空白 2017年06月

背中が見える 4

 サエは最近は夜中になっても戻ってこない。急ぎの衣裳が持ち込まれたようで店を閉めてからミシンをかけているようだ。どういう訳か姉さんが詳しい。仕事が終わってボンのいるだろう喫茶店を覗いても見つからない。女将の店を覗くとボンの彼女のフミコと映画を見に行っているということだった。
 ジャンジャン横丁にも出てみようと信号を待っていると思い切りタクシーの中に引きこまれた。これはぶつけられた交差点だと慌てた。そのままタクシーがラブホテルの中に入っていく。
「カノンや」
 部屋に入って顔を見ると黒髪の女だ。そのまま服を脱ぎ捨ててズボンのチャックを下げる。
「汚いぞ!」
「この臭いがたまらんの」
「喉まで入っているで」
 顔が真っ赤だ。もがく声に白目をむいている。手を解こうにも離さない。イサムのものが勢いよく弾けた。
「凄い!溜まってたね。彼女してくれないのかしら?」
「どうした?」
「さっきまでホテルで撮影してたんだけどあんな男大嫌い。後でゆっくりやるね。ビールでも飲もうか?」
「吐きだせよ。不味くなるぞ」
「飲み干すの」
 どうもこの女といるとおかしくなる。2本目を空けるとカノンも落ち着いて来た。煙草を取り出してふかしている。
「そうそう、今日の組の男あんたの写真を持っていたよ」
と言って鞄から出す。
 今度のはマジックで写真に黒ひげが塗られている。








スポンサーサイト

背中が見える 3

「着きましたで」
 白いベンツの後ろでやっさんと2人して眠りをしていた。若頭の運転手が声をかける。いつの間にかタクシー会社の本社の門をくぐっている。やっさんは少し上品な背広を着ている。私はいっちょらのスーツにワイシャツの襟を出してチンピラだ。やっさんは社長室に入ると若頭に貰ってきた少し名の通った不動産会社の部長の名刺を出す。若頭の名前で面会を取っている。
「隣の土地はそちらの組でしたんか?売ってくれと言いはってもあきまへんで」
 後ろに屈強な京都の組らしき男が立っている。
「そうやないんです。売りたいと思ってます」
 私が鞄から区画図を出す。
「いや許て言う人が何度も売ってくれと来られるもんで。そちらに持って行きはったら?」
「それは不味いらしいんですわ」
「まあそうですな。でもなんで売はるんでしゃろ?」
 やっさんが詰まってこちらを見る。
「道路に面してない土地ですから」
「その通りでんな。でも金のなる土地やという評判ですよ」
「いえ線引きの話はいつになるのか分かりません」
「そうですな。あんたどこかで会った顔してはるな?」
 私もそんな気がしていた。
「一度検討してみまっさ。指値でよろしおすな」









背中が見える 2

「やっぱりこの区画図面は何度も見たことがある」
 今日は一日中事務所の中に籠って姉さんと話し込んでいる。親分が持病の痛風が起きて昨夜入院した。朝病院から戻ってきた姉さんが親分からの伝言を伝えた。そろそろ姉さんが全般を見るようにと言うことだ。その補佐役を私に任せると言うことだった。
「人夫出しとビルと店舗管理と貸付で3等分ですね」
「人夫出しは私がやれるけどビルと店舗管理と貸付は苦手やよ。イサムが何とかしてよ」
「ええ、ビルと店舗管理は課長のカメさんがいいのではないかと思います。前の番頭が苛めていたのですがちょっとどんくさいですがきちっとしてます。全体は私が見ます。それよりあの番頭が気になりますよ」
「私も思てる。その横の地図なんやの?」
「これは京都の駅裏の地上げですよ。若頭に調べてくれと言われて見てるんですが記憶に残っているんです」
「それやったら知ってる。3年前やったかな」
と言ってごそごそ未決案件のファイルを探している。
「これや。兄貴がこの土地を買うてと持ってきたんや。3億でその細長い隣の部分の黄色の土地や」
 一斉にこの辺りの土地が買い占められ始めた時期だ。
「親分が現地に言ってやばいところやとダメだししたけど」
 週刊誌の切抜きが張ってある。
「その土地を含めて地元のタクシー会社が買い取ったと・・・。ここはS銀行がタクシーの駐車場で融資した・・・」
 口に出して読んでいてその時車からよたよたと歩いてくる野良犬を覚えている。
 それでやっさんの事務所に電話を入れて若頭に伝えてもらうように言伝を頼んだ。
「隣のタクシー会社に売るのがいいと」


 



背中が見える 1

 どうしたのか初めて病院から戻った夜に女を抱いている夢を見た。お尻を大きく突き出したら、そこにぽっかりと10円玉のような穴が開く。すらっとした足を抱えるようにしてそこに差し込む。最初ぎゅと締まるが後は吸い込まれるように入って行く。女が横顔を歪めるように振り向く。どうしたことかあの『白薔薇』のママの写真の顔だ。
 今日は退院を待ってたと言う若頭に呼ばれて、昼過ぎに金融会社の事務所へ白のベンツの迎えが来る。部屋に入るとすでにやっさんも来ている。
「大変やったなあ」
 鋭い目つきをしている。
「こいつはなあ。本家が手付けてる京都の駅裏の地上げ物件や。もう2年になるが20億が無駄金になっている。こちらも1億融通させられている。やっさんに調査させたがこちらの周りを許と言う男が買いまくっているようや」
「許の後ろは伊藤や」
 やっさんが地図を広げて見せる。どこかで何度も見た記憶がある。
「ITMファイナンスが35億、Kファイナンスが8億出している。完全に取り囲まれたようや」
「接道部分は?」
「ない。もともと前の話があって乗ったのやが、許に先を越された。持ってきたブローカーが繋がってなかった」
「この向こう端は誰が持っているのですか?」
 塞がれていない個所が1か所ある。
「やっさん至急調べてくれ」
「この書類コピー貰えませんか」
 どこか記憶に引っかかるものがある。やっさんはもう部屋を飛び出している。
「今調べているとこやが、あんたがS銀行にいたと言う東京の社長がいるんや」






新しい一歩 8

 翌朝、サエが新聞を買ってくる。
 昨日のミナミの発砲騒ぎが記事になっている。だが発砲した3人組は姿を消したらしく警察が捜査中とある。また撃たれたという人物も姿を消したとある。サエが傷口を押さえてタクシーで走ったのだ。事務所に休みを伝えるのと新聞記者の名刺を渡して簡単に昨日の話をしてここに来るように頼んだ。
 夕方やっさんと記者がやってきた。
「えらい目にあったな」
 やっさんも手に新聞を丸めて持っている。
「今朝チンピラが拳銃を持って自首して来ましたよ。関西のやくざと言うことですが、喧嘩と言うことになっています。だが屋台の親父に会って来たんですが、この写真の男を見つけたと連絡したようです。もちろん警察にはオフレコです」
 記者が髭のない私の写真を出す。
「若頭に聞いたんやが、この組は関東系や。関西系にはこの写真は回ってないそうや」
「これもあの屋台の親父に聞いたのですが、騒ぎに後サングラスの男が訪ねて来たそうです。しばらくミナミは鬼門ですよ。それとこれは頼まれていた『白薔薇』のママの写真です」
「ええ女やなあ」
「男ですよ」
 サエどことなく似ているが表情が冷たくて背が高そうだ。
「東京の記者に聞いてみたのですが、今はこのママと伊藤は男女の関係ではないようです。パトロンは分からないということです。それに伊藤は近々にITMファイナンスで背任になると噂で先にその記事を出すことになります。ただ大株主のS銀行がもう一つ乗り気ではないのです」






新しい一歩 7

「ボンやっとやったみたいよ」
「そんなのサエに報告するか?」
 飽きれてサエの背中に声をかける。今日は二人にとって初めての日曜日だが、ミナミに端切れの買い出しに駆り出された。物色に3時間ほどかかると言われて仕方なく街の中をうろつく。裏道を抜けていくと道頓堀の馬券売り場に出る。しばらくオッズを見ているがさほど興味がわかない。裏道の屋台に入ってビールを頼む。サエの入っている店から100メートルも離れていない。
 2本目を頼もうと親父を見るがトイレにでも行ったのか姿がない。隣の労務者が小銭を置いて席を立つ。私もそれにならって小銭を置いて暖簾を出る。路地を元来た道に歩き出す。
「おい!」
 後ろから3人組が羽交い絞めにしてさらに狭い路地に押し込む。
「金は置いてきたで」
「そんなんどうでもええ。顔見せえ!」
「兄貴、本人やろ?」
 兄貴が上着のポケットから写真を出す。
「賞金首や」
 その声に思い切りあの兄貴の体に頭をぶつけた。それから両手を振り回して路地に出る。一人が足に飛びついてくる。それを辛うじてかわすともう一人が飛び掛かって来るのにこちらから体を当てる。路地から出てきた兄貴とちらりと目が合う。ピストルを構えている。思い切り走りだす。バンと音がして体が宙に浮く。
 目が覚めるとまたやぶ医者のベットに寝ている。サエが涙を浮かべてこちらを見ている。
「ごめんや。連れまわしたから見つかってしもた」
「脇腹の端を貫通してる。もうちょっとずれてたら骨がバラバラや」
 やぶ医者が血の付いたガーゼを洗面器に入れる。












新しい一歩 6

 オープンの日の昼にサエの店を覗いてみた。狭い玄関の入り口に親分の花輪が出ていた。私はせめてもと思い観葉植物の鉢を買ってきた。サエは若いお人形のような服に身を固めた女性2人と話している。客が全く入っていなければどうしようと思っていたがほっとして店の中を見渡す。奥に新しく買ったミシンが置いてあって作業場を兼ねている。
「お客さんだから行くよ」
「違うの。前に言っていた兄貴よ」
「へえ、紹介してよ」
と笑いながら出て行く。
「飯は?」
「一人だからここで食べる。コーヒー入れるよ」
 そうしているとおしろいを塗った若い男衆が風呂敷を抱えて入ってくる。 
「サエちゃんおめでとう!今日は修繕が3着に、派手な着流しの新調を頼む。座長の好みで頼む」
「分かってるわ」
 なぜか別人のようである。男衆が封筒を出して渡す。サエはそのお金を数えてそばの空き缶に入れる。客が出て行ったので声をかける。
「レジは置かないのか?」
「大した出入りがないからこれで十分。今のは修繕だけで23000円。でも芝居小屋の得意先が4軒あるのは助かるわ」
 サンドイッチを食べているともう客が入ってくる。一度カラオケバーで見た顔だ。美人だがどこか男の匂いがする。そのまま後ろのカーテンの中の入る。仮縫いを知るようだ。
 私はコーヒーを開けるとそうそう出る。自分もしっかり働かなければ捨てられるという妙な気持ちになっている。
 









