空白 2017年09月

新しい道 6

 USBを見ながら脳に中に時々稲妻のようなものが走る。これは記憶が戻ったというものではなく、繊細に組み立てられた事実から生み出されてくるもののようだ。カオルの中に入った時に無意識に差し込む向きを変えるような行動だ。どこが深く彼女に届くか体が憶えている。
「今日で最後ですね?」
 第1総務課長がコーヒーを入れて入ってくる。
「第2課長をどう思っていましたか?」
「そうですね。焼き餅をしばらく焼きましたわ。重要なことは頭取は何も私には話されませんでしたから。それでいつの間にか会長の耳になっていました」
「銀行再編はどこまで進みましたか?」
「名前は言えませんが相手も決まっています」
「それは今回大蔵省が言ってきている相手と?」
「同じです」
「頭取の予定の道筋ですね?」
「会長は?」
「最初は抵抗を試みられましたが無理だと判断したようです。Nは総理ですね?」
「会長も?」
「このUSBを見てから確信されてようです」
「会長は今後どうされたいのですか?」
「頭取が自分の描いた絵をもう自分では歩けないだろうと。その代り会長がその道を歩こうとされています」
「どうして?」
「道はもうやも得ないが、銀行の先君の魂だけは残したいと。新堂さんは?」
「これからは全く別な道を歩きます」





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新しい道 5

 親分にしばらく3時に上がらせてもらうように頼んだ。それで翌日からもう3日間タクシーに迎えに来てもらって自分のUSBを見ている。自分でも驚く作業量だ。今日は8時に福岡から戻ってくるカオルと『白薔薇』の大阪店で会う。
「どう少しは見えてきた?」
 テーブルにすでに皿が何枚も並んでいて、珍しくワインを飲んでいる。風呂は済ませたらしくバスタオルから長い脚が覗いている。
「どうも頭取は総理と金融界の再編を考えていた節がある」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「ライバル銀行を詳細に調べさせている。それで負債に赤丸を入れている。ITMファイナンスに要注意先を年々移動させていた」
「でも自分が貸していたら同じじゃない?」
「それがかなり手の込んだことをしている。どうも伊藤には他の銀行の借り入れを増やすように指示していたようだ。作った時は80%のシェアーが30%まで落している。最後は会社を清算する腹だったようだ。ライバル銀行が3行並行メインになっている」
「修司はお金を総理に運んでいたのね?Nは総理だわ。でも会長はそこまで知っている?」
「おそらく知らない。検察もそうだ。もう少し下を見ているのかと思う。頭取が勝つか会長に軍配が上がるかまだ微妙だ」
「もう少し辛抱なのかな?」
と言いながらカオルのバスタオルは肌蹴てて立派なものが反り立っている。







新しい道 4

 戸棚のスーツにネクタイを締めて言われたホテルに着く。すると待ってたように銀行員らしい2人が挟むようにエレベーターに乗る。一人がエレベータの前で見張りをして、もう一人が個室に案内する。ドアが開くと私だけを中に入れる。
「久しぶりだね。新堂君」
 白髪で頭取より10歳ほど上に見える。横に40歳ほどの婦人が座っている。
「第1総務課長だよ。憶えていないかね?」
「記憶にありません」
「単刀直入に話をするが、我が行は大蔵省から合併を求められている。今回の調査は君のメモで行われた。あのメモは伊藤絡みの債権ばかりではなく、君なりに将来危険な債権も選んでいた。見事に8割が今不良債権になっている」
「『白薔薇』のママとは?」
「私もママと寝た仲じゃ。ここにいる課長にはばれているわ。そういう意味では君とも兄弟だな。ママは私に君も含めて保護を申し入れてきた。私は我が行を救ってくれと泣きついた」
「でも私にできることはあるでしょうか?」
「私は頭取の傍にいたから君のメモを見て想像がついた。ママから君のUSBも預かっている」
「頭取も同じものを?」
「あれにはほとんど肝心な内容が抜かされている」
「ママが?」
「彼女は頭がいい。君が彼女の部屋で見たUSBは頭取に渡したものだそうだ。こちらには5倍もの情報が入っている。それを早急に大阪支店で見てもらいたいのじゃよ。記憶ではなくて君の脳で見えるものを教えてほしいんだ」
「そんなことができるでしょうか?」
「君は今何も学ばずに貸付をしているだろう?脳がしっかり記憶を持っているのじゃ。ママは昔通りに自分を抱いてくれていると言ってた。しばらく第1課長を大阪支店に置いてゆくから頼む」












新しい道 3

 ボンが朝喫茶店を訪ねてきた。フミコに男の子が生まれた。まだ親父には内緒にしているが、明日からこのマンションの下の階に引っ越して来るという。サエは話が出来ているらしく、昨日から早く店を閉めて引っ越しを手伝っている。
「大きくなったら結婚させたいな」
「それは気が早すぎる」
 迎えに行くというボンの背中を叩いた。
 事務所に出るとカオルから待っていたように電話が入る。いつものように姉さんが
「変な女」 
と受話器を渡す。だが会えばまたカオルに恋しそうである。サエと同じ匂いがするのだ。
「今どこ?」
「これから飛行機で福岡に行く。オープンを済ませたら大阪に寄るわ。これはまだ伏せておいてほしいのだけど、頭取が国会に呼ばれそうなの」
「ITMファイナンス事件で?」
「それだけじゃなく銀行内で相当な負債が出てきたようなの。頭取がすべてに絡んでいるのかどうかは分からないけど。それで明日6時にホテルで会ってほしい人がいるの」
 ホテルの名前と電話番号を控える。
「修司のいた銀行の会長よ。前の頭取。私と何度も会っている」
「頭取は?」
「知らない。頭取から身を守る最後のルート。向こうは修司を良く知ってるわ。会長も昔は私のお客でもあったの。伊藤も始めは双方に手を伸ばしていたわけ」
「分かった」
「それとサエを最近抱いてないでしょ?だめよ」
「それも分かった」








新しい道 2

 稟議を病院まで持って行って親分の決裁を貰う。息子の組長の貸付の段取りに入る。親分は姉さんにいい旦那を見つけて隠居を考えているようだ。私がサエと一緒になったことを残念がっている。その姉さんはまだサエに恋心を抱いている。
 昼過ぎに記者が隣の喫茶店に来ている。『白薔薇』のママの連載をこの記者は書き続けている。彼にとってカオルはキーマンなのだ。
「すいませんね。あなたがママのアリバイを証明したと聞いています」
「いつも早いですね」
「実は大蔵省が動き出しましたよ」
「と言うことはメインバンクに?」
「検察も2人の重要な証人を失い裏の手を出したというところです。嘘発見器もかけられたそうですね?」
「残念ながら記憶は戻っていません」
「それで思い切ってあなたのメモに基づいて調査が始まりました。伊藤は架空名義で50億ほどバックを受け取っていた。その半分を頭取に。その口座はあなたが管理していた。そしてそこからNに流れた」
「検察もそう思っているでしょうね?」
「でも記憶のないあなたから引き出すのは無理と思っています。私は『白薔薇』のママを書いていて、二人は恋人同士であったと。あなたを殺そうとしたのは伊藤ではなく頭取だと思います」
「それには証拠がありませんよ」
「だから私は『白薔薇』のママを書き続けますよ。ママはあなたと頭取の間にいます。今は何とか頭取の要望をかなえていますが、その壁はいつまでも持たないような気がします」
 彼の言うことはよく分かる。だからカオルには共に戦うと言った。
「これは私の感想ですが、あのママなら男でも愛せると思いますね」
 彼は未発表のゲラのコピーをテーブルに置いていった。そこには新宿のマンションと部屋の中の写真が入っていた。それにかなり克明にカオルと私の愛の巣を聞きだしている。私は頭取に殺されそうになってカオルに助け出されて逃げたと推測している。






新しい道 1

 私の娘を結衣と名付けた。カオルに頼んで私の住民票を東京からこちらに移して貰った。これで正式に結衣は私の長女になった。だがサエは妻として入れることは出来ない。
「悪いな」
「うんこれで充分すぎるほど幸せよ」
 ユイ、ユイと何度も呼んでいる。
 今日は親分の息子の組長が持ってきた案件を小頭に案内してもらう。事前に病院に行って話をしたら、問題なければ貸してやってくれと言われている。
 小頭にベンツに乗せてもらって、阿倍野通りを走る。資料を見ながら小頭に説明を求める。
「これはITMファイナンスの貸付先の中にありますね?」
「ああ、ここはこの不動産会社に依頼を受けて地上げをしていたところなんだ。それが資金が切れて競売になるという話だ。やっと真ん中のビルを口説いたところで」
 車を降りてビルの中を案内してもらう。築25年と古いが9割がスナックで埋まっている。
「単体として運用が出来そうですね?2億3千なら利回りも悪くない。取り敢えず1年貸しとして利息はまかなえますね。周りのITMファイナンスはゆっくりと見ましょう。管理は当社がするという条件で稟議を上げます」
「やっとまともな儲け話が来たんや頼むわ」
 事務所まで送るという小頭に頭を下げて歩き出した。なんとこの裏通りにサエの店があるのだ。久しぶりに店を覗くと、サエがユイをあやしながら裁縫台に向かっている。フミコは産婦人科に入院をして休んでいる。
「近くに来たので」
「コーヒーを取るわ」
 ずいぶん預かりの衣装が増えている。
 テレビに黒サングラスの男の顔が映っている。タイの運河で浮いていたという。背中に銃弾を3発受けている。やはりカオルの言っていた通りになった。この事件はどこに向かってゆくのだろう。検察は重要な証人を2人失ったことになる。






歪める 11

 カオルは酷く疲れていて風呂に入ったら眠り込んでしまった。私は暗くなってから店の裏の露地から抜け出してサエのもとに帰った。
 翌朝は10日前からの京都駅裏の取引で金融屋のやっさんと購入していた土地の売却を終えた。それで夕方には若頭の待つスナックに直行した。この土地も伊藤絡みの融資が焦げ付いている大口物件だ。
「ご苦労!」
 と若頭の握手を受けてアタッシュケースを3つ並べて札束を見せる。それから若頭が2千万を掴みだしてやっさんの鞄に入れる。それが済んで小頭と5人の男たちが入ってきて引き上げていく。
「まあ、助かった。伊藤の事件がここまで来ていたら塩漬けもあったわな」
 ママがテーブルに大皿の寿司を並べてブランディを入れている。
「ところで検察で『白薔薇』のママのアリバイを証言したんだってな」
「それも分かりますか?」
「色々ラインがあってな」
「怖いんだよ」
 やっさんが大げさに手を広げる。
「それともう一つITMファイナンスの社長を殺したのは名前まではいえねいが、関西のやくざだよ」
「それは?」
「社長は伊藤とは別に関西やくざに資金を流してバックを取っていた。それなのに一律に競売の手続きをされた。悪いことをしていたら最後は腹をくくらなあかん。それはわしらもそうや」
 9時にお開きになってやっさんがタクシーで送ってもらう。彼は持っていた鞄からもう一つ鞄を出して1千万を入れる。
「そんなに」
「これは若頭からやない。わしからや」







歪める 10

「ごめんなさい。修司を修司を巻き込んでしまいました」
 隣の席に座っているカオルが涙を流している。
「これは二人の戦いです」
「化け物の仲間に見られます。サエも可哀そう」
「それはきっと私が選んだ人生だったのですよ」
「それで少し気が楽になったわ。ここからは力を貸して?」
「いったいどういう話なっている?」
 マネージャーは後ろの車を見ながら、
「一度店に入って裏の露地から出てもらいます」
とわざと新大阪に向けて走る。どうも新聞社の車がついてきているようだ。
「検察は伊藤がすでに殺されていると見ています。それと私が頭取の指示で動いていると見ています」
「やはり」
「それでは社長は頭取の?」
「それは違う。でも分からない」
「逆に関東のやくざも頭取もタイにいる黒サングラスの男を消そうとしている」
「それはどうして?」
「今回伊藤の隠し口座から金を引き出す許可を与えたのは頭取。その金を関東のやくざが投資の損失補填をしている。これに対して彼は金額アップをかけて脅しているの。それに警察もタイに入った」
「かなり情報を持っている?」
「検察はキーマンとして修司と彼をマークしている。彼は伊藤殺害のキー、修司はNつまり総理のキーを持っている。ただ検察は総理という判断はできないでいる」
 車が新大阪駅の中で回転をして後ろの車を巻いたようで後は大阪店のガレージに入る。








歪める 9

「マスコミに伏せるというのは守る」
 電話で話した最初に入った大阪の検察官だ。隣に作業服を着た男が座っている。
「電話で話したように任意で嘘発見器を受けてもらいたい。それとアリバイの証拠を取らせてもらう。いいですか?」
 嘘発見器の手順を取るのに30分がかかる。その間に刑事がホテルに出かける。
「このホテルに修司と透が1晩泊ったということですね?」
 『白薔薇』のママの写真を指差して言う。
「はい」
「あなたの記憶は戻っていますか?」
「いいえ」
 検察官が一人で頷いている。
「ママとは第2課長時代そのような関係だったのですか?」
「とママから聞きました」
「その関係は今回が初めてですか?」
「いえ、同じホテルで2度目です」
「ママは伊藤と組んでいましたか?」
「記憶にはありません。ただ殺されそうになったのを助けたと言っています」
 検察官が机に黒サングラスの男の写真を置く。
「彼に車にぶつけられたと?」
「いえ、私を助けてくれた人がそう教えてくれました」
 2時間ほど様々な質問を受けた。電話が鳴って事務官が頷いている。
「アリバイは採れました」
「彼は同じ階にいます。もう少し待っていただければマネージャーが来ますのでご一緒いただけますが?」
「ええ」
「あなたは頭取に命じられて伊藤とママを調べていた?」
「記憶にはありません」













歪める 8

 他誌だが『白薔薇』のママの伊藤共犯説が見出しになっている。サエがモーニングを食べながら涙ぐんで見ている。ボンが見つけてきて見せたようだ。
「ほんとなの?」
 この記者は元々ママは伊藤に女になる手術代を出してもらって、『白薔薇』を持たせてもらっている。それで彼の勧めで頭取と寝ている。それで頭取の情報を流していたと説明する。だから社長との絡みも伊藤のために撮っていた。伊藤が姿を消してからも伊藤の隠れ家の横浜の倉庫に出入りしていた。これには黒サングラスの車に乗る写真が載っている。
 今話題の第2課長を自分の部屋に迎え入れたのはママだ。そこで伊藤の指示を受けた係長がガスの栓をひねった。それは頭取の指示で彼が伊藤とママの関係を調べていたという。この辺りはそういう風に見られているのかと思う。情報を都合よく繋ぎ合わせている。となると今回はママが社長を殺したという繋がりになる。
 朝刊を取る。やはりITMファイナンス事件の経過が記事になっている。ここには『白薔薇』のママが検察に留め置かれていることが殺人の疑いと書かれている。アリバイについては証拠になるものがない。
「この日はカオルと白壁のホテルにいた。証言してもいいかい?」
 サエは赤ちゃんにミルクを飲ませている。
「私はカオルと目の前でイサムが寝ても構わないから」
「カオルは私を助けてくれた。今も私のために頭取の要求を呑んでいる」
「そうよねえ」
「今日検察に行くよ。出来るだけ週刊誌の餌にならないようにしてみる」
 検察は本気でカオルを共犯者とは見ていない。






歪める 7

「寿司を食べませんか?」
 帰るところを見透かして記者が訪ねてきた。
「昨日から『白薔薇』のママが検察に泊められています。任意同行ではないのです」
「泊められた?」
 さすがにその情報はなかった。
「この情報はまだどこも記事にしていません。それだけに第2課長の意見を聞きたくて」
と言いながらビールを注いでくる。
「まず警察は社長の自殺を疑っています。確かに不正融資のあなたのメモが出て不利になっていますが、その証拠を示されたわけではありません。本人も今回は退任後の次の顧問も決まっています。それに彼が受けたバックは不明のままです」
「さすがに番記者ですね」
「『白薔薇』のママはちょうど社長が検察を出た時間には大阪に戻っています。つまり彼女にはアリバイがないのですよ。社長は検察で待っていた黒塗りの車に乗りました。警察で調べましたが盗難車でした」
「まさかママが社長を殺してどうなるのですか?」
「検察はそう思っています。これは私の勘ですが、頭取に検察は注目しているようです」
 それは何度かの聴収でも私も感じました。どうも伊藤はもうこの世に中にはいないような気がする。
「殺人は警察の管轄ですからね」
「ママはどう答えていますか?」
「大阪店にいたと。だが証人がいません」
 その時間だと私と阿倍野の白壁のホテルにいた。カオルはそれを伏せている。
「検察は殺人とは考えていないが、聞いておくにはいい機会だと思っているはずです」
 困ったことだなあ。






歪める 6

 集金の合間に昼飯にボンと女将に店に入る。ボンは親父が倒れたので取り敢えず本店に5時から入るようになっている。それで最近は酒の配達はアルバイトを雇い、夜学はしばらく休んでいる。
「フミコ入院したんか?」
「サエのようにボンとはいかんもんな」
「確かに」
 ボンはサエが男だともう知っている。フミコもだ。最近は前ほど妹を強姦したという噂は少なくなっている。妹から抱きついたに変わっている。これはサエがボンを通じて流したものだ。
 ご飯を口に放り込んでテレビの画面を見る。
「あれITMファイナンスの社長やないか?」
とボンが音を大きくする。
「・・・検察の取り調べの後、5時間後死体で浮いていたと・・。外傷は見られず自殺ではないかと・・・」
 自殺か他殺か。伊藤の話を聞いてから頭取に恐ろしいものを感じている、そんな男だったのか。その男の忠実な手下だったわけだ。
「何か裏にとんでもないことが隠れているような気がするな」
 ボンがぼそっと言うのに妙に頷いている。私の記憶が戻ればおそらく解明されることは多いだろう。記憶が戻らないというのも危うい気がする。
「記憶が戻ってもサエを捨てたら許さんから」
「それは分かっている。その言葉はボンに返しておくよ」
 画面には『白薔薇』のカオルの写真が出ている。
「・・・検察が再度大阪にいる『白薔薇』の身柄を確保した…」





歪める 5

 もう立たないというまでお互い精液を絞り出した。最後には透明な一筋の水滴が亀頭の上に流れた。カオルも私も追い詰められていく恐怖感に包まれたようだった。
 カーテンから朝陽が漏れてきて時計を見た。カオルが風呂から出てきて、
「サンドイッチ頼んだよ。会社に行くのでしょう?食べたら私はもう少し寝てから大阪の店に出るわ」
 ドアブザーが鳴ってモーニングセットが運ばれてくる。カオルがバスタオルを巻いてドアを開ける。私はさっとシャワーを浴びるとタオルで拭きながらベットに座る。
「さすがにしょぼくれている。私はまだこれよ」
とカオルはバスタオルの中から反り立ったものを見せて笑う。
「まだ若いんだから」
 なんだか昔こんな光景を見たような気がした。
「新宿のマンションでは朝も必ずやったよ。サエは可哀そう。彼女はまだ若いんだから朝でも2度はしないとね」
「これからどうする?」
「頭取もそろそろエッチも表舞台もお終いだと思うわ。もう自分のが入れられないのよ。だから瓶やらを入れたがる。それに引退の時期を図っている」
「院政を引くのじゃ?」
と言いかけて少し記憶が戻り始めている妙な気がした。
 カオルも目を光らせた。
「修司夜私ののどちんこに思い切り入れたでしょう?」
「憶えてないな」
「あれは修司の癖よ。私が涙と涎まみれになるのを楽しみにしていた」






 

歪める 4

「明日7時にいつものホテルに来てとカオルねいさんから電話があった。泊まってきてもいいよ」
とサエに言われて頷いて事務所に向かった。どうも刑事が張り付いているような気がする。それで姉さんに言ってミナミの集金をして直帰を伝えた。そこからタクシーに乗って路地を何度も迂回してもらってホテルに入った。カウンターに行くと奥から支配人が出てきて部屋を教えてくれる。
 カオルは風呂を上がってきて取り寄せた寿司にビールを飲んでいる。少しやつれたような気がする。
「修司も飲む?後でたっぷり可愛がって」
「今回は頭取の指示?」
「ええ。でも検察も馬鹿じゃないわ。私ができることはこのくらい。サングラスのやくざ、殺されるかもしれないわ。頭取が親分と話をしてた。検察で架空口座の話出たでしょう?」
「ああ」
「12億ほど残っていたのよ。それを親分が回収した。頭取の同意でね。元々頭取の持っていた口座なの。頭取を脅して口座はそのまま抜けてるね」
「検察はNを気にしている」
「そうね。でも寝たのは私だけど、詳しい話は知らない。伊藤の言うのには頭取に渡した半分の大半はNに流れていると聞いた。それを運んでいたのは修司よ。修司がその口座とビデオを持っていると今でも頭取は思っている」
「じゃあ殺しに来るか?」
「それはない。修司の記憶は戻っていると思っている。と言うことは殺して済む相手ではないと思っている。頭取は修司を買っているのよ」
 カオルは肌けたバスタオルにょっきり反り返ったものをしごいている。








 

歪める 3

 今日は1階のレストランに制服の警官が張り付いている。マナージャーはどこまでを話しているのだろうか。それとカオルはどこに姿を隠したのか。今姿を隠すのは彼女にとって不利だ。今一つ見えない。
 検察官室に入るとどこか騒がしい。
「先程福岡で『白薔薇』のママが任意出頭に応じました。ITMファイナンスの焦げ付いたラブホテルを価格の2割ほどで任意処理をしたようです。これは社長にとっては非常に不味い。向こうでも検察が今調べておますので連絡を取りながら午後は進めていきます。ところでママが面白いものを提出しました」
 ファックスで送られてきたものを机に載せる。これは私のパソコンにあったITMファイナンスの融資のリストだ。どうしてここにある。
「これはママがあなたから預かっていたものだと言っています。総額の不良債権の7割が集まっています。再建の後ろにあなたの得意の暗号がついています。Iというのは伊藤です。ここにあるSはさしずめ社長のことですね。ISとあるのは双方が係った?SとISでも300億はあります。でもこの時期にママがこんな行動に出たのかが分かりませんね」
「ママはどう説明してるのですか?」
「伊藤と確かに組んでいた時期があると言ってますが、頭取からあなたの資料を見せられて諫められたと言っています。それにあなたを殺そうとした伊藤を恐れたと」
 どうやら頭取の指示でカオルは動いているようだ。
「だが私はあなたのNの人物に興味を持っています。ママはどうしても頭取からNへの繋がりを隠そうとしているように思うのです」
 そう言いながらファイルを拡げて、
「これは捜査秘密ですが、伊藤の架空名義口座が見つかっています。50億ほどの金が一度この口座に入って、Tの印で半分は出金されている。今残高はほとんど残っていませんが。Tは頭取ですよね?」
 返答は期待していない。
「これを受けた口座はまだ残念ながら見つかっていません。頭取にもこの話はしましたが知らないとだけでした」
 どうも検察はかなりのところまで詰めてきている。







 

歪める 2

 翌朝検察のあのビルに呼ばれた。前回受けた検査官と違う。
「私は東京から来ました。『白薔薇』のマネージャーからお話を聞いていました。ママはどこに出かけたのか今は不明です。どうも色々な人から話を聞いてきましたが、あなたがキーマンのように思うので是非とも会ってみたかったのです」
 事務官が調書のファイルを順番に並べてからパソコンの前に座る。
「あなたとママは伊藤が引き合わせたとマネージャが言っていますが?」
「記憶にないです」
「そうでしたね。その頃は伊藤とママの関係は終わっていて頭取がママのパトロンになっていた。でも一度も店には顔を出さなかった。頭取がママの部屋に来る時は必ずあなたが先に店に現れる。そう証言しています」
 ページを繰りながら返事は求めず顔色だけ見ている。
「あなたは頭取の連絡係のようだったと。例の3人が写真を写した日、あなたは店に現れていない。と言うことはママが社長と寝たのは伊藤の依頼で頭取は絡んでいないと」
 私は記憶がないから反応もしない。
「マネージャーは伊藤がよく取引先をママに紹介していたと。その頃あなたもよく伊藤と飲んでいたようですな。ここからは今の記憶で聞いてください。黒サングラスの男はあなたを車でぶつけた?」
「はい」
「今あなたは総合的に判断して誰の指図だと思っていますか?」
「伊藤だと」
「なぜ伊藤だと?」
「これは『白薔薇』のママに直接聞いたのです。金を貰っていた係長がママの部屋に入った私をガス栓をひねって殺そうとしたと」
「ママの部屋にどうして入りました?」
「分かりません」





 歪める1

 ビデオの1部があの記者のネームで公開された。テレビでもぼかして放映し、西成の飲み屋街でも話題騒然で検察が現物を証拠物件として提出を要求した。あのビデオにはたっぷり伊藤の指紋がつけられている。すぐにITMファイナンスの社長も呼び出されている。だがカオルが見つからない。
 サエがその週刊誌を見て今朝涙を流していた。カオルが社長のものを屈んで咥えている。
「そこまでしないとダメだの?」
 昼にノミ屋で見たことのある刑事が事務所に現れて取調室に任意で連れて行かれた。
「この男知ってるな?」
 番頭の写真を見せる。
「番頭がな、あんたのことをしゃべっている。関東のやくざから狙われていたと」
「それは事実です」
「番頭はな、記憶が戻っていると証言してるんやがな?」
「それはないですよ」
「だがな、彼奴はあんたに恨みを持っていてな、暇を見ては事務所に張り込んでいた。この写真の男は誰や?」
 マネージャーが車で迎えに来たところだ。番頭はどこまでしゃべっているのか。その時急に戸が開いてスーツ姿の男が顔を出した。刑事は軽く頭を下げると出ていく。
「話は検察が続けて聞きます。あなたは『白薔薇』のママと何度か会っていますね?」
「・・・」
「この男は東京の『白薔薇』のマネージャーです。すでに検察に呼んで聞いています。大阪のホテルの売買の時に偶然に会ったと言っています。それから3度車で運んだと言ってます」
 3度?東京へ行ったことなどは数えていない。こういう時は迂闊にしゃべらないことだ。
「マネージャーはあなたが頭取の依頼を受けて伊藤や『白薔薇』のママを調査していたと言っています。今話題のビデオは伊藤が社長をはめるために取ったと証言しています」







真相 12

 朝一番にカオルから事務所に電話が入った。
「またあの女」
と姉さんが受話器を差し出す。彼女はこれから公園に人夫出しに出かける。最近は病院に入ったままの親分の代わりにヘルメットとステッキを持って出かける。反抗する人夫もたまにはいる。
「検察に呼ばれていたんだってな?」
「丸一日缶詰。お尻から直腸が出てきて痛くて座れないわ」
「タイで黒サングラスが?」
「聞いた。うろうろ歩き回って。それでITMファイナンスの社長がまた揺らぎだした。それでまた昨日痛いところに折檻されて血の海よ。今病院に向かっている」
 相当頭取がイライラしているようだ。
「遂に恥さらしだわ」
 最悪のケースにカオルから渡すと言われていたものがある。社長とカオルのプレイの音声付ビデオだ。この中身をホテルで見たが、社長のものが立たなくて仕方なくバイブを入れている。ここで注目すべきは福岡のラブホテルの入札の話だ。明らかに便宜を図っている。
「伊藤は?」
「これは頭取が言ってたことだけど、横浜からタンカーで伊藤を連れて日本を脱出したそうよ。途中で伊藤を捨てたと。ビデオは事務所に送った。横浜の倉庫のポストからね」
「そこからは不味いんじゃ?」
「すでに警察は倉庫を調べている。頭取はどうしても伊藤が生きていて私と組んでいたことにしたいわけ。届いたら記者に渡して。中には伊藤直筆の社長と私に裏切られた手紙が入っている。私は病院から姿をしばらく隠すけど心配しないでね」






真相 11

 姉さんが朝刊を私の前で拡げる。
「記憶喪失の第2課長が検察に現れると言うのはイサムのことね?」
「ああ」
「イサムは殺されそうになって逃げたとある」
「そうだ。サエに助けてもらった」
「昨日警察が来てやぶ医者の所にイサムの診断書を取りに来た。本当に記憶は戻ってないの?」
「記憶が戻らないほうがいいみたいだ」
 その時あの記者の顔が覗いた。
「先程あのサングラスの男がタイで写真に写っていたと大騒ぎです。これはたまたま別の事件で現地のカメラマンが撮ったものです」
 拡大したものを見せる。
「彼の車ではねられたのですね?元々伊藤が手足で使っていたと言うことを聞いていますが?」
「襲ったのは彼です」
「ところがこの写真を見てください。これは他社の記者が撮った写真です。『白薔薇』のママがこの黒塗りの車に乗った時の写真です。助手席にいるのはあの男でしょ?」
「これはいつの写真ですか?」
「伊藤が行方不明になった頃です。検察では伊藤と社長と『白薔薇』のママは組んでいたとみています。それならこれは伊藤に会うのに車の迎えが来たと言うことになります。彼女は今日検察に呼ばれています」
 カオルが向かった先は頭取の別荘である。この混同はカオルが意識して作った罠にはまっている。







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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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