空白 2017年05月

過去に触れる 4

 昨夜はサエが蒲団のもぐりこんできて始めて電灯の下でピンと立った乳首を吸った。でもセックスに入る前に拒まれた。仕方なく朝まで抱いて眠った。
 最近は月給になったので手持ちの金が心細くなってきている。でも集金も一人でするようになって、鞄の中にボンから貰った週刊誌を持ち歩いて休憩時に読んでいる。ITMファイナンスには裏にS銀行が絡んでいるらしいのが見えてきた。どうもITMファイナンスの総融資量の6000憶の50%がS銀行系が占めていると週刊誌が書いている。どこに自分がいたのだろうか。
「部長?」
 小頭が手招きで呼ぶ。
「面白いのを見せてやる」
 そう言って組事務所の裏の階段を上る。
「ここは組長室が見れるようになっている。万が一の監視だ。防音だから気にしなくていいさ」
 組長の前に黒スーツの男が座っている。
「東京の組の幹部らしい。ここに来ていた関東のやくざに指示をしていたようだ」
「組長に怒られないか?」
「いや今回は稼がしてもろたと。イヤホンを挟め聞えるで」
「やっぱりそれらしい男は見つからないのか?」
 男の声だ。
「どういう男なんですか?」
「それは言えん」
「病院と日払いホテルは調べたんですやろ? 他の町にふけたのでは?」
 男は立ち上がって不機嫌そうに出ていく。
「この写真持って行けや」
 組長が手渡す。
 これは私だ。

















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過去に触れる 3

『5時に早引けして救急病院の待合室に来て』
とサエの置手紙があり本人は爆睡している。
 それで親分に早引きを頼んで、まだ陽の登っている町の中を抜けて阿倍野まで出る。
 待合室に入るとボンがリヤカーを傍に置いて立っている。
「どうしたんや?」
「昨日カラオケバーに男が飛び込んできてホステスを刺したんや」
 それきり詳しい情報はないらしい。しばらくしてサエが顔を出して病室に入る。流し目の女アヤだ。二人掛けでアヤを毛布に包んでリヤカーに積みこんで裏口から出る。
「横浜のやくざの男らしい」
「逃げてきたと言ってたな?」
「どうも関東やくざが教えたみたいやの。脇腹を7針縫ったけどどうしても姿を隠したいと頼まれた。犯人はまだ捕まってないのよ」
 やぶ医者の所に担ぎ上げる。
 どうも昼のうちにアヤの部屋から衣類関係を運んできているようだ。やぶ医者も例のごとくベットでアヤを半裸にして傷を見ている。思ったより豊かな乳房が丸見えだ。
「迷惑かけるわ」
「いいよ。イサムの蒔いた災いかもしれないから」
 どうもサエも詳しい話をボンから聞いているようだ。







過去に触れる 2

「番頭と部長やったらどちらが上や?と番頭がすねてたよ。何しろ30年も親分の会計をしてきたからね」
と姉さんが面白そうに言う。
「さあ出るぞ」
 親分の声がかかって一緒にタクシーに乗る。
 地上げ現場の手前で止まって、信用組合の本店の建物に入る。営業部長が直に出てきて、3階のの理事長室に案内する。
「久しぶりですね?」
 年配の理事長が握手する。
「あの物件で10億貸してや」
 朝番頭に見せてもらったが千日前に7階建てのビルを持っている。根抵当が20億ついていた。
「これは融資申込書と返済計画や」
「よく出来てますね?番頭さんの作とは思えませんがね?」
「この部長が書いたわ」
「融資書類を書きなれてるようですな?」
と言って名刺を交換する。
「取りあえずぶっちゃけた話聞かせてくださいね」
「あそこの地上げ中の一角の土地建物を買うのや。1年と長めに見てるが、半年で片が付くと思う」
「気つけてくださいよ。ITMファイナンスが絡んでますからね」
「買い手は上場企業やから」
「親分とは長い付き合いですから。いつまでに入れておきましょう?」
「月末の1日前で頼むわ」
 親分が飲み屋の寄ると言うので、通天閣で降ろしてもらう。私はボンの女将の店に寄る。
「さっき大変やったんで。パトカーまだいてるやろ。ホステスが刺されたんや」
 女将が暖簾の向こうを覗いて言う。









過去に触れる 1

 朝珍しくサエが起きていて一緒にモーニングを食べた。妙にはにかんでいるサエが可愛い。
 今日は姉さんと集金の後は早い目に事務所に戻る。事務所の前に兄貴の組長のベンツが留まっている。私が戻ると小頭が運転で横に組長が乗って親分と私が後ろに座る。
「今日からお前は貸付部長や。月給制や。前借がいるんなら言えよ」
と名刺を親分が渡す。
 地上げの現場に止まって半時間ほど見てから、5分で約束のステーキハウスに着く。
 組長がママを見て立ち上がって頭を下げる。
「久しぶりですなあ」
 銀行員に見える男がにこにこ笑いながら席に座る。横の男はどう見てもやくざだ。名刺を交わす。こちらが金融会社の社長のようだ。
「土地建物は契約できるんか?」
「いつでも」
「入居者が6名と聞いているのやが?」
「4名はいつでも即決和解巻けますよ。親分に嘘言っても仕方ないですわ。土地建物で8億、追い出しで3億」
「幾らいる?」
「10億で」
「買い手はITMか?」
「いえ、あそこは商売敵や。向こうの購入先と話しつけてます」
「ここが買えんやったら間口が取れんからな。時価で20億は吹っかけるわな」
 どうもこれだけで手打ちになったようだ。
 先ほどの優男の頭が私の名刺を見ながら、
「一度ゆっくり飲みたいな」
と妙な言葉を漏らす。
 












糸口 6

 不覚にも調査のバーで飲んだ水割りに酔ってしまって眠ってしまった。いつもは疲れで寝込んでしまうのに、妙な感触で目が覚めた。だが、夢の中かどうか確信がない。カーテンからのアーケードの灯が淡く差し込んでいる。黒い影が私の下半身に取りついている。誇張したものが張り裂けて液を噴射する。
 私は堪えるようにその影の肩を掴んでいる。夢ではない。
「電気をつけないで」
 確かにサエの声だ。そのまま濡れた唇が吸い付いてくる。自分の臭いが充満する。イサムは小さなサエの体を抱きしめる。
「隠していることがまだ一杯あるの。このまま抱いて眠って」
 まるで夢のような朝にサエを見るといつもの布団の中ですやすや眠っている。
 今日は朝から親分に昨日の調査結果を見せる。
「地上げが残っている部分は?」
「この地図の赤い線で囲った区画です。後は閉められたアパートと駐車場です。甲区は東京の会社に移転されていて、乙区にはITMファイナンスがついています」
「この部分は土地と建物が同一の個人ですが、6軒店が入っています。でも営業をしているのはこのバーと組事務所だけです」
「バーは流行っていたか?」
「閑古鳥が鳴いています。でも立退きの金のために頑張っているようです」
「よう調べたな。明日に借主と会う。お前も来るか?」







糸口 5

 朝目覚めると、卓袱台の上に週刊誌が積み上げられていた。ボンが届けてくれたようだ。その上に小さな便箋が乗っていた。
『ごめんなさい。口もきかないで。本当はイサムが大好き!』
 便箋の余白に涙の滲みがあった。
 新聞で見た限り、ITM事件は大手の商社の子会社のファイナンス会社の膨大な貸付のようだ。伊藤はそこの役員で社長より権限があるらしい。元々親会社の商社の支払いを手形での支払から支払通知書にしたのを、下請けは手形割引できずこのファイナンス会社で高金利の融資をしたところから一躍伸びたらしい。そこから地上げ資金、M&Aなどの際どい銀行の隙間資金を扱うようになったようだ。
「当社でもITMのような支払い通知書貸付はできないのですか?」
 借入希望先が帰った後、親分に聞いてみる。
「通知書はただの紙や。担保にならん。焦げ付きになったら取りようがないわ」
「これも伊藤の考えですか?」
「彼奴にはそんな頭はないわ。後ろにはもっと賢い奴がいる。ところでこの地図の謄本を全部あげてきてくれ」
 ミナミの道頓堀の近くだ。
「それとその中にあるバーに寄ってきてくれ。店の状態と地上げの話を聞き出してくれ。領収書は取るんだぞ」
「貸付ですか?」
「ああ、馬鹿息子が持ってきた。それだけに要注意や。久しぶりに気合の入る話や。貸付先がミナミの組関係の会社や気付けなあかん」
 事務所を出ると法務局を回って60筆の登記を1時間半かかってあげる。それから8時頃の暇な時間にバーに入る。今日はあまり飲まず夜にサエと話したいと思っている。












糸口 4

 初めてボンの親父の本店を覗いてみようと言う気なった。夜はサエも仕事だし外で食事を済ますことにしている。大半はボンの女将の店のカウンターでビールを飲みながら9時頃に戻って風呂に入って寝てしまう。サエは12時前に戻ってきて風呂に入って1時頃に寝るようだ。朝は10時頃まで寝ているようだ。
 暖簾を思い切ってくぐる。入る席がないくらい混んでいる。しばらく呆然と立っていると、ボンを強面にしたような親父が隙間に入れと言うような仕草をする。ボンの姿を探すが、カウンターの中には見たことのない顔しかない。
 造りをあてにゆっくりと飲みながら新聞を追って目を通す。いつの間にか8時になるとあっという間に客が引いていく。そのうちに親父もカウンターを出て板前も調理場の整理も始めている。
「始めてやな」
 肩をポンとたたいて入れ替わりにボンがカウンターに入ってくる。
「親父は8時に帰る。ここからは2人で10時まで店じまいをするんだ。客は本当の常連しか来ない」
 ボンは要領よく皿とグラスを洗っていく。
「あのやくざの話を調べてみたんだ」
 新聞を広げて見せる。
「どうもITM事件として特集にもなっている。ここに出ている伊藤と言う男が絡んでいる」
「そう言えばこの週刊誌も特集している。明日でも集めてみるよ」
「もちろんどんな役回りで絡んでいるか分からないので慎重に調べてみる」
「サエにも詳しく話してやれよ。心配しているから」
「でもないよ。口をきいてもくれないんだ」
「あれは焼きもちだ」









糸口 3

「だいぶ慣れて来たな?」
 姉さんと集金から戻ってくると、親分が
「座れ」
と言って調査ファイルを手にお茶を飲んでいる。姉さんはそのまま労務者を迎えに出かける。
「謄本も決算書も読めるようやの」
「ちょっと聞いていいですか?」
「おい、コーヒー入れたれ」
「伊藤って聞いたことありますか?」
「伊藤と言っても分からんがな」
「金融界で伊藤と言うと有名らしいのですが?」
「彼奴か」
「20年前は大阪をうろうろしてた。金融ブローカーや。ここの事務所もよう来てたな。大体怪しい貸し付けが多かったな。最近は東京で新聞を賑わせているようや。番頭そこの新聞の束を取ってやれ」
 新聞を広げると指をさす。
「ITM事件と言うのですね」
「会社のM&Aや地上げ資金を触っているらしいな」
 東京から逃げて来たのか。
「まだ疑惑段階だが、いずれ警察が動くことになるな。新聞が書きだして騒ぎになってから警察が動く。それから税務署やな。新聞が騒ぎ出したら納め時やが、このタイミングが分からん奴が多い」
「この新聞貰ってもいいですか?」
「紙くずや持って行け」








糸口 2

 姉さんに頼んで兄貴の組の小頭を紹介してもらった。彼は女房に小料理屋をさせていて、姉さんから親分に話してもらって開店資金を借りていた。その集金は組事務所ではなく小料理屋に行く。それでその店に9時から会うとになっている。
 カウンターにすでに酒を飲んで座っている。女将は可愛い感じの年上で、小頭はやくざと言われないと分からない剽軽な顔をしている。
「これはちょっと貸付の関係なので内緒にしてもらいたいんです」
「貸付やってるのか?よろしく頼むわ」
「それで最近関東のやくざ来ましたね?」
「ああ、組長と会った」
「頼みごとをしたと聞いてます?」
「詳しいな。どうもな、やくざにその男をはねる依頼したようや。殺す気はなかったようや。怪我したところを身柄を押さえる気だったみたいや。それが戻ってきたときは姿がなくなっていたわけだ。そのやくざも詳しいわけを聞かされてなかったようで、戻って報告をしたら指を詰めろと言われたらしい」
 女房が酒を注いでくれる。
「これはちょろっと言いよったが、伊藤ちゅう奴が絡んでいるらしい」
 どこかで何度か聞いた名前だ。
「その伊藤は?」
「詳しないがな、貸金の世界では有名らしい」
 貸金、伊藤・・・。








糸口 1

 日曜日ボンとモーニングを食べる。サエは今日も押し黙って隣の席でサンドイッチを抓んでいる。一緒に食べに来るまでにはなったが、相変わらず機嫌が悪い。
「あの関東のやくざ店に来たんだ」
「あの女将の店?」
「いや、親父のしている本店の立ち飲み屋だよ」
「学校から帰ってきたら手伝っている。ビールの入れ替えや皿洗いだけど」
「ここの親父は息子を丁稚としてか思っていない」
 サエが独り言のように言う。
「やはりイサムを探してると思う」
「何か話していたの?」
「どうも関東対関西ではないらしい。関西のやくざにも頼んでいるようだ。この通りの奥の組にも挨拶に出かけたようだった」
 姉さんの兄貴のところだと思った。
「あのトンネルの前で車にはねられた男と言っていた。はねたと言っているのははねた側の人間だと思う。大きな病院はすべて回ったようだ。親父に小さな病院を聞いていた」
「それでやぶ医者のこと言ったの?」
「いや。親父は係りたくないタイプだから言わない」
「やくざの抗争?」
「そのやくざも頼まれ仕事のような口ぶりだった」








生活 3

 サエはこの3日間口をきいてくれない。
「あのな、こういう場合調査するのは分かるか?」
 親分が帰って行った店の女の後姿を追いながら言う。
「決算書は当てにならないぞ。このおしぼりやを調べてみろ。おしぼりの数はごまかせない。わしの名前を出せば教えてくれる。それから集金の帰りにこの店を覗け。領収書を貰ったら落としてやる。延長はするな」
 親分のそばでこの3日間貸付先と会う。貴重な話を聞いていてメモを取る。それから問答があって調査を担当する。
今までは会計の番頭の仕事だったが、彼奴のはセンスがないとの親父の評価である。どうもこの貸付が裏稼業で儲かるようである。
「あのカラオケバーに飲みに行く?」
 集金の終わりに姉さんが声をかけてくる。
「いえ、これから貸付先の調査に行きます」
 別れると地図を取り出して本通りをまっすぐ抜けていく。店の看板を確認してドアを押す。
 割れるような音楽が流れていて、薄暗くてしばらく部屋の中がよく見えない。入口で3千円を払い嫌がるのを領収書を貰う。ボーイがビールを運んできて、すぐに小太りの女が座る。
「後ろに入る?ええことしたげる」
 更に6千円を取るようだ。でも結構この時間でもカーテンに入る客はいるようだ。
「退き!」
 女の声がして小太りの女を弾き出す。
「延長はせいへんで」
「何言ってるの会いに来てくれたんと違うの?」
 黒髪の女だ。
「指名の金は持つから入って」
 さっそくズボンを脱がせると口に含む。
「今日は後ろはだめなのごめんね。あれからまたやぶ医者の治療中。オナニーしてきた?」













生活 2

 親分がサエの勤めているカラオケバーに入る。夜にここに入るのは初めてだ。サエは気が付いたようだが親分のカウンターの前に着く。親分が姉さんと私を横に座らせて周りにいる女に酒を飲ませる。どうも指名客のようなシステムになっているようだ。寿司などは近くの店から取るようだ。
 いつも間にかあの時の流し目の女が私の横に座って肩に手を回す。姉さんの目はサエを捕らえている。この女はそう言う動物的な感が働くようだ。
「サエ、あの曲をやってくれ」
 親分の指名でマイクを握る。初めてサエの歌を聴いたがプロ並みだ。
 姉さんはサエの指を掴んで離さない。
「アヤって言うの」
と小さな名刺を出してくる。どうもカウンターの中と外の女の動きが違うようだ。
「今日は初店のサービス」
 言うなりズボンのにチャックから細い指が忍び込んでくる。ボックス席も同じようなことをしている。
 サエの目がさらに突き刺されるように向けられる。この雰囲気はたまらない。でも男はキンキンになっている。どうもこうした生活に慣れてきたのだろうか。堪らず噴出したものをアヤは隠そうともしないでティシュで丁寧に拭う。これはいかにもまずい。
 次は親分が古い演歌を歌いサエにマイクを渡す。これもうまい。
「明日から貸付をやってみるか?」
 親分が真顔で言う。
 姉さんがサエの指を舐めている。






生活 1

 仕事はずいぶん慣れた。姉さんの一言で8割の日払いが1万円になった。朝夕の送迎トラックはなくなって、集金の後は会計の手伝いをする。不思議に計算を覚えているのだ。それに初めて触るパソコンも自然と指が動く。
「イサムはサラリーマンやったかも」
 姉さんが隣から覗き込む。親分はソファにもたれて帳簿を見ている。
「ちょっと来いや。二人ともや」
「今からこの店見てこい。2か月払いが止まってる」
 姉さんの後からついていく。
「萩に茶屋までちょっとあるよ。親分は昔から貸付もやってるの。この専門の担当もいるけど舐められてるからね」
 通りを何度も曲がって飲み屋に着く。ドアを開けると客が1人だけで、暇そうに女がカウンターにいる。姉さんはまったく気に掛けるふうもなく奥のドアを開けて入る。大きなテレビが部屋の真ん中に置いてあって、労務者たちがビールを片手に群がっている。その一番奥に髭ずらの男が木の枠の中に座っている。
「ボートのノミや」
「兄ちゃん舐めたらあかんで!毎月のもの入れな」
「親父に言ってくれや。博打屋が博打にはまってるんやしょうないで」
 姉さんは急に引出しをあけて、
「親父に言っとけ。質にこの腕時計預かるわ」
と金ぴかの腕時計をポケットにしまう。
「今日は親分と付き合いや。イサムも来るんや」






黒鞄 7

 最近うなされるような夢を見ていた。朝起きると股間がねっとりしている。
 サエが起きるまでに下でモーニングを食べてそのまま三角公園に出かける。最近は姉さんとは別のトラックにも乗る。集金はまだ姉さんと一緒だ。ずいぶん要領もよくなって昼は40分ほど休める。今日は食事後取り立てに行くと言う。
「イサムは黙って立ってればいいよ」
 そう言われて組事務所のドア越しに立っている。
「組長は?」
「外に出てます」
 チンピラがだらしなくソファにもたれて言う。
「車も、靴もある。手間取らさんでなあ。2階やろ上がるで」
 奥の階段を上っていく。私も恐る恐る後ろを付いていく。
 窓を閉め切った部屋にライトが眩しい。男優が縄で吊るした全裸の女の口に自分のものを押し切んでいる。
「もっと押し込むんだ!」
 ゲロを吐くシーンをアップしている。続いて前の穴に挿入する。サングラスをかけたカメラマン自身が横の女にカメラを渡して女の後ろの穴に突っ込む。周りに客が10人ほど取り巻いている。女はあの黒髪の女だ。視線が合う。
「ここまでや!」
 40歳すぎの組長が立ち上がる。
「お前も下で待とれや仕事場やぞ!」
と言いながら手提げ鞄から100万束を出している。
「時間をかけないでよ!」
 集金を終えると全く動じることなく外に出る。
「イサム、ちんぽ立ってるで」
 ズボンの上からぽんと叩かれる。








黒鞄 6

「親分が娘と仲良くやっていると言ってたけど?」
 今日は初めての休日でサエと久しぶりに下の喫茶店でモーニングを食べる。
「気になる?」
「うちは妹よ。それより親分が言うのには彼女は後妻の子だって。元々親分の店のホステスだったらしいよ。兄は腹違いで何度か刑務所を行き来していて今は飛田の近くで組事務所を張っているようよ。なかなかの悪で評判よ」
 ボンは休みがないのかやはりリヤカーを表に留めて入ってくる。
「調べてきた」
 そう言って黒鞄に入っていた鍵をテーブルに置く。
「これはマンションの鍵じゃなくて、銀行の貸金庫の鍵だそうだよ。コピーは難しいらしい」
「どこの銀行かしら?」
「警察に行って手配写真を見て来たけどイサムの写真は出てなかった」
 ボンは頼まれたことを先に言ってしまいたいそうだ。
「ただ刑事が関東の組の者が人と探しに来ているということを言っていた。関西の組との出入れの噂も流れていると言ってた」
「それ気になる」
「救急病院にも探しにきたみたい」
「それよそれ!」
「やくざに追われているのか?」
 どうもやくざ者のようだ。
「でも刺青はないよ。当分髭だね」







黒鞄 5

 陽が沈んでようやく労務者の迎えも終わり事務所で8千円を貰う。現場事務所に様々な仕事をしてきた男たちが日払いの金を手に外に散っていく。相棒の先輩に会計の作業服の男が声をかける。
「姉さんたまには付き合ってくださいよ」
「男の腐った奴とは飲まん!おい新米付き合えよ」
 思い切り襟を引っ張られる。
 サエのカラオケバーの通りから路地に入る。
「珍しいねえ。男連れとは?」
 コップに冷酒が注がれる。
「女だったんだな」
「気に入らない?」
「いや、背は?」
「165センチある」
「ショートカットなので分からなかった。でも真正面から見ると美人だな」
「どつくよ」
「大学出てるのよ」
 横から声が入る。
「親父から聞いたけど、記憶がないのよね?」
「そうらしい」
「今腹違いの妹さんと暮らしてるって?」
「ああ」
「男に生まれたかったの。でもここにいる男たちじゃなくて仕事のできる男よ。ほんとはね、商社に入ろうと思っていたんだけど」
と言いながら、もう3杯を空けている。















黒鞄 4

 翌朝書いて貰った地図を持って三角公園に着く。
「よし、まずは合格や。この袋に入った作業服に変えてメットを被って戻って来い」
 事務所に入ると熱気が凄い。着替えると慌てて親分を探す。親分の周りに同じ作業服の男たちが並んでいる。親分がステッキで私の背中を押す。どうも同じように並べと言うことらしい。居酒屋の顔とは別人だ。親分の後ろに労務者の長い列ができている。
 30分ほどかかって長い列を親分が指揮者のように5つに分けていく。
「よし今日はここまで」
と言う声で労務者は別の列の方に走ってゆく。
 私は急に襟をつかまれて列の前を歩かされる。後ろの男が襟を引っ張っている。公園の端に来るとトラックに労務者を乗せていく。男は無口でアクセルを踏む。30分かかって建築現場に着く。30人ほど乗せている。
「5千円をみんなに渡せ」
 その声に慌てて渡された5千円の札束を配る。
「夕方にもう一度迎えに来る。残っている奴に5千円を払う」
 面倒臭そうに言う。
「これから戻ってもう1往復。それから集金に回る。パチンコ店が3軒、飲み屋が7軒、麻雀屋が2軒、これだけを3時までに済ます。それから朝の奴らを迎えに行く。集金は金を数えてこのノートに記入する。金を数えたことは?」
「分からない」
「困ったおっさんやな!また親父飲み屋の女に頼まれたな。これは昼飯は15分や」











黒鞄 3

 サエの紹介でボンの女将の店で親分と会う。この親分はよくサエの働いているカラオケバーに来る常連らしい。西成では有名な口入屋らしい。
「現場はだめよ」
 サエが70歳くらいの親分にきつい口調で言う。
「何ができる?」
「よく分からないのですが?」
「困った奴やなあ」
 昔は相当暴れたような顔が笑う。
「親分、記憶がないの」
「じゃあ仕事できんやろ?」
「自分のこと分からないだけで結構普通の記憶はあるようなの」
「なら明日から顔を出してみな」
と言って2本目のビールをコップに注ぐ。
「三角公園の事務所やね。明日連れてく。何時?」
「きっかり8時だ。それから関係は?」
「腹違いの兄なの」
「それで安心した。わしがもうちこっと若かったらねいちゃんとやりたいからな」
「もうちんぽたたんやろ」




黒鞄 2

「中は見ていないよ」
 サエが押し入れから新聞紙に包んだ黒鞄を出してくる。ずいぶん使い込んだ鞄で腹に巻きつけるようになっている。確かに見覚えがある。リヤカーで運ばれる時も無意識にこの黒鞄を抱えていた。ただこの中に何が入っているのかは覚えていない。
「開けて見てよ」
 最初に掴み出したのは封に巻かれた札束が2冊と1万円札が7枚。
「強盗したのか?」
「あなたのかもしれないよ」
 どうもお金だけなようである。
「もう少し調べてみたら」
とサエが鞄の中に手を入れて探る。
「何かある!鍵ね。マンションの部屋の鍵とか?」
「少しサイズが違うようだな」
「免許書とかそんなものが入ってるかと思った」
「取りあえずこの金で借りている金を支払っておくよ」
「だめ!」
 口をとがらせて言う。
「盗んだお金なら返さないといけないし。返されると縁が切れるようで嫌」
「妙なこと言うな」
「初めて自分のものができたのに。10歳から今まで一人ぽっちで寂しかった。こんなこと話させないでよ」
 大きな瞳から涙があふれてくる。








黒鞄 1

 あっという間に一月が過ぎる。折れた指も動くようになった。サエとはどうしてか男と女の関係にならない。どちらかというと妹のような感情がある。サエの休日には最近は二人で勤めているカラオケバーに行くこともある。サエは同僚に腹違いの兄だと言っているようだ。一番端のカウンターに並んでかける。
「どうして髭を剃らせない?」
「イサムはあの日のことをどう思っている?」
「ボンは事故だと言っているよ」
「うちはこの目で見ている。留まっていた車が急発進して、青信号になっていないのにイサムに向かって走り出した。ぶつけたのに後ろの乗っていたサングラスの男が観察するように見てた」
「何かなあ、相当の悪者だった気がしている」
 すでにあの黒髪の女と二度寝ている。プレイが旨いと言われている。体に何かが染みついている。
「何か思い出した?」
「いや」
「悪者でもいい。でも本当の悪者は目でわかる」
 横に流し目の女が座る。
「お兄さんでしょ?」
「ちょかいせんで!」
 吠えるに言うサエに驚いて立ち上がる。
「あの人は危険なの。横浜のやくざの男から逃げてきている」
 サエが小声で言う。
「イサムに隠していることがある。イサム、黒鞄覚えている」
「いや」
「血を流しながらも抱えていたのよ。ひょっとしてそれを開けたら記憶が戻るのが怖い」
「ならずっと隠しておいたらいい」






















始まり 8

 抜糸の日になった。下の喫茶店で3人でモーニングを食べる。サエは阿倍野まで買い物に行くと言う。
 病院に入ると診察室にカーテンがかかっていて、ぼそぼそ話声がする。ここは看護婦もいない。ライトの光がカーテンに浮かぶ。
「どちらも使えるね先生?」
 女の声がする。
「また撮影はだめだ」
 どうもあの時の蒲団に包まって震えていた女性らしい。あの時の尻の穴の光景が浮かんで記憶を失ってから初めて勃起した。頭は確かに忘れていない。
 30分待って入れ代わりにカーテンの中に入る。やぶ医者は淡々と糸を抜いていく。それから折れた部分を見て、
「順調や。金はサエに昨日貰っている」
と言うが、サエは昨日ここに来ていたのだろうか。
 30分ほどで終わって路地に出る。どうしたものか先ほどの黒髪の女が出てきて腕を捕まえて奥まったホテルに飛び込む。思い切り唇を押し付けてきてズボンを握る。思い出したように勃起する。それから口に含んで前に押し込む。はち切れそうになると後ろの穴に入れ替える。
 これは体が覚えている。私はどんな男だろう。
「あなたは経験があるのね?初めからそんな気がしていた」
 黒髪の女は震えるように言う。
「時々会ってね。お金は全部私が払う」
と言って源氏名の名刺を渡す。












始まり 7

 今日は朝からサエは出かけている。どこに行くとも言っていない。彼女から貰ったこの町の地図を持って朝から歩き回る。サエのマンションの裏側には飛田の色町がある。声をかけられながら隅々まで歩くとカラーマジックを塗りつぶす。そこから通りに出て商店街の中を歩く。この先にやぶ医者の病院がある。そこに印を入れる。
「今日は一人?」
 背中から声がかかる。リヤカーを押しているボンだ。
「昼一緒にしてくれる?」
「ならついてきて」
 あの女将の店にビール箱を運び込んでカウンターに掛ける。
 女将が黙って私だけにビールを抜いてくれる。
「サエについて聞きたい」
「そんなに知ってることはないよ。話したがらない」
「10歳の時にボンが拾ったんだな?」
「そうや。あのやぶ医者の所に運んだ。凄く病院に行くのを嫌がった。どうも風邪だけではなかったようだった。しばらく歩けないであそこで寝ていた」
「やぶ医者から何か聞いた?」
「いや口が堅い」
「サエは幾つだ?」
「それも言わない。ただ年下だと思う」
「では私は?」
「30歳少し上かな?」
 女将がカウンターから魚の煮つけを渡しながら言う。
「でも彼女よく同じ部屋に泊めたね」
「イサムという名をくれた」
「恋人という歳じゃないから、きっと父親の名前かもね。これは女の感!」






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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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