空白 2016年09月

新しい一歩 1

 今日はサエが私に合わせて休みを取った。ついてきてほしいところがあると言われて阿倍野のデパートの近くまで出てきた。心の中でサエをまた抱く予感で自然とむくっと大きくなっている。あの日からセックスは一度もしていない。
サエはそんな気持ちにはお構いもなく、ガレージが下りた小さな店のブザーを鳴らす。隣のたこ焼き屋から年配の女性が顔を出して下りたシャッターを開ける。
 中は洋服店のようで裸のマネキンが並んでいる。だが店を閉めて少しなるのだろう雑然としている。
「店広げるか考えたが不景気やからなあ。でもここで何しやはるの?」
「既製品で見つからんオーダーの女性服を」
「そんなん儲かるの?」
「小さな店ですから」
 あっけにとられているとサエは鞄から巻き尺を出してきて測りはじめる。私は仕方なく端を持ってうろうろする。
「取引は末でよかった?」
「はい」
「じゃあ。帰る時にまた呼んで」
と引っ込む。
「店やるのか?いくらかかる?」
「全部で800万かかる。ほんとはお金貯めるのに後3年はかかるけど、親分が半分貸付してくれるん。運転資金ももってなあかんと」
「そんな貸付の申し込み見たことない」
「でももう1か月前から決まってんのよ。イサムは押し入れの中覗いたことないのね。ここに来てから作った服が段ボールにぎっしりあるよ。それに可愛いミシンが」
 そう言えば店に行くまでのサエが何しているのかも知らないでいた。








スポンサーサイト

過去のこと 6

 今日はボンから誘われていて親父の彼女の女将の店で飲むことになっている。ボンは立飲み屋の定休日のようだ。私は残業して小口貸付の整理をやっと終えた。
「いや珍しいな」
 店に入っていくとボンが女性と並んで座っている。
「夜間の同級生だ」
 どう見ても高校生には見えない。25歳くらいか。
「話してもいいか?親友だから」
 女性の耳元で囁いている、こっくり頷く。どう見ても姉と弟に見える。
「この子の再婚相手の親父が毎日セックスを求めて来るので、相談を受けていたが遂に家出をしたんだ」
「お母さんは?」
「どうも認めているようだ」
「親父は何歳?」
「39歳。母は48歳」
 小声で答える。
「しばらくこの店で寝泊まりして働くように頼んだ。でもうちの親父は認めない」
「ボンは最後まで彼女を守っていける?」
「ああ」
「君はボンでいいのか?」
「好きです」
「二人ともこの言葉を忘れるなよ」
 どうもサエと自分に向かって言っているような言葉に聞こえる。
「どんなことがあってもだぞ」
 









過去のこと 5

 今日は金融ブローカーのやっさんが寿司屋に記者を連れてきている。
「彼は週刊誌で伊藤の記事を書いている。今回記事の情報提供もしたので連れてきた。ちょっとあの未完成の原稿見せたれや?」
 言われて記者がバックから原稿を出す。
「これは初めての記事ですね?」
 もう飽きるほど週刊誌を読み漁ってきたが、この記事に触れた他社の記事はなかった。
「新宿に『白薔薇』という会員制のクラブがあります。ここは取材に出かけましたよ。ママは歳は30歳頃のニューハーフです。ちょっと女でもかなわないシャープな美しさです。彼女なら男でもと思いましたよ。取材には応じてくれませんでしたが、他の店の子に話を聞きました」
 クラブの入り口の写真を見て記憶を掠るものがあった。
「伊藤はここの裏のオーナーらしいのですよ。店の子に言うとママはオーナーと呼んでいるとのことでした。店の登記を調べたら、伊藤の妹名になっています。ここによくS銀行の頭取が御忍びで来ているということです。これは私の調査ではまだ頭取になる前に総会屋にいた伊藤と出会っています。想像ですが、頭取をここに連れてきたのだと思います」
「面白いやろ?」
「この時期から2年である日伊藤は縁のないITMファイナンスの役員になっている。これはS銀行の頭取になった功労賞の様なものです。頭取はITMファイナンスの企画を持っていたのだと思います。私は個人的に彼が日本バブルの火付け役と思っています」
「その伊藤と頭取が最近は仲が良くないと記事に出ていますが?」
「そうなんですよ。これも私の大いなる想像ですよ。ひょっとしたら伊藤が隠しカメラでママと頭取の絡むのを撮ったのではないかと」







過去のこと 4

 朝出勤しても心がどこか落ち着かない。ホテルで何度もキッスをして先に出た。
「顔が火照ってるよ」
と姉さんに冷やかされる。
 今日は貸付の調査があり、8時に萩之茶屋の番頭のスナックの近くの小料理屋に寄る。2度目の改装の貸付だ。500万の申し込みと前期の確定申告と見積もりが出ている。混み具合を見ようとこの時間にした。
 暖簾を潜ると10人ほどのカウンターは一杯だ。女将が一人でやっているようだ。しばらく立っていると、常連客が席を空けてくれる。空いた席に座ろうとして目を疑った。
「先生やないですか?」
「なんやヤバイ奴にあったな」
「先生は湯上りの立ち飲みだけか思ってましたよ」
「ゆっくり飲みたい時もある」
「先生の患者さんですか?」
 女将は思ったより若く50歳前のようだ。
「私が一番最初の患者でしたのよ。もう10年前でしたよね。前の主人にお岩のように殴られて勤めていた店から運ばれたの」
「肋骨も折れていた」
「それからいろいろと面倒見てもろて10年前にこの店の貸付の保証人にもなってもらいました」
 前回の貸付は800万で保証人付きだが、今回は保証人はなしになっている。
「根掘り葉掘り聞くな」
 恋人を見る目をしている。







 

過去のこと 3

 ワインに酔うより話に酔ったようだ。どうもサエは今夜は泊まる気だ。いつものように鍵をかけて風呂に入ってその後に私が入る。いつの間に用意していたのか可愛いランジェリー姿に代わっている。化粧もし直したようだ。窓から通天閣のネオンが見える。
「子供が出来たら責任とってくれる?」
「ああ」
 サエは窓のカーテンも閉めて電気を消す。
「これじゃサエが見えないじゃないか」
 お構いなしに唇の中に舌を入れてくる。私は入念に胸を舐め上げるとサエはいつの間にか浴衣の中に潜り込み、猫のようにぺちゃぺちゃする。
「今夜は出したらだめ」
 いつもここで口の中に放出して終わる。いつの間にか全裸になっていて、可愛い乳房のようなお尻の谷間にネオンの光が薄く跳ね返っている。
「何があっても捨てないでね」
 抱きかかえようとすると、サエは背中を見せて勃起したものに座るように吸い込む。なぜ背中を向ける?でもそんな思いも次の瞬間吹っ飛んでしまう。こんな締めつけは経験がない。サエはゆっくりと揺れながらすすり泣くように嗚咽を食いしばっている。
 虜になりそうだ。




過去のこと 2

 久しぶりに日曜日に休みが取れるとサエが動物園に誘ってきた。腹違いの兄弟が不倫をしている奇妙な気持ちになるが、この生活にも慣れてきたように思う。今はキッスもフェラチオも胸の愛撫も許してくれるのでそれで満足している。
 夕暮れまで動物園で遊んで阿倍野出口から出て無口で歩いてゆくサエの後ろを追いかける。本通りから路地を曲がって白い建物の中に入っていく。
「ここならやくざも来ないから」
「ラブホテルだよ」
「ここの食事いけるよ。ワイン飲まない?」
 食事を頼んでワインを飲み始める。窓から夕暮れに浮かぶ通天閣が見える。サエは私の膝枕にぽつぽつと話し始める。
「イサムと言う名は最初の父の名前なの。同じ旅回りの役者と出来て母が私を生んだ。よく遊んでくれた。楽屋で育ったようなものなの。父は演歌歌手を目指していたのでよく暇な時に唄を教えてくれた。3年程旅回りをしていたんだけど、母は座長と出来てしまって父が劇団を追われることになった」
「お父さんとは?」
「それから会ったこともない。そのうちに母が若い演歌歌手と私を連れて駆け落ちをした。7歳の頃から舞台に立ってチャンバラの子役をしたり、唄も歌わさられた。それと舞台衣装の修繕もしていた」
「どうして逃げ出した?」
「その後の男が最低だった。地方のヌード劇場廻りで白黒をしていた。沖縄から北海道まで至る所を回った。母も男も異常になっていたわ。ドラッグに手は出すし、この話はまだ話す勇気がない。この時にこの通天閣の近くの町で興行していた」












過去のこと 1

 親分が番頭と会って話をつけたらしい。会計と貸し付けから外して、空港建設の現場の飯場の管理に泊まり込みで入ったようだ。給料から使い込みに対して返済することになったらしい。新しい返済のページを作ったが70歳になっても終わりそうにない。
 集金は今回から姉さんと回ることになった。
「親分も甘いわ」
 昼ご飯に入った喫茶店で口を尖らせて言う。
「親分も辛いんだよ」
「それよりイサム何かしたの?カラオケバーでイサムの写真見せられたよ。髭のないやつ」
「ああ、聞いた。関東のやくざらしいね。サエが言うのには車ではねたやつらしい。だが記憶に全くない」
「しばらく私がついて回る。私の方が力強いからね」
「危険だよ」
「サエちゃん私の話していない?」
「いや」
「なんか悲しいわ。私男には全く興味ないの。こんな話イサムだからできるのよ。あんたは中性のような変な感じよ。中学の頃好きな子ができて一時は駆け落ちしたのよ」
「それも女の子?」
「サエちゃんによく似ている。3年間家出して同棲した。二人で結婚を誓っていた。今の親分は父ではないの。母が
後添えに入ったの。父のことは覚えてもいない。親分が頼まれてスナックに勤めていた私を見つけ出した。大柄だったので20歳には見えたようよ」
「親分彼女を認めてくれた。それで二人のアパートを借りてくれた。でも彼女が男と姿を消した。それで親分の仕事を手伝うことに」
「お母さんは?」
「2年前に病気で亡くなった」






成りゆき 8

「イサム起きてよ!」
 少し飲みすぎたのか目が開かない。無意識にサエの唇を吸う。だがどうもいつものサエと違う。唇が震えている。
「どうしたんだ?」
「関東のやくざが来た。カラオケを歌いながらイサムの写真を出して見せた」
「サエに見せたのか?」
「いや、カウンターに座ったホステスにだよ」
「ばれた?」
「たとえ知っていてもホステスは言わない。仁義だから。でも本当に気付いていないみたい。その男あの車の後ろから見ていたサングラスの男だった。でもあの姉さんが横で首を傾げていた」
 姉さんは気づいたかもしれない。
「この辺りの外科の病院を確認していた。明日念押しにやぶ医者の所に行くわ。しばらく野球帽を深くかぶるのよ。うろうろ飲みに行くのもだめ!」
 私はまだ金融ブローカーのやっさんの話はしていない。まだ雲をつかむような話で実感がない。ただ何らかの線で伊藤と繋がっているとはいえる。それにあのS銀行の頭取のことが気になる。
 サエは布団に潜ってきて朝まで抱きついていた。

成りゆき 7

 会計の女性が入ってようやく外回りをし始めた。まともな小口は半分もない。親分は今夜番頭と会うらしい。集金から戻るとソファーにあの白髪交じりの髭の金融ブローカーが来ている。親分とも面識があるようだ。親分が笑いながら手を上げて出ていく。
「大変やったらしいな。あの寿司屋に行っているしっかり仕事を済ませてきてや」
 と言うと出ていく。姉さんが帰ってきてカラオケバーに行かないかと誘うが断る。どうもサエに入れあげているようだ。サエからは一言もそんな話はない。あのアヤがいなくなってからサエがナンバーワンだそうだ。だがサエはカウンターから出ることはないと言う。カウンターの外は指だけでなく口まで使ってサービスするようだ。
 半時間で前の寿司屋を覗く。
「前頼まれていたのが少し分かったんだ。伊藤の後ろはS銀行の頭取だが、最近はあまり仲が良くないらしい。一つはITMファイナンスの焦げ付きが記事になり出している。その大半が伊藤のグレイな貸付だ」
 やっさんが週刊誌を広げる。
「新聞にでるようになって警察や税務署が動き出すが、週刊誌は興味本位だが案外事件の導火線になりうるんだ。こちっとら金融では素晴らしい情報源だ」
「それと伊藤が何やら頭取を脅している噂もある。これはまだ闇の中だがな」
と言って頭取の白黒写真を見せる。何か記憶にひっかる部分がある。
「この頭取は珍しく東大や京大ではなく私立出身だ。かなりやばいところをすり抜けてきたと思うわ」







成りゆき 6

 翌日包帯を巻いた頭にサエが買ってくれた野球帽をかぶって事務所に入る。親分が朝の人夫出しが終わった頃をも計らって覗いた。さすがに番頭と顔を合わせるのを避けた。最初に姉さんが戻ってきて、
「もっと休んでたらいいのに。番頭は今日から来なくなったわ」
と嬉しそうに肩を叩く。
 ドアのところで親分が手招きする。行きつけの小さな喫茶店だ。
「大変だったな悪いな。小頭に聞いた。娘に小口の貸倒調べるように頼まれていたのだな」
 私は鞄から調査資料をカウンターに出す。親父は眼鏡を出して無言で読んでいる。
「あの女と一緒になった時からやなあ。止めろと言ったがな。彼奴は女にやさしくしてもらったことがない。あの女はああして男から搾り取る。まあ大変だと思ってその時から給料を上げたったんや」
「金をとられたことは?」
「仕組まれていたんだから仕方がないわ。とにかく経理は今日募集をかけた。会計も貸付も全部見てくれ。将来は娘に任せる気だ。力を貸してやってくれ。本当は娘の旦那になってくれと言いたいが、彼奴はレズだからなあ。サエちゃんを気に入ってるが困るやろ兄貴としては」
 親分はよく見ている。
「とにかく小口の整理を始めてや」
 さすがに疲れたようにため息をつく。
「若い頃は彼奴は人夫出しをここまで大きくした。それから運転手をずっとやらしていた。経理もわしが教えた。なあ、処分はわしに一任してくれるか?」







成りゆき 5

 朝10時過ぎに姉さんがトラックの送迎の後訪ねてきた。
「番頭がしきりに親分に首だと喚いていたわ。見損なったよ」
「金を奪われたから仕方がない」
「親分はそんなに冷たくない。気にすることはないと伝えるのにやってきたの」
 それだけ伝えるとこれから私の分も含めて集金に回るようだ。入れ替わるようにサエが入ってくる。
「そのチンピラ関東やくざの回し者じゃない?」
「いや、やくざの目をしてなかった。それにそれなら身柄を確保していくはずだ」
 サエは着替えの袋を棚に置いて、みかんを剥いて口に入れてくれる。それとまだ読み切れていないボンの週刊誌を積み上げる。
「今日はアヤがいなくなったので交代の早番なの」
と言って外に出てく。
「持てるのね」
 布団の中からくぐもった声がする。SMの黒髪の女だ。
「今日はだめなの。糞を食ったらピーピーよ。男優病気持ちだったのかしら。さすがに性欲湧かない」
 ベットの下に便器が置いてある。妙な出会いだ。
 夕方、小頭の顔が覗く。
「チンピラ締めたったで。向こうの頭から100万持ってこさせた。今さっき親分に事情を説明して50万返したわ。この10万はお見舞いや。後は組の稼ぎにさせてな」
「10万もいらない」
「気にするな。でも締め上げて指図した奴が分かったぜ。お前とこの番頭相当の悪やな」
「親分にもテープ渡した。弁償の必要もない。集金のルートも教えていたから堪らんな」
 番頭とはじっくり話をしてみようと思っていた矢先だ。









成りゆき 4

 初月給をもらった。40万も袋に入っていた。番頭が嫌味を言う。その夜にそれをサエにそのまま渡した。

「私は女房でもないし、金貸しでもないよ」
と機嫌が悪い。それで借りていた医者の費用と家賃で20万を渡した。20万でも充分に食べていける。
 番頭の件はまだしばらく誰にも伏せている。生きている借入先も大半が日払いアパートだ。とくにあの管理人の棟で8人もいる。そのうちの一人は管理人の紹介で会ってみたが、借入額の1割の礼金を貰ってサインしている。今までの話は念のため録音に残している。
 だがこの話をするのにはためらいがあった。元々番頭は気に弱い律儀な男だったようである。それが10年前スナックの今のバツ2のママと一緒になってから、スナックの支払いとママの金遣いに振り回されているようだった。覗いてみたが40過ぎの割には色っぽ過ぎる。子供は2人いるが前の男の子供だ。
 いつものように集金を終えて路地の店から出てきた時、左右からチンピラが3人急に飛び掛かってきて、持っていたパイプで思い切り殴りつけられる。誰かのどすの利いた声が聞えたが、そのまま壁に倒れかける。
「また3針縫ったな」
 やぶ医者の顔が見えてその横に心配そうなサエと姉さんの顔があった。
「鞄やられた?」
「取られている」
「集金の50万が入っていた。給料から引いてくれ」
「いいのよ。でも小頭が見つけてくれてここに運んでくれたの。犯人を見つけてやると言ってたよ」
「あれは待ち伏せしていたように思う」
 






成りゆき 3

 手が空くごとに番頭の集金の合間に小口の焦げ付きの書類を出してきて調べる。ここ1週間で焦げ付きの本人の当時の住所を回ってみた。15人中の15人が日払いホテルの住所でもう住んでいない。だが始めて16人目で一人管理人の男を見つけた。

「少しいいかい?」
 管理人室に強引に入る。私は名刺を見せて、
「借り入れが残っているが?」
「そんな借りた覚えはない」
「でもこれはあんたのサインだろ?」
 コピーを見せる。
「知らんな!」
 今にも逃げ出しそうだ。私は不動産会社の名刺を壁からはがして、
「本社と話をつけるよ」
と言うと急に肩をすぼめて座り込んでしまう。
「ほんとの話をしたら電話は止める」
「俺は借りていない。名前を貸してくれと言われた。それで嫁はんのスナックのツケをチャラにしてもいいと言われた」
「幾らあった?」
「20万ほど」
「でも100万借りていて4回返済をしている」
「そんな金貰ったこともないし、返済したこともない」
「そのスナックは?」
と言うとマッチ箱を出した。








成りゆき 2

 その夜知っているのか知らぬのか、帰ってきたサエは無理やり蒲団に潜ってきて、用済みの私のものを半時間も咥えたまま眠ってしまった。どうもアヤと寝たことを知っているようだった。目の周りに涙が溜まっている。
 朝事務所に行くと、姉さんが袖を引っ張って公園の片隅に連れて行く。
「夜時間あけてくれへん?」
 頷くとそのまま労務者の中に消えた。サエの店なら断ろうと集金に出かける。
「なあこれおかしいと思えへん?」
 裏の小料理屋で姉さんは返済表のコピーをテーブルに出す。
「100万までの小口の貸し付けやなあ。今でも小口の貸付していたのか?」
 私は親分の扱う大口の補助が中心だ。
「私が入った頃小口が主流だったのよ。10年前辺りから小口を減らそうとしてきた。この町夜逃げが多く回収不能がたくさん出ていたの」
 借入名があり5回くらいで返済がストップになっているものが多い。
「親分の指示?」
「いえ、前々から調べていたの。でも貸付はプロじゃないので延ばし延ばしになっていたのよ」
「負債としては金額合計でどのくらい?」
「ざっとだけど2000万くらいあるわ」
「今は小口の残高は?」
「1000万少しかな」
「決裁は?」
「ほとんど番頭の仕事よ」
「少し調べてみるから親分にも番頭にも内緒にしてくれ」














成りゆき 1

 やぶ医者からぼんの親父の店で、
「明日、5時に来てほしいとアヤから伝言だ」
と託された。
 早引きをしてやぶ医者の病院に着くと流し目の女アヤが旅行鞄を手に待合室に座っている。アヤは無言で立ち上がると細い路地を抜けて飛田新地の大通りで待っていたタクシーに乗る。
「ミナミの新地まで走って」
「どうしたんだ?」
「昨夜あの男がまたカラオケバーを覗いた。サエが教えてくれた」
 それだけ言うと黙りこくっている。いつの間にかタクシーはアヤの指すラブホテル街にゆっくり入っていく。彼女が声をかけて白い建物の前に止まる。仕方なく鞄を抱えて建物の中に入っていく。
 部屋に入るとアヤは蓑を剥ぐように全裸になる。だが横っ腹にはテープが頑丈に張り付けてある。
「まだ治ってないんだろ?シャワーぐらい浴びろよ」
 アヤはすでに素早く服を脱がせて汗臭いものを掴んでベットに押し倒す。
「生を飲ませて!」
 1分も持たないで口の中発射してしまう。サエよりはるかに経験を積んでいる。
「今日のは濃いよ。サエと毎日してるのでしょ?」
「いや、口だけだ」
「ひょっとして?」
と言いかけたが、私もものがまた大きくなっているのを見て今度はまたがる。
「う!」
「血が滲んでいるぞ」
「気持ちいい!これから南港まで送ってね?」
 タクシーに乗り込んでアヤは肩にもたれて何もしゃべらない。デッキの前に来て始めてにこりと笑って、
「もう2度と会えない気がする」
と無邪気に手を振った。








過去に触れる 8

 親分から難波の手形屋に行くようにとFAXの手形を持って出かける。どうもここの手形屋は手持ち資金がなくなると年に3回ほど割引があるようでそれを任された。1億ほどあるようで持って帰って翌日送金する。これは今まで番頭がしていた仕事なので彼としては気分が悪いようだ。その近くのビルに紹介された金融ブローカーの事務所があるので訪問の予約を入れておいた。
「すいません」
と覗くと受付に女性が座っている。私は親分のサインの入った名刺に部長の名刺を添えて渡す。
「いやどうぞ」
 わざわざドアを開けて白髪交じりの髭ずらの顔が覗く。
「あの親分の名刺は値打ちですよ。今や本部の若頭はナンバー2ですよって。よっほど気に入られたんですな。一応ITMファイナンスのことは調べておきましたよ」
 思ったより若そうで40歳そこそこのようだ。
「伊藤はずっと大阪にいたのですか?」
「いやしばらくは東京にいたようですわ。ちょっと有名な総会屋にいたと聞いています。その頃S銀行の今の頭取と親しくなったようですな」
と言って古い週刊誌の切抜きを見せてくれる。
 頭取選に深くかかわっていたと記事は書いている。
「それで頭取の紹介でITMファイナンスの役員に入っている。かなりやばい案件に係っていまっせ」
 一緒に飲みたいと言ってタクシーで事務所に送ってくれてその後ジャンジャン横丁の寿司屋に入る。









過去に触れる 7

 メロディーに合わせて歌が唄えている。初めは用心深く歌詞を追っているが、自然に拳も入ってくる。
「記憶を失っても芸は忘れんもんや」
「歌い込んではるわ。親分頑張らんと」
 ママを挟んで5曲ずつ歌い終わった。ドアがそっと開いて先ほどの運転手の顔が覗く。優男の親分の目が光る。
「あのな、どこかで見たことがあると思っているんやが」
 ママがマイクをしまっている。私は思い切ってあの写真を出した。親分は指で抓んで、
「この顔やがのう。ITMファイナンスのお披露目の会場で見た顔や」
「伊藤の部下でしたか?」
「違うのう。S銀行の頭取の傍に立っていた。銀行員という風やった」
「ITMファイナンスとは親分は取引されて?」
「いや、伊藤が嫌いや。彼奴には信義がない。あれはなあ、お世話になっていた初代のITMファイナンスの社長を売ったんや。それで今の社長に代わって伊藤が役員に入った。伊藤も覚えてないのか?」
「見たことのあるような?」
 ちらりと腕時計を見る。
「信用できる金融ブローカーを紹介したる」
 と言って金融ブローカーと自分の名刺を出して裏にサインをする。
「ちょっと一緒に10分ほど乗ってくれ、後で好きなところに送るように言うからな」







過去に触れる 6

 集金から戻ると、事務所の前にホワイトのベンツが留まっている。事務所を覗くと小柄だが幅の広い男が親分と話している。
「イサムに歌を付き合ってくれというてはる。これから出かけてくれ」
 車に乗せられると男が運転をする。
「もう15年も前に親分ところでお世話になっていたことがあるんや」
 話すと愛嬌がある。
「どこに行くんですか?」
「うちの親分の隠れ家のスナックや」
 右側に地上げ現場が見えたと思うと、細いネオン街に入っていく。その中のレジャービルの前に留めると、入口に黒づくめの男が立っていて中に案内する。ドアを押すと、あの優男が手を上げてカウンター席から呼ぶ。カウンターの中に和服のママが待っていたように寿司の皿を並べる。
「前は世話になった。取引は無事に終わった」
「いえ、あれはうちの親分の裁量です」
「その礼は金利出させてもろた。若いからビールがええやろ」
「はいどうぞ」
とママがビールの小瓶を抜いてグラスに注いでくてる。
「どうや。うちの金融会社で社長やってみいへんか?」
「いえ、親分に拾われましたので」
「そうかそうか」
 客は誰も入ってこない。
「このスナックの話ステーキハウスのママにしたらあかんで。殴り込んで来よるからのう」










過去に触れる 5

 夜にボンの親父のいる本店に行く。8時までに30分ほどある。親父が常連と話している後ろをボンが厨房を掃除している。大瓶を頼んで折り曲げた週刊誌に目をやる。
「イサムか?」
 背中を叩かれて振り向く。
「やぶの先生ですやん」
 やぶ医者が白衣以外を着ているのを見たのは初めてだ。
「俺だって飲むさ。3階には風呂がないから3日に一度通天閣の銭湯の帰りにここによる。部長になったんてな?」
「サエが話していましたか?」
 どうも半月に2度ほどやぶ医者の所に来ているらしい。
「あの女毎日隣の兄ちゃんに頼んで新聞を買ってもらって読んでいる」
「刺した男が捕まったか気になるんでしょう」
「ここの奴はみんな色々ある」
 もうやぶ医者の背中が暖簾の向こうに消えている。いつの間にか親父の姿もなくボンが前に立っている。鞄から先ほどの写真を出して黙ってカウンターに置く。
「あの日のイサムや」
「やくざが持っている回っている顔写真や」
「ひげは剃れないね」
「今日はサエには会った?」
「モーニング食べに来てた」
「ボンはサエのことどう?」
「何度も振られている。友達以上恋人以下だって」
 はにかんでいる。






過去に触れる 4

 昨夜はサエが蒲団のもぐりこんできて始めて電灯の下でピンと立った乳首を吸った。でもセックスに入る前に拒まれた。仕方なく朝まで抱いて眠った。
 最近は月給になったので手持ちの金が心細くなってきている。でも集金も一人でするようになって、鞄の中にボンから貰った週刊誌を持ち歩いて休憩時に読んでいる。ITMファイナンスには裏にS銀行が絡んでいるらしいのが見えてきた。どうもITMファイナンスの総融資量の6000憶の50%がS銀行系が占めていると週刊誌が書いている。どこに自分がいたのだろうか。
「部長?」
 小頭が手招きで呼ぶ。
「面白いのを見せてやる」
 そう言って組事務所の裏の階段を上る。
「ここは組長室が見れるようになっている。万が一の監視だ。防音だから気にしなくていいさ」
 組長の前に黒スーツの男が座っている。
「東京の組の幹部らしい。ここに来ていた関東のやくざに指示をしていたようだ」
「組長に怒られないか?」
「いや今回は稼がしてもろたと。イヤホンを挟め聞えるで」
「やっぱりそれらしい男は見つからないのか?」
 男の声だ。
「どういう男なんですか?」
「それは言えん」
「病院と日払いホテルは調べたんですやろ? 他の町にふけたのでは?」
 男は立ち上がって不機嫌そうに出ていく。
「この写真持って行けや」
 組長が手渡す。
 これは私だ。

















過去に触れる 3

『5時に早引けして救急病院の待合室に来て』
とサエの置手紙があり本人は爆睡している。
 それで親分に早引きを頼んで、まだ陽の登っている町の中を抜けて阿倍野まで出る。
 待合室に入るとボンがリヤカーを傍に置いて立っている。
「どうしたんや?」
「昨日カラオケバーに男が飛び込んできてホステスを刺したんや」
 それきり詳しい情報はないらしい。しばらくしてサエが顔を出して病室に入る。流し目の女アヤだ。二人掛けでアヤを毛布に包んでリヤカーに積みこんで裏口から出る。
「横浜のやくざの男らしい」
「逃げてきたと言ってたな?」
「どうも関東やくざが教えたみたいやの。脇腹を7針縫ったけどどうしても姿を隠したいと頼まれた。犯人はまだ捕まってないのよ」
 やぶ医者の所に担ぎ上げる。
 どうも昼のうちにアヤの部屋から衣類関係を運んできているようだ。やぶ医者も例のごとくベットでアヤを半裸にして傷を見ている。思ったより豊かな乳房が丸見えだ。
「迷惑かけるわ」
「いいよ。イサムの蒔いた災いかもしれないから」
 どうもサエも詳しい話をボンから聞いているようだ。







過去に触れる 2

「番頭と部長やったらどちらが上や?と番頭がすねてたよ。何しろ30年も親分の会計をしてきたからね」
と姉さんが面白そうに言う。
「さあ出るぞ」
 親分の声がかかって一緒にタクシーに乗る。
 地上げ現場の手前で止まって、信用組合の本店の建物に入る。営業部長が直に出てきて、3階のの理事長室に案内する。
「久しぶりですね?」
 年配の理事長が握手する。
「あの物件で10億貸してや」
 朝番頭に見せてもらったが千日前に7階建てのビルを持っている。根抵当が20億ついていた。
「これは融資申込書と返済計画や」
「よく出来てますね?番頭さんの作とは思えませんがね?」
「この部長が書いたわ」
「融資書類を書きなれてるようですな?」
と言って名刺を交換する。
「取りあえずぶっちゃけた話聞かせてくださいね」
「あそこの地上げ中の一角の土地建物を買うのや。1年と長めに見てるが、半年で片が付くと思う」
「気つけてくださいよ。ITMファイナンスが絡んでますからね」
「買い手は上場企業やから」
「親分とは長い付き合いですから。いつまでに入れておきましょう?」
「月末の1日前で頼むわ」
 親分が飲み屋の寄ると言うので、通天閣で降ろしてもらう。私はボンの女将の店に寄る。
「さっき大変やったんで。パトカーまだいてるやろ。ホステスが刺されたんや」
 女将が暖簾の向こうを覗いて言う。









過去に触れる 1

 朝珍しくサエが起きていて一緒にモーニングを食べた。妙にはにかんでいるサエが可愛い。
 今日は姉さんと集金の後は早い目に事務所に戻る。事務所の前に兄貴の組長のベンツが留まっている。私が戻ると小頭が運転で横に組長が乗って親分と私が後ろに座る。
「今日からお前は貸付部長や。月給制や。前借がいるんなら言えよ」
と名刺を親分が渡す。
 地上げの現場に止まって半時間ほど見てから、5分で約束のステーキハウスに着く。
 組長がママを見て立ち上がって頭を下げる。
「久しぶりですなあ」
 銀行員に見える男がにこにこ笑いながら席に座る。横の男はどう見てもやくざだ。名刺を交わす。こちらが金融会社の社長のようだ。
「土地建物は契約できるんか?」
「いつでも」
「入居者が6名と聞いているのやが?」
「4名はいつでも即決和解巻けますよ。親分に嘘言っても仕方ないですわ。土地建物で8億、追い出しで3億」
「幾らいる?」
「10億で」
「買い手はITMか?」
「いえ、あそこは商売敵や。向こうの購入先と話しつけてます」
「ここが買えんやったら間口が取れんからな。時価で20億は吹っかけるわな」
 どうもこれだけで手打ちになったようだ。
 先ほどの優男の頭が私の名刺を見ながら、
「一度ゆっくり飲みたいな」
と妙な言葉を漏らす。
 












糸口 6

 不覚にも調査のバーで飲んだ水割りに酔ってしまって眠ってしまった。いつもは疲れで寝込んでしまうのに、妙な感触で目が覚めた。だが、夢の中かどうか確信がない。カーテンからのアーケードの灯が淡く差し込んでいる。黒い影が私の下半身に取りついている。誇張したものが張り裂けて液を噴射する。
 私は堪えるようにその影の肩を掴んでいる。夢ではない。
「電気をつけないで」
 確かにサエの声だ。そのまま濡れた唇が吸い付いてくる。自分の臭いが充満する。イサムは小さなサエの体を抱きしめる。
「隠していることがまだ一杯あるの。このまま抱いて眠って」
 まるで夢のような朝にサエを見るといつもの布団の中ですやすや眠っている。
 今日は朝から親分に昨日の調査結果を見せる。
「地上げが残っている部分は?」
「この地図の赤い線で囲った区画です。後は閉められたアパートと駐車場です。甲区は東京の会社に移転されていて、乙区にはITMファイナンスがついています」
「この部分は土地と建物が同一の個人ですが、6軒店が入っています。でも営業をしているのはこのバーと組事務所だけです」
「バーは流行っていたか?」
「閑古鳥が鳴いています。でも立退きの金のために頑張っているようです」
「よう調べたな。明日に借主と会う。お前も来るか?」







糸口 5

 朝目覚めると、卓袱台の上に週刊誌が積み上げられていた。ボンが届けてくれたようだ。その上に小さな便箋が乗っていた。
『ごめんなさい。口もきかないで。本当はイサムが大好き!』
 便箋の余白に涙の滲みがあった。
 新聞で見た限り、ITM事件は大手の商社の子会社のファイナンス会社の膨大な貸付のようだ。伊藤はそこの役員で社長より権限があるらしい。元々親会社の商社の支払いを手形での支払から支払通知書にしたのを、下請けは手形割引できずこのファイナンス会社で高金利の融資をしたところから一躍伸びたらしい。そこから地上げ資金、M&Aなどの際どい銀行の隙間資金を扱うようになったようだ。
「当社でもITMのような支払い通知書貸付はできないのですか?」
 借入希望先が帰った後、親分に聞いてみる。
「通知書はただの紙や。担保にならん。焦げ付きになったら取りようがないわ」
「これも伊藤の考えですか?」
「彼奴にはそんな頭はないわ。後ろにはもっと賢い奴がいる。ところでこの地図の謄本を全部あげてきてくれ」
 ミナミの道頓堀の近くだ。
「それとその中にあるバーに寄ってきてくれ。店の状態と地上げの話を聞き出してくれ。領収書は取るんだぞ」
「貸付ですか?」
「ああ、馬鹿息子が持ってきた。それだけに要注意や。久しぶりに気合の入る話や。貸付先がミナミの組関係の会社や気付けなあかん」
 事務所を出ると法務局を回って60筆の登記を1時間半かかってあげる。それから8時頃の暇な時間にバーに入る。今日はあまり飲まず夜にサエと話したいと思っている。












糸口 4

 初めてボンの親父の本店を覗いてみようと言う気なった。夜はサエも仕事だし外で食事を済ますことにしている。大半はボンの女将の店のカウンターでビールを飲みながら9時頃に戻って風呂に入って寝てしまう。サエは12時前に戻ってきて風呂に入って1時頃に寝るようだ。朝は10時頃まで寝ているようだ。
 暖簾を思い切ってくぐる。入る席がないくらい混んでいる。しばらく呆然と立っていると、ボンを強面にしたような親父が隙間に入れと言うような仕草をする。ボンの姿を探すが、カウンターの中には見たことのない顔しかない。
 造りをあてにゆっくりと飲みながら新聞を追って目を通す。いつの間にか8時になるとあっという間に客が引いていく。そのうちに親父もカウンターを出て板前も調理場の整理も始めている。
「始めてやな」
 肩をポンとたたいて入れ替わりにボンがカウンターに入ってくる。
「親父は8時に帰る。ここからは2人で10時まで店じまいをするんだ。客は本当の常連しか来ない」
 ボンは要領よく皿とグラスを洗っていく。
「あのやくざの話を調べてみたんだ」
 新聞を広げて見せる。
「どうもITM事件として特集にもなっている。ここに出ている伊藤と言う男が絡んでいる」
「そう言えばこの週刊誌も特集している。明日でも集めてみるよ」
「もちろんどんな役回りで絡んでいるか分からないので慎重に調べてみる」
「サエにも詳しく話してやれよ。心配しているから」
「でもないよ。口をきいてもくれないんだ」
「あれは焼きもちだ」









糸口 3

「だいぶ慣れて来たな?」
 姉さんと集金から戻ってくると、親分が
「座れ」
と言って調査ファイルを手にお茶を飲んでいる。姉さんはそのまま労務者を迎えに出かける。
「謄本も決算書も読めるようやの」
「ちょっと聞いていいですか?」
「おい、コーヒー入れたれ」
「伊藤って聞いたことありますか?」
「伊藤と言っても分からんがな」
「金融界で伊藤と言うと有名らしいのですが?」
「彼奴か」
「20年前は大阪をうろうろしてた。金融ブローカーや。ここの事務所もよう来てたな。大体怪しい貸し付けが多かったな。最近は東京で新聞を賑わせているようや。番頭そこの新聞の束を取ってやれ」
 新聞を広げると指をさす。
「ITM事件と言うのですね」
「会社のM&Aや地上げ資金を触っているらしいな」
 東京から逃げて来たのか。
「まだ疑惑段階だが、いずれ警察が動くことになるな。新聞が書きだして騒ぎになってから警察が動く。それから税務署やな。新聞が騒ぎ出したら納め時やが、このタイミングが分からん奴が多い」
「この新聞貰ってもいいですか?」
「紙くずや持って行け」








糸口 2

 姉さんに頼んで兄貴の組の小頭を紹介してもらった。彼は女房に小料理屋をさせていて、姉さんから親分に話してもらって開店資金を借りていた。その集金は組事務所ではなく小料理屋に行く。それでその店に9時から会うとになっている。
 カウンターにすでに酒を飲んで座っている。女将は可愛い感じの年上で、小頭はやくざと言われないと分からない剽軽な顔をしている。
「これはちょっと貸付の関係なので内緒にしてもらいたいんです」
「貸付やってるのか?よろしく頼むわ」
「それで最近関東のやくざ来ましたね?」
「ああ、組長と会った」
「頼みごとをしたと聞いてます?」
「詳しいな。どうもな、やくざにその男をはねる依頼したようや。殺す気はなかったようや。怪我したところを身柄を押さえる気だったみたいや。それが戻ってきたときは姿がなくなっていたわけだ。そのやくざも詳しいわけを聞かされてなかったようで、戻って報告をしたら指を詰めろと言われたらしい」
 女房が酒を注いでくれる。
「これはちょろっと言いよったが、伊藤ちゅう奴が絡んでいるらしい」
 どこかで何度か聞いた名前だ。
「その伊藤は?」
「詳しないがな、貸金の世界では有名らしい」
 貸金、伊藤・・・。








糸口 1

 日曜日ボンとモーニングを食べる。サエは今日も押し黙って隣の席でサンドイッチを抓んでいる。一緒に食べに来るまでにはなったが、相変わらず機嫌が悪い。
「あの関東のやくざ店に来たんだ」
「あの女将の店?」
「いや、親父のしている本店の立ち飲み屋だよ」
「学校から帰ってきたら手伝っている。ビールの入れ替えや皿洗いだけど」
「ここの親父は息子を丁稚としてか思っていない」
 サエが独り言のように言う。
「やはりイサムを探してると思う」
「何か話していたの?」
「どうも関東対関西ではないらしい。関西のやくざにも頼んでいるようだ。この通りの奥の組にも挨拶に出かけたようだった」
 姉さんの兄貴のところだと思った。
「あのトンネルの前で車にはねられた男と言っていた。はねたと言っているのははねた側の人間だと思う。大きな病院はすべて回ったようだ。親父に小さな病院を聞いていた」
「それでやぶ医者のこと言ったの?」
「いや。親父は係りたくないタイプだから言わない」
「やくざの抗争?」
「そのやくざも頼まれ仕事のような口ぶりだった」








生活 3

 サエはこの3日間口をきいてくれない。
「あのな、こういう場合調査するのは分かるか?」
 親分が帰って行った店の女の後姿を追いながら言う。
「決算書は当てにならないぞ。このおしぼりやを調べてみろ。おしぼりの数はごまかせない。わしの名前を出せば教えてくれる。それから集金の帰りにこの店を覗け。領収書を貰ったら落としてやる。延長はするな」
 親分のそばでこの3日間貸付先と会う。貴重な話を聞いていてメモを取る。それから問答があって調査を担当する。
今までは会計の番頭の仕事だったが、彼奴のはセンスがないとの親父の評価である。どうもこの貸付が裏稼業で儲かるようである。
「あのカラオケバーに飲みに行く?」
 集金の終わりに姉さんが声をかけてくる。
「いえ、これから貸付先の調査に行きます」
 別れると地図を取り出して本通りをまっすぐ抜けていく。店の看板を確認してドアを押す。
 割れるような音楽が流れていて、薄暗くてしばらく部屋の中がよく見えない。入口で3千円を払い嫌がるのを領収書を貰う。ボーイがビールを運んできて、すぐに小太りの女が座る。
「後ろに入る?ええことしたげる」
 更に6千円を取るようだ。でも結構この時間でもカーテンに入る客はいるようだ。
「退き!」
 女の声がして小太りの女を弾き出す。
「延長はせいへんで」
「何言ってるの会いに来てくれたんと違うの?」
 黒髪の女だ。
「指名の金は持つから入って」
 さっそくズボンを脱がせると口に含む。
「今日は後ろはだめなのごめんね。あれからまたやぶ医者の治療中。オナニーしてきた?」













プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR