?」
「紙くずや持って行け」








プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR