空白 2014年10月

空白6

「関空まで付き合って」
 腕時計を見てタクシーを呼んでいる。
「次はいつ来る?」
 高速から海を眺めているカオルの耳に囁く。
「次は10年先か。修司は立たなくなっているかもね」
 かもしれないと思うと歳を取ることは恐ろしい。うとうとしているとタクシーは桟橋を駆け抜けて空港内に滑り込む。カオルはトランクを預けると腕時計を見てレストランに入って行く。
「やあ早かったのね」
 窓際のテーブルで結衣が手を振っている。サエも隣に座っている。
「やった?」
「しっかりとね」
 カオルの返事に結衣が笑っている。サエが結衣にすべて話しているようだ。
「これはね、結衣と約束したんだけど、来年から1年間結衣がロスに留学することに。私と暮らすのよ」
「なんだか心配だな」
「心配?」
「ああ」
「お父さんはお母さんやカオルさんのことが分かっていないよ。二人とも女性には興味がないの。私はずっとお母さんのようなちんちんが欲しかった」
「覚悟するのね。結衣の人生も過激よ。あなた以上かも」

             《完》

『空白』は未完のまま永い間段ボール箱の眠っていました。
時々夢の中で続きの話を繰り返し繰り返し見ていたようです。
書きだすと走るように物語が出てきました。
そのうちに『刺青』が隙間から生まれました。
『復讐の芽』はこれは挑戦です。

        夢人






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空白5

 ホテルの部屋に入ると17年前に戻る。バスローブを着たカオルがもうすでにワインを飲んでいる。彼女の前にはビールの小瓶が抜いてある。私は自然と瓶を口に持って行く。
「すぐにする?」
「いや話がしたい」
「そうね。私も最近はそれほどセックスしなくなったわ」
「なぜ香港に?」
「元幹事長が赤坂に絡められなかったので私を脅してきた。彼もその時は新党建て上げに失敗して、検察にも追い込まれて焼け糞になっていた。何度も交通事故や火災に巻き込まれたの」
「なぜ電話してこなかった?」
「何度も掛けようとした。でもね私はサエと約束をしていたの。赤坂がすんだら修司を戻すと」
「そんな話があったんだな」
「それに家族間がギクシャクしていて思い切って各会社の株を手放した。それに元総理や頭取が裏金をせがんで五月蠅かった」
「マネージャーが一緒だった?」
「彼も身よりがなかった。親子のようだったわ」
「今は?」
「彼はラスベガスにいる。日本に帰りたくないと言っている。私が帰るのも反対していたわ」
「どうして?」
「私が戻ってこないと心配してる」
と言いながらまだ立派にくびれている裸の尻を向けてくる。
「まだ立つじゃないの。思い出すわこの感触」






空白4

「御機嫌よう!」
 17年ぶりにこの携帯からカオルの声が聞えた。
「日本に戻ってきたのか?」
「日本どころか今サエの店にいるよ」
「2時間も話した」
 サエの声が聞えた。
「それで今夜は貸し切ったのよ」
「何を?」
「阿倍野のあの白い壁のホテルまだ残っている吃驚した」
「まさか?」
「ここ2年もサエを抱いてないのね」
「そんなことまで?」
「立たなくなった?」
「もう若くない。だがだからサエが抱けないのじゃなんだ。それよりどうしてまだ会社の役員に入っている?」
「だって私といつまでも一緒だって」
「17年間は長かったな」
「あっという間だった。でもねいつも夢を見てた。会長が死ななかったらいつまでも修司と一緒だったのにね」
「でも今日だけ」
 サエの声がする。




空白3

「この小料理屋は5年ぶりだなあ」
 記者が編集長になった時ここでお祝いをした。
「貫禄がついたよ」
「いや腹が出ただけだ。それより『白薔薇』のママ調べてみたよ」
 女将と一緒にやぶ医者も今はカウンターに入って魚を焼いている。だからサエはホルモン注射は自分で打ってる。サエとはもう2年交渉がない。今ややぶ医者もサエを女と思っている。
「彼女はしばらく香港にいたそうだ。『白薔薇』の7号店を香港に出している。ここはまでも開いていてその当時の写真が雑誌に出ている」
 これはサエが作ったドレスだ。
「3年後『白薔薇』の8号店をラスベガスで出した。これはアメリカの新聞の記事だ」
 編集長にとってもはやカオルは恋人だ。
「会社を調べてみたが彼女は今も社長だよ。君の名前も役員に残っている」
 役員に入った記憶もない。入っているなら頭取か総理だろうが、二人とも相次いで亡くなっている。もう赤坂のことを知っている人間もいない。写真を見てカオルの横に立っている老人を見た。
「どうした?」
「いや」
 あのマネージャーがずっと一緒だったのだ。
「もう日本のことは忘れただろうか?」
 カオルにとって日本で起こったことは空白なのかもしれない。




空白2

 カオルだ。私は乗り出してテレビを覗き込む。やはり17年ぶりだ。私が大阪に戻ってからカオルは表舞台から姿を消した。
「日本にいなかったのねえ?」
 ラスベガスの有名なカジノを日本人が買い取った。
「カオルに間違いないな?」
「ええ」
 サエも確信している。
 赤坂は私の記憶では1000憶はカオルの手元に入ったはずだ。私は10年後に貸金庫を開いた。証拠書類はすべて処分した。架空口座にあった5憶はまだ手をつけてない。
 カオルは謎の日本人と伝えられている。43歳になる。だが30歳代に見える。
「アメリカにいたんだ」
「『白薔薇』はまだ私のところに仕事をくれている」
「ちいママが運営してるのだ」
「私も顔を薄っすら覚えてるよ」
 ユイが言う。
「会いたいな」
 サエが懐かしそうに言う。
「そうだな」
 いつの間にかスマホで懐かしい記者を呼び出す。彼は今週刊誌の編集長になっている。
「今のテレビ見たか?」
「ああ懐かしい!久しぶりのリバイバル記事を書こうと思っている」
「一度飲まないか?」





空白1

 あれから17年が矢のように過ぎた。私も50歳を迎える。サエの店も阿倍野ののっぽビルに入った。本社は相変わらずそのままのところに置いている。サエも私の妻となって籍に入り、娘のユイもサエのことを聞いて少し反抗期があったが、今日も仲良く買い物に出かけている。私は年齢相応に年老いた良きサラリーマンの顔になっている。
 サエは一向に年齢を感じさせず、いまだ周辺の誰も男とは思わない。久しぶりにボンの店でビールを飲んでいる。ボンは髭を蓄えて私より年上に見える貫禄だ。5人の子供を作ってさらに6人目が出来るという。
「最近はサエとはやらないのか?」
 小さな声で言う。
「ユイに見られてからはサエに拒まれている」
 ボンとは正直な話ができる。ボンの妻のフミコは未だにサエが男だと知らない。私に会うとなぜ二人目を作らないと言い続ける。ボンはやりすぎて玉がなくなったと冗談を言う。確かにやりすぎたのだと思う。
「ほらここにいた!」
 いつの間にかユイが腕を組んでいる。サエが後ろで控えめに笑っている。
 ボンが黙ってビールとサイダーを抜く。
「ユイちゃん彼氏出来た?」
 フミコが奥から声をかける。
「私も男に生まれたかった」
 これがユイのいつもの帰し文句になっている。サエが困った顔で笑う。今でも時々ユイがサエの布団に潜りこむ。私はそれを見ていて妬ける。
「あれ!」
 サエの声でテレビの画面を見る。




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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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