新しい一歩 5

 朝押入れから出してきたパソコンに触れてみる。記憶は現れないが、指が自然にキーボードを押している。
「文字を打ち込んでいるよ」
 ひょとしたら銀行員だったのかも?これは少し前から抱いていたものだ。ただ今追いかけている記憶には危険な臭いがついて回る。だからサエにはまだ伏せている。
 今日はあの記者と事務所の近くの喫茶店で会うことにしている。
「関東のやくざを調べましたよ」
 椅子に掛けると写真を出す。
「これは当社の東京の記者が撮った写真です。組長の車の横に立っている男があなたを狙ったサングラスの男じゃないですか?」
「間違いないです」
「この男は関東最大の組長の運転手で組のナンバー3と言われています。裏の事件で動くという噂です。伊藤ともゴルフをやっているのも分かっています。伊藤と組長の繋ぎ役と見ています」
「あのゲラは記事になるのですか?」
「まだキャプからストップがかかっていいます」
「どうしてですか?」
「伊藤は悪役としてスポットが当たっていますが、S銀行の頭取は影に隠れています。ここで出してしまうと影は消えてしまいます。何を持って脅しているのかを掴まないとダメです」
「それのキーは?」
「それはあなたの記憶です。だから私はあなたの記憶に支援します。その代わり特ダネをください。もちろんキャップにもあなたの存在は伝えていません」
「ここ3か月前のS銀行頭取の周辺で私を探して下さい。それと『白薔薇』のママの写真をください」
















新しい一歩 4

 今日は事務所の前でサエと待ち合わせをしている。サエは朝から新しい店のリフォームの打ち合わせを済ませてると言う。昨日10日早く契約を終えた。
「えらい別嬪がいてるで」
と親分が笑いながら、
「帰れ!」
と言う。
 珍しくサエがジーパンに無地のセーターを着ている。
「高校生みたいやな」
「化粧せんから」
 今夜はボンと彼女と4人で飲むことになっている、ボンが飛田新地で得意先の小料理屋を予約してくれている。店に着くともう2人は来ている。
「フミコ言います」
 サエのねいさんの様な感じだ。でも何となく気が合いそうだ。新たらしい店の話をサエが散々してビールを飲んだ。何やら女同士でくすくす話している。いつの間のか9時になっている。清算をして後から店を出る。
「何彼女と話してた?」
「ボンとやったかって聞いたの?」
「大胆な奴やな」
「ボン奥手やから。まだ言うとった。うちらはもうやったで言うた」
 何だか嬉しい気持ちになって聞いた。
「パソコン使ったことがある?」
「いや分からへん」
「押し入れに中古あるんや。これで仲間とやり取りしている。明日触ってみる?」





新しい一歩 3

 サエは明日からカラオケバーを辞めると卓袱台にメモを残して出かけた。なぜかどんどん取り残されていくような気になっている。
 今日は親分の供で貸付の相手に会いに出かける。タクシーを呼んでミナミの道頓堀の西のどん詰まりまで入る。アヤと入ったホテルが近くにある。構えからするとソープランドと言うらしい。フロントを抜けて屋上まで上がる。
「わざわざすまんのう!」
 親分と同年代のスキンヘッドの親父が椅子に胡坐をかいて座っている。若い30歳くらいの女が肩をもんでいる。昔この建物を買う時に親分が貸したと言う。当時5億だったようで、3億を5年で貸したが3年で返済したと言う。事前に謄本を上げたが今は無担保だ。
「なんで儲け頭のこのソープを売るんや?」
「来年にはこの辺りではソープが出来んようになるということや。ホテルだけの評価じゃつまらんからのう。契約はしたものの風俗の許可で3か月かかるんや。今度はおとなしく北新地のレジャービルに乗り換えや」
「安全を見て6か月の短期か。所仮打つで」
 親父が契約書をテーブルに載せる。女がお茶を入れてくれる。親分の横から契約書を覗く。
「9億かええもんやな」
「『白薔薇』と言うたらニューハーフの店ですね?」
「若いの詳しいな。お釜とは呼ばんらしいわ」
これは週刊誌の記者が持っていた記事原稿の店だった。
「売買の日に立ち会わせてください」
「もちろんや」









新しい一歩 2

「サエに貸付するんですか?」
「ああ。貸付はイサムが部長になる前から決裁降ろしてるわ」
「書類見せてください」
 珍しく粘って貸付の書類を貰う。
「住民票や印鑑証明がついてませんが?」
 すでに親分は公園に人夫出しに出ている。姉さんが笑いながら、
「親分の貸付には昔からそんなのが付いていないのがたくさんあるわ。サエだったら取り立ては私がするよ」
 まったくだめだと思いながら書類に目を通す。
 心配だったので集金を急いでしてあの店の登記を上げに法務局に行く。それからたこ焼き屋の表札を確認に行く。間違いなくたこ焼き屋が所有している土地建物だ。先代から相続している。
 帰りにボンのリヤーカーに出会い女将さんの店による。あの彼女が皿を洗っている。
「サエが店を借りるの知っているか?」
「昔から口癖のように言ってた。阿倍野で店見つけたから調べてと頼んできた」
「服を作ってるのってホントか?」
「もう3年も前から劇団の衣裳の修繕をしているよ。休みになったら凄い衣裳で集まりに出かけてるよ。一度着せてもらって出かけたが、恥ずかしってありゃしない」
 なぜか話を聞いているうちになんだか心細くなってきた。今自分が愛しているサエが彼女の薄い影のように見えた。その夜はアルコールを一滴も飲まずサエが戻ってきたのを押し倒して抱いた。







新しい一歩 1

 今日はサエが私に合わせて休みを取った。ついてきてほしいところがあると言われて阿倍野のデパートの近くまで出てきた。心の中でサエをまた抱く予感で自然とむくっと大きくなっている。あの日からセックスは一度もしていない。
サエはそんな気持ちにはお構いもなく、ガレージが下りた小さな店のブザーを鳴らす。隣のたこ焼き屋から年配の女性が顔を出して下りたシャッターを開ける。
 中は洋服店のようで裸のマネキンが並んでいる。だが店を閉めて少しなるのだろう雑然としている。
「店広げるか考えたが不景気やからなあ。でもここで何しやはるの?」
「既製品で見つからんオーダーの女性服を」
「そんなん儲かるの?」
「小さな店ですから」
 あっけにとられているとサエは鞄から巻き尺を出してきて測りはじめる。私は仕方なく端を持ってうろうろする。
「取引は末でよかった?」
「はい」
「じゃあ。帰る時にまた呼んで」
と引っ込む。
「店やるのか?いくらかかる?」
「全部で800万かかる。ほんとはお金貯めるのに後3年はかかるけど、親分が半分貸付してくれるん。運転資金ももってなあかんと」
「そんな貸付の申し込み見たことない」
「でももう1か月前から決まってんのよ。イサムは押し入れの中覗いたことないのね。ここに来てから作った服が段ボールにぎっしりあるよ。それに可愛いミシンが」
 そう言えば店に行くまでのサエが何しているのかも知らないでいた。








過去のこと 6

 今日はボンから誘われていて親父の彼女の女将の店で飲むことになっている。ボンは立飲み屋の定休日のようだ。私は残業して小口貸付の整理をやっと終えた。
「いや珍しいな」
 店に入っていくとボンが女性と並んで座っている。
「夜間の同級生だ」
 どう見ても高校生には見えない。25歳くらいか。
「話してもいいか?親友だから」
 女性の耳元で囁いている、こっくり頷く。どう見ても姉と弟に見える。
「この子の再婚相手の親父が毎日セックスを求めて来るので、相談を受けていたが遂に家出をしたんだ」
「お母さんは?」
「どうも認めているようだ」
「親父は何歳?」
「39歳。母は48歳」
 小声で答える。
「しばらくこの店で寝泊まりして働くように頼んだ。でもうちの親父は認めない」
「ボンは最後まで彼女を守っていける?」
「ああ」
「君はボンでいいのか?」
「好きです」
「二人ともこの言葉を忘れるなよ」
 どうもサエと自分に向かって言っているような言葉に聞こえる。
「どんなことがあってもだぞ」
 









過去のこと 5

 今日は金融ブローカーのやっさんが寿司屋に記者を連れてきている。
「彼は週刊誌で伊藤の記事を書いている。今回記事の情報提供もしたので連れてきた。ちょっとあの未完成の原稿見せたれや?」
 言われて記者がバックから原稿を出す。
「これは初めての記事ですね?」
 もう飽きるほど週刊誌を読み漁ってきたが、この記事に触れた他社の記事はなかった。
「新宿に『白薔薇』という会員制のクラブがあります。ここは取材に出かけましたよ。ママは歳は30歳頃のニューハーフです。ちょっと女でもかなわないシャープな美しさです。彼女なら男でもと思いましたよ。取材には応じてくれませんでしたが、他の店の子に話を聞きました」
 クラブの入り口の写真を見て記憶を掠るものがあった。
「伊藤はここの裏のオーナーらしいのですよ。店の子に言うとママはオーナーと呼んでいるとのことでした。店の登記を調べたら、伊藤の妹名になっています。ここによくS銀行の頭取が御忍びで来ているということです。これは私の調査ではまだ頭取になる前に総会屋にいた伊藤と出会っています。想像ですが、頭取をここに連れてきたのだと思います」
「面白いやろ?」
「この時期から2年である日伊藤は縁のないITMファイナンスの役員になっている。これはS銀行の頭取になった功労賞の様なものです。頭取はITMファイナンスの企画を持っていたのだと思います。私は個人的に彼が日本バブルの火付け役と思っています」
「その伊藤と頭取が最近は仲が良くないと記事に出ていますが?」
「そうなんですよ。これも私の大いなる想像ですよ。ひょっとしたら伊藤が隠しカメラでママと頭取の絡むのを撮ったのではないかと」







過去のこと 4

 朝出勤しても心がどこか落ち着かない。ホテルで何度もキッスをして先に出た。
「顔が火照ってるよ」
と姉さんに冷やかされる。
 今日は貸付の調査があり、8時に萩之茶屋の番頭のスナックの近くの小料理屋に寄る。2度目の改装の貸付だ。500万の申し込みと前期の確定申告と見積もりが出ている。混み具合を見ようとこの時間にした。
 暖簾を潜ると10人ほどのカウンターは一杯だ。女将が一人でやっているようだ。しばらく立っていると、常連客が席を空けてくれる。空いた席に座ろうとして目を疑った。
「先生やないですか?」
「なんやヤバイ奴にあったな」
「先生は湯上りの立ち飲みだけか思ってましたよ」
「ゆっくり飲みたい時もある」
「先生の患者さんですか?」
 女将は思ったより若く50歳前のようだ。
「私が一番最初の患者でしたのよ。もう10年前でしたよね。前の主人にお岩のように殴られて勤めていた店から運ばれたの」
「肋骨も折れていた」
「それからいろいろと面倒見てもろて10年前にこの店の貸付の保証人にもなってもらいました」
 前回の貸付は800万で保証人付きだが、今回は保証人はなしになっている。
「根掘り葉掘り聞くな」
 恋人を見る目をしている。







 

過去のこと 3

 ワインに酔うより話に酔ったようだ。どうもサエは今夜は泊まる気だ。いつものように鍵をかけて風呂に入ってその後に私が入る。いつの間に用意していたのか可愛いランジェリー姿に代わっている。化粧もし直したようだ。窓から通天閣のネオンが見える。
「子供が出来たら責任とってくれる?」
「ああ」
 サエは窓のカーテンも閉めて電気を消す。
「これじゃサエが見えないじゃないか」
 お構いなしに唇の中に舌を入れてくる。私は入念に胸を舐め上げるとサエはいつの間にか浴衣の中に潜り込み、猫のようにぺちゃぺちゃする。
「今夜は出したらだめ」
 いつもここで口の中に放出して終わる。いつの間にか全裸になっていて、可愛い乳房のようなお尻の谷間にネオンの光が薄く跳ね返っている。
「何があっても捨てないでね」
 抱きかかえようとすると、サエは背中を見せて勃起したものに座るように吸い込む。なぜ背中を向ける?でもそんな思いも次の瞬間吹っ飛んでしまう。こんな締めつけは経験がない。サエはゆっくりと揺れながらすすり泣くように嗚咽を食いしばっている。
 虜になりそうだ。




過去のこと 2

 久しぶりに日曜日に休みが取れるとサエが動物園に誘ってきた。腹違いの兄弟が不倫をしている奇妙な気持ちになるが、この生活にも慣れてきたように思う。今はキッスもフェラチオも胸の愛撫も許してくれるのでそれで満足している。
 夕暮れまで動物園で遊んで阿倍野出口から出て無口で歩いてゆくサエの後ろを追いかける。本通りから路地を曲がって白い建物の中に入っていく。
「ここならやくざも来ないから」
「ラブホテルだよ」
「ここの食事いけるよ。ワイン飲まない?」
 食事を頼んでワインを飲み始める。窓から夕暮れに浮かぶ通天閣が見える。サエは私の膝枕にぽつぽつと話し始める。
「イサムと言う名は最初の父の名前なの。同じ旅回りの役者と出来て母が私を生んだ。よく遊んでくれた。楽屋で育ったようなものなの。父は演歌歌手を目指していたのでよく暇な時に唄を教えてくれた。3年程旅回りをしていたんだけど、母は座長と出来てしまって父が劇団を追われることになった」
「お父さんとは?」
「それから会ったこともない。そのうちに母が若い演歌歌手と私を連れて駆け落ちをした。7歳の頃から舞台に立ってチャンバラの子役をしたり、唄も歌わさられた。それと舞台衣装の修繕もしていた」
「どうして逃げ出した?」
「その後の男が最低だった。地方のヌード劇場廻りで白黒をしていた。沖縄から北海道まで至る所を回った。母も男も異常になっていたわ。ドラッグに手は出すし、この話はまだ話す勇気がない。この時にこの通天閣の近くの町で興行していた」












過去のこと 1

 親分が番頭と会って話をつけたらしい。会計と貸し付けから外して、空港建設の現場の飯場の管理に泊まり込みで入ったようだ。給料から使い込みに対して返済することになったらしい。新しい返済のページを作ったが70歳になっても終わりそうにない。
 集金は今回から姉さんと回ることになった。
「親分も甘いわ」
 昼ご飯に入った喫茶店で口を尖らせて言う。
「親分も辛いんだよ」
「それよりイサム何かしたの?カラオケバーでイサムの写真見せられたよ。髭のないやつ」
「ああ、聞いた。関東のやくざらしいね。サエが言うのには車ではねたやつらしい。だが記憶に全くない」
「しばらく私がついて回る。私の方が力強いからね」
「危険だよ」
「サエちゃん私の話していない?」
「いや」
「なんか悲しいわ。私男には全く興味ないの。こんな話イサムだからできるのよ。あんたは中性のような変な感じよ。中学の頃好きな子ができて一時は駆け落ちしたのよ」
「それも女の子?」
「サエちゃんによく似ている。3年間家出して同棲した。二人で結婚を誓っていた。今の親分は父ではないの。母が
後添えに入ったの。父のことは覚えてもいない。親分が頼まれてスナックに勤めていた私を見つけ出した。大柄だったので20歳には見えたようよ」
「親分彼女を認めてくれた。それで二人のアパートを借りてくれた。でも彼女が男と姿を消した。それで親分の仕事を手伝うことに」
「お母さんは?」
「2年前に病気で亡くなった」






成りゆき 8

「イサム起きてよ!」
 少し飲みすぎたのか目が開かない。無意識にサエの唇を吸う。だがどうもいつものサエと違う。唇が震えている。
「どうしたんだ?」
「関東のやくざが来た。カラオケを歌いながらイサムの写真を出して見せた」
「サエに見せたのか?」
「いや、カウンターに座ったホステスにだよ」
「ばれた?」
「たとえ知っていてもホステスは言わない。仁義だから。でも本当に気付いていないみたい。その男あの車の後ろから見ていたサングラスの男だった。でもあの姉さんが横で首を傾げていた」
 姉さんは気づいたかもしれない。
「この辺りの外科の病院を確認していた。明日念押しにやぶ医者の所に行くわ。しばらく野球帽を深くかぶるのよ。うろうろ飲みに行くのもだめ!」
 私はまだ金融ブローカーのやっさんの話はしていない。まだ雲をつかむような話で実感がない。ただ何らかの線で伊藤と繋がっているとはいえる。それにあのS銀行の頭取のことが気になる。
 サエは布団に潜ってきて朝まで抱きついていた。

成りゆき 7

 会計の女性が入ってようやく外回りをし始めた。まともな小口は半分もない。親分は今夜番頭と会うらしい。集金から戻るとソファーにあの白髪交じりの髭の金融ブローカーが来ている。親分とも面識があるようだ。親分が笑いながら手を上げて出ていく。
「大変やったらしいな。あの寿司屋に行っているしっかり仕事を済ませてきてや」
 と言うと出ていく。姉さんが帰ってきてカラオケバーに行かないかと誘うが断る。どうもサエに入れあげているようだ。サエからは一言もそんな話はない。あのアヤがいなくなってからサエがナンバーワンだそうだ。だがサエはカウンターから出ることはないと言う。カウンターの外は指だけでなく口まで使ってサービスするようだ。
 半時間で前の寿司屋を覗く。
「前頼まれていたのが少し分かったんだ。伊藤の後ろはS銀行の頭取だが、最近はあまり仲が良くないらしい。一つはITMファイナンスの焦げ付きが記事になり出している。その大半が伊藤のグレイな貸付だ」
 やっさんが週刊誌を広げる。
「新聞にでるようになって警察や税務署が動き出すが、週刊誌は興味本位だが案外事件の導火線になりうるんだ。こちっとら金融では素晴らしい情報源だ」
「それと伊藤が何やら頭取を脅している噂もある。これはまだ闇の中だがな」
と言って頭取の白黒写真を見せる。何か記憶にひっかる部分がある。
「この頭取は珍しく東大や京大ではなく私立出身だ。かなりやばいところをすり抜けてきたと思うわ」







成りゆき 6

 翌日包帯を巻いた頭にサエが買ってくれた野球帽をかぶって事務所に入る。親分が朝の人夫出しが終わった頃をも計らって覗いた。さすがに番頭と顔を合わせるのを避けた。最初に姉さんが戻ってきて、
「もっと休んでたらいいのに。番頭は今日から来なくなったわ」
と嬉しそうに肩を叩く。
 ドアのところで親分が手招きする。行きつけの小さな喫茶店だ。
「大変だったな悪いな。小頭に聞いた。娘に小口の貸倒調べるように頼まれていたのだな」
 私は鞄から調査資料をカウンターに出す。親父は眼鏡を出して無言で読んでいる。
「あの女と一緒になった時からやなあ。止めろと言ったがな。彼奴は女にやさしくしてもらったことがない。あの女はああして男から搾り取る。まあ大変だと思ってその時から給料を上げたったんや」
「金をとられたことは?」
「仕組まれていたんだから仕方がないわ。とにかく経理は今日募集をかけた。会計も貸付も全部見てくれ。将来は娘に任せる気だ。力を貸してやってくれ。本当は娘の旦那になってくれと言いたいが、彼奴はレズだからなあ。サエちゃんを気に入ってるが困るやろ兄貴としては」
 親分はよく見ている。
「とにかく小口の整理を始めてや」
 さすがに疲れたようにため息をつく。
「若い頃は彼奴は人夫出しをここまで大きくした。それから運転手をずっとやらしていた。経理もわしが教えた。なあ、処分はわしに一任してくれるか?」







成りゆき 5

 朝10時過ぎに姉さんがトラックの送迎の後訪ねてきた。
「番頭がしきりに親分に首だと喚いていたわ。見損なったよ」
「金を奪われたから仕方がない」
「親分はそんなに冷たくない。気にすることはないと伝えるのにやってきたの」
 それだけ伝えるとこれから私の分も含めて集金に回るようだ。入れ替わるようにサエが入ってくる。
「そのチンピラ関東やくざの回し者じゃない?」
「いや、やくざの目をしてなかった。それにそれなら身柄を確保していくはずだ」
 サエは着替えの袋を棚に置いて、みかんを剥いて口に入れてくれる。それとまだ読み切れていないボンの週刊誌を積み上げる。
「今日はアヤがいなくなったので交代の早番なの」
と言って外に出てく。
「持てるのね」
 布団の中からくぐもった声がする。SMの黒髪の女だ。
「今日はだめなの。糞を食ったらピーピーよ。男優病気持ちだったのかしら。さすがに性欲湧かない」
 ベットの下に便器が置いてある。妙な出会いだ。
 夕方、小頭の顔が覗く。
「チンピラ締めたったで。向こうの頭から100万持ってこさせた。今さっき親分に事情を説明して50万返したわ。この10万はお見舞いや。後は組の稼ぎにさせてな」
「10万もいらない」
「気にするな。でも締め上げて指図した奴が分かったぜ。お前とこの番頭相当の悪やな」
「親分にもテープ渡した。弁償の必要もない。集金のルートも教えていたから堪らんな」
 番頭とはじっくり話をしてみようと思っていた矢先だ。









成りゆき 4

 初月給をもらった。40万も袋に入っていた。番頭が嫌味を言う。その夜にそれをサエにそのまま渡した。

「私は女房でもないし、金貸しでもないよ」
と機嫌が悪い。それで借りていた医者の費用と家賃で20万を渡した。20万でも充分に食べていける。
 番頭の件はまだしばらく誰にも伏せている。生きている借入先も大半が日払いアパートだ。とくにあの管理人の棟で8人もいる。そのうちの一人は管理人の紹介で会ってみたが、借入額の1割の礼金を貰ってサインしている。今までの話は念のため録音に残している。
 だがこの話をするのにはためらいがあった。元々番頭は気に弱い律儀な男だったようである。それが10年前スナックの今のバツ2のママと一緒になってから、スナックの支払いとママの金遣いに振り回されているようだった。覗いてみたが40過ぎの割には色っぽ過ぎる。子供は2人いるが前の男の子供だ。
 いつものように集金を終えて路地の店から出てきた時、左右からチンピラが3人急に飛び掛かってきて、持っていたパイプで思い切り殴りつけられる。誰かのどすの利いた声が聞えたが、そのまま壁に倒れかける。
「また3針縫ったな」
 やぶ医者の顔が見えてその横に心配そうなサエと姉さんの顔があった。
「鞄やられた?」
「取られている」
「集金の50万が入っていた。給料から引いてくれ」
「いいのよ。でも小頭が見つけてくれてここに運んでくれたの。犯人を見つけてやると言ってたよ」
「あれは待ち伏せしていたように思う」
 






成りゆき 3

 手が空くごとに番頭の集金の合間に小口の焦げ付きの書類を出してきて調べる。ここ1週間で焦げ付きの本人の当時の住所を回ってみた。15人中の15人が日払いホテルの住所でもう住んでいない。だが始めて16人目で一人管理人の男を見つけた。

「少しいいかい?」
 管理人室に強引に入る。私は名刺を見せて、
「借り入れが残っているが?」
「そんな借りた覚えはない」
「でもこれはあんたのサインだろ?」
 コピーを見せる。
「知らんな!」
 今にも逃げ出しそうだ。私は不動産会社の名刺を壁からはがして、
「本社と話をつけるよ」
と言うと急に肩をすぼめて座り込んでしまう。
「ほんとの話をしたら電話は止める」
「俺は借りていない。名前を貸してくれと言われた。それで嫁はんのスナックのツケをチャラにしてもいいと言われた」
「幾らあった?」
「20万ほど」
「でも100万借りていて4回返済をしている」
「そんな金貰ったこともないし、返済したこともない」
「そのスナックは?」
と言うとマッチ箱を出した。








成りゆき 2

 その夜知っているのか知らぬのか、帰ってきたサエは無理やり蒲団に潜ってきて、用済みの私のものを半時間も咥えたまま眠ってしまった。どうもアヤと寝たことを知っているようだった。目の周りに涙が溜まっている。
 朝事務所に行くと、姉さんが袖を引っ張って公園の片隅に連れて行く。
「夜時間あけてくれへん?」
 頷くとそのまま労務者の中に消えた。サエの店なら断ろうと集金に出かける。
「なあこれおかしいと思えへん?」
 裏の小料理屋で姉さんは返済表のコピーをテーブルに出す。
「100万までの小口の貸し付けやなあ。今でも小口の貸付していたのか?」
 私は親分の扱う大口の補助が中心だ。
「私が入った頃小口が主流だったのよ。10年前辺りから小口を減らそうとしてきた。この町夜逃げが多く回収不能がたくさん出ていたの」
 借入名があり5回くらいで返済がストップになっているものが多い。
「親分の指示?」
「いえ、前々から調べていたの。でも貸付はプロじゃないので延ばし延ばしになっていたのよ」
「負債としては金額合計でどのくらい?」
「ざっとだけど2000万くらいあるわ」
「今は小口の残高は?」
「1000万少しかな」
「決裁は?」
「ほとんど番頭の仕事よ」
「少し調べてみるから親分にも番頭にも内緒にしてくれ」














成りゆき 1

 やぶ医者からぼんの親父の店で、
「明日、5時に来てほしいとアヤから伝言だ」
と託された。
 早引きをしてやぶ医者の病院に着くと流し目の女アヤが旅行鞄を手に待合室に座っている。アヤは無言で立ち上がると細い路地を抜けて飛田新地の大通りで待っていたタクシーに乗る。
「ミナミの新地まで走って」
「どうしたんだ?」
「昨夜あの男がまたカラオケバーを覗いた。サエが教えてくれた」
 それだけ言うと黙りこくっている。いつの間にかタクシーはアヤの指すラブホテル街にゆっくり入っていく。彼女が声をかけて白い建物の前に止まる。仕方なく鞄を抱えて建物の中に入っていく。
 部屋に入るとアヤは蓑を剥ぐように全裸になる。だが横っ腹にはテープが頑丈に張り付けてある。
「まだ治ってないんだろ?シャワーぐらい浴びろよ」
 アヤはすでに素早く服を脱がせて汗臭いものを掴んでベットに押し倒す。
「生を飲ませて!」
 1分も持たないで口の中発射してしまう。サエよりはるかに経験を積んでいる。
「今日のは濃いよ。サエと毎日してるのでしょ?」
「いや、口だけだ」
「ひょっとして?」
と言いかけたが、私もものがまた大きくなっているのを見て今度はまたがる。
「う!」
「血が滲んでいるぞ」
「気持ちいい!これから南港まで送ってね?」
 タクシーに乗り込んでアヤは肩にもたれて何もしゃべらない。デッキの前に来て始めてにこりと笑って、
「もう2度と会えない気がする」
と無邪気に手を振った。








過去に触れる 8

 親分から難波の手形屋に行くようにとFAXの手形を持って出かける。どうもここの手形屋は手持ち資金がなくなると年に3回ほど割引があるようでそれを任された。1億ほどあるようで持って帰って翌日送金する。これは今まで番頭がしていた仕事なので彼としては気分が悪いようだ。その近くのビルに紹介された金融ブローカーの事務所があるので訪問の予約を入れておいた。
「すいません」
と覗くと受付に女性が座っている。私は親分のサインの入った名刺に部長の名刺を添えて渡す。
「いやどうぞ」
 わざわざドアを開けて白髪交じりの髭ずらの顔が覗く。
「あの親分の名刺は値打ちですよ。今や本部の若頭はナンバー2ですよって。よっほど気に入られたんですな。一応ITMファイナンスのことは調べておきましたよ」
 思ったより若そうで40歳そこそこのようだ。
「伊藤はずっと大阪にいたのですか?」
「いやしばらくは東京にいたようですわ。ちょっと有名な総会屋にいたと聞いています。その頃S銀行の今の頭取と親しくなったようですな」
と言って古い週刊誌の切抜きを見せてくれる。
 頭取選に深くかかわっていたと記事は書いている。
「それで頭取の紹介でITMファイナンスの役員に入っている。かなりやばい案件に係っていまっせ」
 一緒に飲みたいと言ってタクシーで事務所に送ってくれてその後ジャンジャン横丁の寿司屋に入る。









過去に触れる 7

 メロディーに合わせて歌が唄えている。初めは用心深く歌詞を追っているが、自然に拳も入ってくる。
「記憶を失っても芸は忘れんもんや」
「歌い込んではるわ。親分頑張らんと」
 ママを挟んで5曲ずつ歌い終わった。ドアがそっと開いて先ほどの運転手の顔が覗く。優男の親分の目が光る。
「あのな、どこかで見たことがあると思っているんやが」
 ママがマイクをしまっている。私は思い切ってあの写真を出した。親分は指で抓んで、
「この顔やがのう。ITMファイナンスのお披露目の会場で見た顔や」
「伊藤の部下でしたか?」
「違うのう。S銀行の頭取の傍に立っていた。銀行員という風やった」
「ITMファイナンスとは親分は取引されて?」
「いや、伊藤が嫌いや。彼奴には信義がない。あれはなあ、お世話になっていた初代のITMファイナンスの社長を売ったんや。それで今の社長に代わって伊藤が役員に入った。伊藤も覚えてないのか?」
「見たことのあるような?」
 ちらりと腕時計を見る。
「信用できる金融ブローカーを紹介したる」
 と言って金融ブローカーと自分の名刺を出して裏にサインをする。
「ちょっと一緒に10分ほど乗ってくれ、後で好きなところに送るように言うからな」







過去に触れる 6

 集金から戻ると、事務所の前にホワイトのベンツが留まっている。事務所を覗くと小柄だが幅の広い男が親分と話している。
「イサムに歌を付き合ってくれというてはる。これから出かけてくれ」
 車に乗せられると男が運転をする。
「もう15年も前に親分ところでお世話になっていたことがあるんや」
 話すと愛嬌がある。
「どこに行くんですか?」
「うちの親分の隠れ家のスナックや」
 右側に地上げ現場が見えたと思うと、細いネオン街に入っていく。その中のレジャービルの前に留めると、入口に黒づくめの男が立っていて中に案内する。ドアを押すと、あの優男が手を上げてカウンター席から呼ぶ。カウンターの中に和服のママが待っていたように寿司の皿を並べる。
「前は世話になった。取引は無事に終わった」
「いえ、あれはうちの親分の裁量です」
「その礼は金利出させてもろた。若いからビールがええやろ」
「はいどうぞ」
とママがビールの小瓶を抜いてグラスに注いでくてる。
「どうや。うちの金融会社で社長やってみいへんか?」
「いえ、親分に拾われましたので」
「そうかそうか」
 客は誰も入ってこない。
「このスナックの話ステーキハウスのママにしたらあかんで。殴り込んで来よるからのう」










過去に触れる 5

 夜にボンの親父のいる本店に行く。8時までに30分ほどある。親父が常連と話している後ろをボンが厨房を掃除している。大瓶を頼んで折り曲げた週刊誌に目をやる。
「イサムか?」
 背中を叩かれて振り向く。
「やぶの先生ですやん」
 やぶ医者が白衣以外を着ているのを見たのは初めてだ。
「俺だって飲むさ。3階には風呂がないから3日に一度通天閣の銭湯の帰りにここによる。部長になったんてな?」
「サエが話していましたか?」
 どうも半月に2度ほどやぶ医者の所に来ているらしい。
「あの女毎日隣の兄ちゃんに頼んで新聞を買ってもらって読んでいる」
「刺した男が捕まったか気になるんでしょう」
「ここの奴はみんな色々ある」
 もうやぶ医者の背中が暖簾の向こうに消えている。いつの間にか親父の姿もなくボンが前に立っている。鞄から先ほどの写真を出して黙ってカウンターに置く。
「あの日のイサムや」
「やくざが持っている回っている顔写真や」
「ひげは剃れないね」
「今日はサエには会った?」
「モーニング食べに来てた」
「ボンはサエのことどう?」
「何度も振られている。友達以上恋人以下だって」
 はにかんでいる。






プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
プロフィール

FC2USER015477MKZ

Author:FC2USER015477MKZ
学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR