空白 2019年04月
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模索 6

 男女入れ替えのまま彼を抱いた。いつの間に眠ってしまったのか朝になるとすでに女に戻ったカオルが髪を拭きながら浴槽から上がってくる。内線がかかってきて外の電話を繋ぐ。
「今は手が空いたかな?」
「さすがに朝まではやってない」
 探偵からだ。
「横浜の組からママの捜索の指示が出た。しばらく出ないことだ。そちらも要注意だ。ホテルの救出は当日現れた頭取の仕業と考えているようだ。今朝頭取の赤坂のホテルに組員が張り付いている。それと頭取の鎌倉の別荘に家宅捜査が入っている」
「マネージャに連絡して警察に出かけて捜索願を取り下げてもらってくれ。あのホテルの名前を告げて部屋番号も言ってここに監禁されてたと。やくざが頭取の脅しのためにやった」
「そこまで言っていいのか?」
「作戦変更なんだ」
 電話を切るとカオルが反り立ったものを裸の背中に押し付けてくる。どうもたまったものが抜け切れていないようだ。
「すいません。第1課長いませんか?新堂です」
「はい私です」
「会長に検察の上部と私をセッティングをお願いしたいのです」
「どうする気なのですか?」
「双方にとって程よいところを提案したいのです。当然それは銀行のメリットになります」
「話してみます。返事はどこに?」
「探偵の携帯にお願いします」
 電話を切ったのと同時に背中にどろりとした生暖かいものが飛び散った。














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模索 5

 ちーママが化粧に現れ入念に女装を施された。車を探偵が手配してくれ日暮れにホテルに入る。マネージャは今回はわざと東京中を走り回ってもらった。やはり関東のやくざが張り付いている。彼らは頭取は役に立たぬと『白薔薇』のママを手にし頭取を脅す方向に回ったようだ。多大の不良債権が大きく圧し掛かっている。
「どうだ?」
「来ると思った」
 すでに鞄に荷物をまとめ男に戻っている。これは探偵が昼に準備して運び込んだのだ。
「なんだか恥ずかしいわ」
「妙な気分だな」
 男と女が入れ替わっているのだ。
「腸の腫れは引いた?」
「もう出来るわ」
 1時間10分前に隣の部屋に移って料金の精算を済ませてそのままホテルの外に出る。車のドアが開いて乗り込む。運転手は探偵だ。
「作戦を変える必要が出てきたと思う」
「私もそう思う。もう頭取と戦うのではなく、最後の花道を手伝おうと」
「そうだな。恩返しをすべきだな。色々とあの頃のUSBを見ていると本当に頭取の夢をかなえようとしていたと思うんだ」
「私も最後まで頭取の女で生きようとしていた。裏切ったのは私達よ。もし頭取が修司を殺そうとしなかったら別れる気でいた。頭取も反省していたわ。あそこで嫉妬したと」
「取りあえず私のホテルでしばらく身を潜めて作戦の練り直しだ」












模索 4

「今日の週刊誌の記事で警察が頭取に任意をかけたよ。あれは君か?」
「いえ、ママから指示を受けたマネージャーが渡した。こちらは合併の話を流したが」
 探偵が週刊誌を広げて見せる。やはり写真がアップされている。これは頭取が見れば自分の別荘で窓にいるのがカオルと分かる。警察も気づくだろう。念入りに捜索願いを出した後の日付だ。こういう日の来るのをカオルは想定していた。
「それと例の貸金庫の鍵だが池袋の合併先の銀行だ」
 カオルはどうやら貸金庫の銀行を推定していたようだ。だからあのスナックに寄れと言ったんだ。私がいろいろ出し入れするのを知っていたようだ。
「ママとも連絡は取った。今朝頭取が現れたようだ」
「何かあった?」
 また凶暴な行為を要求したのか。
「1時間ほど話して帰ったそうだ。妙な想像を与えないように聞いたことだけ伝える。合併は決まった。同時に私は銀行を去る。本当はお前といつまでも暮らしたかった」
 探偵は言葉を思い出すように抑揚なく言う。やはりカオルを愛していたのだ。
「新堂を近づけすぎた。まさか恋に落ちるとは。だが今になってみれば新堂は私と似ていたんだろう。気付くのが遅かった。それにどうしてあの男に新堂を殺すように指示したのか。それまで新堂もカオルも私の手足だった。あそこから何もかもが狂ってきた」
 確かに頭取の言うようにカオルと密会していたが頭取を裏切るつもりもなかったと思う。
「貸金庫のものは二人で分けなさい。その代りその中にある金以外のものは墓場まで持って行ってくれ。でなければ二人を殺すことになる」
「今夜カオルを救出する。段取りをしてください」
 今度カオルは関東のやくざに狙われる。







模索 3

 いつもの生存確認を入れる。
「大変なの。留守中に泥棒が入ったようなの」
「警察に?」
「何もに盗まれるようなものはない。でも心配なのでボンのところに泊めてもらっている。預かっているものはボンが店の金庫に入れてくれた」
「店は?」
「フミコが一緒に出ているから安心」
 頭取がまだ悪あがきをしているのだろうか。それならカオルが心配だ。今日は大阪の記者が東京に来ているので夜に新宿で会う。途中に探偵に電話を入れてカオルの安否を調べてもらうことにした。今日は黒縁眼鏡にスーツでサラリーマンの群れの中にいる。カメレオンのように安全だ。
 約束のスナックに入る。記者が奥のテーブルで手を上げる。ここはカオルとよく来ていた私のマンションの近くのスナックだそうだ。カオルに寄るように言われている。どこか懐かしい感じがする。
「久しぶりだね?寿司盛りにする?」
「特別に作ってくれていたそうですよ」
 記者がすでに色々と聞いていたようだ。
「昨晩に来ていて今朝は本社の担当記者と検察に出かけました。検察の上の方から圧力がかかっているようですよ。それで警察が捜索願に基づいて関東やくざのがさ入れをしたようです。それとタイに行ったという組員を引っ張ったようです」
 サングラスの男をやったのはやはり関東やくざと警察も掴んでいるようだ。
「マネージャーとも会いましたよ。それでこの写真を貰ってきました」
と頭取の鎌倉の別荘の写真を出した。マネージャーには今カオルが監禁されているホテルをすでに教えている。きっと会いに行ったのだろう。
「頭取の別荘ですね?」
「この写真を拡大すると2階の窓に『白薔薇』のママが映っているんですよ。これは明日の雑誌に乗せます」
「なら合併の話も添えてください」
 会長の話の中の要点をまとめてきた。とにかく頭取と総理を縛り付けておくべきだ。そこから次の糸口に繋げたい。

















模索 2

 『白薔薇』のママの捜索願を詳しく書いたあの記者の記事を読みながら、第1課長の車で赤坂のホテルに入ったのは10時を過ぎてからだ。
「お遅くなって悪いな」
 会長は今夜ここに泊まるようだ。ソファーにワイングラスが並んでいる。
「頭取と今まで話していた。彼は従兄弟の息子だ」
と言ってスーツ姿の細身の男性を紹介する。
「新銀行の合併の大筋は決まったよ。双方頭取は後進に道を譲る。両行で交渉中だが私は彼を頭取として推薦した。頭取は規模で決まるから今までの頭取の作戦があったからこそだ」
「よく引きましたね?」
「どうも総理が新しいポジションを用意したようだ。ただこれも実現するかどうかは分からない。実際に郵政民営化はまだ見えないところがたくさんある」
「新堂君は銀行には帰らないのか?」
 横でワインを手にしている常務が尋ねる。
「ええ、戻る気はありません」
「もったいないな。あのUSBを見たがよく出来ている。頭取は運動資金を稼ぎ出しながら、負債の調節もしていた。なかなか私にはできないよ」
「まあ、先ことは考えないことさ」
 会長は坊ちゃんの血筋でそこが鷹揚だ。頭取は戦国大名のように駆け抜けてきた。資金も稼ぎ出さなければならなかった。
「こうなって見て私は逆に頭取を心配している」
「どうしてですか?」
「凶器のようなものが目に宿っている」







模索 1

「ここの机でしばらくどうかな?」
 探偵の事務所にしばらく厄介になることにした。カオルがマネージャに連絡を入れて500万を借りることにした。しばらくは探偵事務所の近くのビジネスホテルに泊まることにする。
「頭取はあの日から別荘から出て赤坂のホテルに移っている。今日は9時から3時まで役員会だ。合併の件だ」
 新聞を開いて見出しを見せる。大型銀行合併の時代が始まるとある。すでに3つのグループが交渉を始めているようで政府が指導しているように見える。
「両行とも合併にはすでに合意しているが、どちらが頭取を採るかで揉めているようだ。助け出す準備はできているが?」
「実行は待ってほしい。頭取とはできるだけ円満に話で決めたい。やくざの方は大阪の若頭に相談している。頭取と会長では勢力はどうなんだ?」
「数では頭取派は多いが、腹の座った人物がいない」
と言いながら役員の派閥表を見せて説明する。これは私が作ったものに最近の修正を入れている。
「この◎の常務は?」
「その◎は君が点けていたので調べてみた。家系には遠いが長らく海外に出ていて、まだ50歳代後半だが切れる。頭取も何度か君に接待させて引き込もうとしていた。どうも会長は聞いたところでは相手銀行に若返りを要求しているようだ。役員会では頭取派は沈黙している。頭取逮捕が頭を過っているようだ。それに今は動ける腹心がいない」
 私のことだ。
「直接対決はしばらく待った方がいいと思う。今朝マネージャーから電話が入って、ママの使っていたパソコンもデターを盗まれたと言っていた。もちろんそんなところにはないと言っている」
「まだ足掻いているわけだな」
 私は鞄の中から鍵の型を取った薄紙に2桁のアルファベットと5つの数字を記載しているのを見せた。
「この鍵がどの銀行の支店の貸金庫の鍵か調べてほしい。夜には会長と赤坂のホテルで会う」
「そちらにも一人回わそう」







新しい道 13

 一目では女としか見えない化粧を施した。自分でも抱きたいような不思議な気分になる。
「さすがにちーママだな」
「元がいいからよ。玉取ったら?」
と言って運転席からスカートの中の竿を握る。危ない目をしている。
 6時にホテルに着くと案内板を確認して、エレベターで最上階に上る。連絡通りの部屋に入る。
「へえ、こんなに美人になるんだなあ」
と言いながら探偵が監視カメラの位置を紙に書いて説明する。夕食が運ばれたから朝まで誰も来ないと言う。
 薄くドアを開けてカメラの動きを見る。その隙を見て隣のドアを押す。
 待っていたのかカオルが起き上がる。私は思わずキッスして抱きしめる。久しぶりの感触だ。頭の上に薬の袋が置いてある。
「どうなんだ?」
「頭取の愛憎表現なの。もう彼のものは立たないわ。最近はアナルに花瓶を入れるのにも飽きて、生身の腕をすっぽり入れる。そして力任せにかき回す。爪のばい菌が入ったらしいの。ほらこんなにお腹が膨れているの?自分で塗るのは難しいから消毒して塗ってくれる?」
 突き出した尻の穴から薬を塗った腕をゆっくり入れてく。カオルのものが反り立っている。私は傷つけないようにゆっくり腕をよじる。もう片方の手で反り立ったものをゆっくりしごいていく。
「会長を動かしたよ」
「ええ、予定通り」
「総理も電話を入れた」
「頭取は彼に呼ばれて行ったわ。おそらく大きく狂い始めたと思うの。いいいいわ」
 ゆっくりと腕を抜き出すと同時に私の片方の手に暖かい精液が飛び散る。
「こんな治療なら何度でも受けたい。私は逃げ出さない」
「分かっている。段取りをして頭取と話をする。でもやくざの方は?」
「頭取とうまくいってないのよ。債権機構が入って処理を始めている。それに今は会長を柱とする役員会が銀行を指揮している。頭取は蚊帳の外だわ」
 私は2時間が立つ前に探偵から預かった携帯を置いて外に出る。







新しい道 12

 今日も生存確認の電話をサエに入れる。部屋には電話がないので食堂でする。それから若頭の携帯に電話を入れる。
「すいません。今東京にいるのですが?」
「頭取に会うのか?」
「はい。ママが監禁されているので。あの組は分かりますか?」
「どうもあの殺されたサングラスの男は分家の横浜の組だ。その組長が指揮を執っているということだ。仲間内の話じゃ伊藤と組んでかなり金を引っ張っていたが、今は焦げ付いて100億ほどを抱えている。頭取と組んでその金を踏み倒す予定だ」
「武闘派なのですか?」
「いや、私と同じ経済やくざだ。得にならないことはしない。彼とは話ができる。必要になったら力を貸す」
 電話が切れると、すぐに探偵の携帯に入れる。
「昨夜別荘からママが運び出された。朝一番病院に寄って新しい隠れ家に移った」
「どうして病院に?」
「医者にも会って聞いたが、大腸に傷が出来ていて腫れているということだ。移したのは失踪届が出たからだそうだ」
 マネージャーが予定通り出したようだ。
「どこに移されたか分かるか?」
「今そのホテルにいる。デルヘル専門のホテルだ。彼女は動けないからそれほど警備は厳しくない。逃がすのは難しいが会うことはできる。女装で来れるか段取りはしておく」
 さっそくその話をマネージャーにしたら、あのちーママが衣装を揃えてやってきた。彼女は私を全裸にして化粧を施して女装させて車に乗せる。どうも彼女が今東京の店を見ているようだ。














新しい道 11

 この赤坂のホテルは総理が私との打ち合わせでよく使っていた。それにUSBから総理の個人携帯の番号を見つけていた。この番号は私設秘書以外頭取のような一部しか知らない。会長との会談を終え会長の携帯から直接番号に連絡を入れた。声を聞えるようにした。
 しばらく呼び出しが続いて、それから長い沈黙があった。
「第2課長の新堂です。ご無沙汰しています」
「記憶を失ったと聞いているが?」
「まだ記憶を失ったままです。ですが『白薔薇』のママを助けに出てきました。私の資料は手元にあります。よろしく伝えてください」
 頷いたような声を残して切れた。
「総理の声だ。今度は私から頭取と面談を申し込む」
 と言うなり会長がメモに自分の携帯番号を書いた。私はその足で有楽町の雑居ビルに向かう。これもUSBの中に打ち合わせ記録として出てくる。どうも私が個人的に使っていた探偵のような気がする。
 ノックしてゆっくりドアを押す。手の感触が覚えている。
「へえ、新堂さん」 
と机の向こうから声がかかる。彼は私を応接室に入れると鍵をかけた。
「君が消えてから、伊藤が何度も現れた。俺に乗り換えろと言っていたが彼奴は信用ならんのでな」
「頭取は?」
「頭取は私の存在を知らない。まだ記憶がないままなんだな?」
「そうだ。力を貸してほしい。金も用意できる?」
「金は最後に300万貰っている」
 私はメモ帳に頭取の別荘の住所を書く。
「ここに『白薔薇』のママが監禁されている。助け出せなくていいから調べてくれ」








新しい道 10

 朝サエに生存確認の電話を入れる。それから出勤する第1弾のワゴンに相乗りし赤坂のホテルの前で降ろしてもらった。第1課長とは夜連絡が取れホテルの1室で会長と会うことなった。フロントの前に第1課長がサングラスをかけて待っている。黙ってエレベーターに乗り込み私が続く。廊下には頑丈な男が2人立っている。
「いや、東京にいよいよ出てきたんだね。先手を打った」
 会長が週刊誌を拡げて見せる。
「あの記者が君の原本のUSBを持っていると書いている。そのUSBのコピーがすでにさる人の手に回っているとも。私はさる人なわけだね?」
「『白薔薇』のママが頭取の手に落ちています」
 私は背広のポケットから鞭の傷跡だらけの背中の写真1枚だけ見せた。
「ママは鎌倉にいる。頭取はママを殺さない。彼は私が原本のUSBのコピーを持っているとこの記事で確信しただろう。それで昨日の役員会では合併について私の意見を求めてきたよ。私は合併についてはやむなしと答えた。もう粗方段取りが出来上がってしまっている。後手だ。ただ彼を新銀行の頭取にはできない」
「後ろに総理がついていますよ」
「やはりな。それで少し見えてきた。どうも検察の勢いが止まっていたからな」
「実はこのUSBより凄い証拠があるのです。ただこれを出さずに治めたいのです。それは私の力では無理です」
「私も銀行を揺るがしてまで頭取を追い込む気はない。まして総理を引き出すのは日本を揺るがす。つまり私が握っているということにしたいわけだ。君とママに手を出すなという無言の圧力をかけると言うことだね?」
「私も頭取に仕えてきたので」
「腹芸をしろということだな?」












新しい道 9

 マネージャーからの封書を持って新幹線に飛び乗った。封書の中には全身鞭の傷が生々しく鮮血を噴いている写真が3枚入っている。とくにカオルの亀頭にホッチキスが多数打ち込まれていて真っ赤に染まっている。出る前にサエに黒鞄を預けた。毎日連絡が入らなくなったら記者に渡すように伝えた。
 八重洲口に降りると待っていたようにワゴンが近づいてくる。
「車は見張られているのでホステス送迎用のワゴンで来ました。これから寮の方に入ってもらいます」
 マネージャーの顔がいつになく強張っている。
「頭取の別荘に軟禁されているのか?」
「だと思います。頭取は会長とママが組んでいると見ています」
「なぜ急に会長と組むことに?」
「頭取が関東のやくざを使って部屋と店を家探ししたのです。次はあなたが狙われるとママが動いたのです。それだけ頭取は追い詰められています。ママが前から言っていたのですが、頭取は精神的に異常になっているとのことです。もちろん殺すようなことはないと思います。ママかあなたが鍵を持っていると思っていますから」
「でも駆け引きをしないと」
「そうです。力を貸してください」
「これは二人の戦いだ」
 マネージャーは用心深く何度もバックミラーを覗きながら池袋のホテル街を入っていく。
「店にも別荘にもやくざが何人も張り付いています。これからどうしますか?」
「まず今夜にでも会長と話してみます」
 記者から第1課長から1部削除したUSBの提供を受けると連絡を貰っている。
「会長は頼りになるのですか?」
「銀行を守るところでは頭取とも同じ部分がありますが、新しい銀行から彼を排除したいと考えています」
「合併は避けれないのですか?」
「遅すぎます」
 この合併が実現すれば日本一のメガバンクになる。すでに何年もかけて総理と準備がされていたはずだ。その調査も私のUSBに入っている。














新しい道 8

 親分の息子の組長の物件を見た足で朝連絡のあった記者と会う。彼の『白薔薇』のママの連載は好評なようだ。彼とは持ちつ持たれつの関係だ。それにカオルを愛情を持って見つめてくれている。
「東京に行ってきたんだが」
「頭取の国会答弁を見ましたよ。ずいぶん疲れていたようですが?」
「どうも会長と揉めているようですよ。それに頭取とママの映像があると噂です」
「それはどこから出ているのでしょうか?」
「もちろん私の担当事件ですから調べましたよ。これはブラックジャーナル誌が流しています」
と言ってその記事を出してきて見せる。
「ここは元々会長が頭取時代に使っていた雑誌です。少し話を聞いてみたのですが、情報元は『白薔薇』のママらしい」
 やはり。カオルは危険な綱渡りをしている。
「その記者は頭取よりもっと凄い映像があると言っているんです。もちろんまだそれを手元にはしてませんが」
 私の持っている黒鞄に鍵がある。USBを見ているうちにそういう結論にたどり着いた。カオルは黙っているが私がその鍵を持っていると思っている。
「それより東京にいて『白薔薇』のママに一度も会えなかった。マネージャーも口を濁している。ホステスにも聞いてみたが、どうも店にもいないようだと。嫌な予感がする」
 頭取が軟禁したのか?
「実は私のUSBは検察に渡したものではなくもう一つあります。これが銀行の会長の手元にあります。会長とは私から話してみますが、一度取材をしてもらえませんか?」
「そんなことをしても?」
「ママが危ないのです」
 いつまでも隠れていてはカオルを守れないと東京に出かける用意をしている。






 







新しい道 7

 久しぶりの休みで朝からユイを寝かせてサエと布団に潜りこんでお互い3度も出し続けた。サエは涙を出して抱かれている。欲求不満だったのだろう。すやすや寝ているサエの横で第1課長から連絡のあった頭取の国会答弁をテレビで見る。野党の議員が新聞に書いてあることを発言しているが、頭取は表情も変えず虚空を見ている。
「伊藤をITMファイナンスに送ったのはあなたですね?」
「送ったのではなく紹介しました」
「不良債権を銀行からITMファイナンスに斡旋した?」
「そこまで私はタッチしていません」
「銀行内のITMファイナンスの負債については?」
「他行の負債と比べてまだ当行は少ないと言えます。それに単独メインではありません」
 この追求では無理だ。総理が隣の官房長官と何か話している。やはり頭取の予定通りの道筋なのだろうか。だが余裕のある顔に見えるがずいぶん痩せたなと思う。
「これは下賤な噂ですが、ある週刊誌にITMファイナンスの社長と同じように『白薔薇』のママいえ男と寝ている映像があるらしいですね?」
 まさかカオルが情報を流した?急に頭取は厳しい顔になって横を向いてしまった。
「世の中では私達は下賤なのね?」
 いつの間にか起きていたサエが哀しそうに言う。
「人はいろいろだ。サエもカオルも好きだ。昼から暖かくなったしユイを連れて動物公園でも行くか?」
「だったら晩飯はフミコ夫婦とここで鍋でもしない?」
 私はやはり目を覚ましたユイを抱き上げる。ユイには父と母に見えているのだろう。にこにこ笑っている。
「アヤの墓を頼んでいる」
 いずれユイに打ち明けて3人同じ墓に入ろうと言っている。








新しい道 6

 USBを見ながら脳に中に時々稲妻のようなものが走る。これは記憶が戻ったというものではなく、繊細に組み立てられた事実から生み出されてくるもののようだ。カオルの中に入った時に無意識に差し込む向きを変えるような行動だ。どこが深く彼女に届くか体が憶えている。
「今日で最後ですね?」
 第1総務課長がコーヒーを入れて入ってくる。
「第2課長をどう思っていましたか?」
「そうですね。焼き餅をしばらく焼きましたわ。重要なことは頭取は何も私には話されませんでしたから。それでいつの間にか会長の耳になっていました」
「銀行再編はどこまで進みましたか?」
「名前は言えませんが相手も決まっています」
「それは今回大蔵省が言ってきている相手と?」
「同じです」
「頭取の予定の道筋ですね?」
「会長は?」
「最初は抵抗を試みられましたが無理だと判断したようです。Nは総理ですね?」
「会長も?」
「このUSBを見てから確信されてようです」
「会長は今後どうされたいのですか?」
「頭取が自分の描いた絵をもう自分では歩けないだろうと。その代り会長がその道を歩こうとされています」
「どうして?」
「道はもうやも得ないが、銀行の先君の魂だけは残したいと。新堂さんは?」
「これからは全く別な道を歩きます」





新しい道 5

 親分にしばらく3時に上がらせてもらうように頼んだ。それで翌日からもう3日間タクシーに迎えに来てもらって自分のUSBを見ている。自分でも驚く作業量だ。今日は8時に福岡から戻ってくるカオルと『白薔薇』の大阪店で会う。
「どう少しは見えてきた?」
 テーブルにすでに皿が何枚も並んでいて、珍しくワインを飲んでいる。風呂は済ませたらしくバスタオルから長い脚が覗いている。
「どうも頭取は総理と金融界の再編を考えていた節がある」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「ライバル銀行を詳細に調べさせている。それで負債に赤丸を入れている。ITMファイナンスに要注意先を年々移動させていた」
「でも自分が貸していたら同じじゃない?」
「それがかなり手の込んだことをしている。どうも伊藤には他の銀行の借り入れを増やすように指示していたようだ。作った時は80%のシェアーが30%まで落している。最後は会社を清算する腹だったようだ。ライバル銀行が3行並行メインになっている」
「修司はお金を総理に運んでいたのね?Nは総理だわ。でも会長はそこまで知っている?」
「おそらく知らない。検察もそうだ。もう少し下を見ているのかと思う。頭取が勝つか会長に軍配が上がるかまだ微妙だ」
「もう少し辛抱なのかな?」
と言いながらカオルのバスタオルは肌蹴てて立派なものが反り立っている。







新しい道 4

 戸棚のスーツにネクタイを締めて言われたホテルに着く。すると待ってたように銀行員らしい2人が挟むようにエレベーターに乗る。一人がエレベータの前で見張りをして、もう一人が個室に案内する。ドアが開くと私だけを中に入れる。
「久しぶりだね。新堂君」
 白髪で頭取より10歳ほど上に見える。横に40歳ほどの婦人が座っている。
「第1総務課長だよ。憶えていないかね?」
「記憶にありません」
「単刀直入に話をするが、我が行は大蔵省から合併を求められている。今回の調査は君のメモで行われた。あのメモは伊藤絡みの債権ばかりではなく、君なりに将来危険な債権も選んでいた。見事に8割が今不良債権になっている」
「『白薔薇』のママとは?」
「私もママと寝た仲じゃ。ここにいる課長にはばれているわ。そういう意味では君とも兄弟だな。ママは私に君も含めて保護を申し入れてきた。私は我が行を救ってくれと泣きついた」
「でも私にできることはあるでしょうか?」
「私は頭取の傍にいたから君のメモを見て想像がついた。ママから君のUSBも預かっている」
「頭取も同じものを?」
「あれにはほとんど肝心な内容が抜かされている」
「ママが?」
「彼女は頭がいい。君が彼女の部屋で見たUSBは頭取に渡したものだそうだ。こちらには5倍もの情報が入っている。それを早急に大阪支店で見てもらいたいのじゃよ。記憶ではなくて君の脳で見えるものを教えてほしいんだ」
「そんなことができるでしょうか?」
「君は今何も学ばずに貸付をしているだろう?脳がしっかり記憶を持っているのじゃ。ママは昔通りに自分を抱いてくれていると言ってた。しばらく第1課長を大阪支店に置いてゆくから頼む」












新しい道 3

 ボンが朝喫茶店を訪ねてきた。フミコに男の子が生まれた。まだ親父には内緒にしているが、明日からこのマンションの下の階に引っ越して来るという。サエは話が出来ているらしく、昨日から早く店を閉めて引っ越しを手伝っている。
「大きくなったら結婚させたいな」
「それは気が早すぎる」
 迎えに行くというボンの背中を叩いた。
 事務所に出るとカオルから待っていたように電話が入る。いつものように姉さんが
「変な女」 
と受話器を渡す。だが会えばまたカオルに恋しそうである。サエと同じ匂いがするのだ。
「今どこ?」
「これから飛行機で福岡に行く。オープンを済ませたら大阪に寄るわ。これはまだ伏せておいてほしいのだけど、頭取が国会に呼ばれそうなの」
「ITMファイナンス事件で?」
「それだけじゃなく銀行内で相当な負債が出てきたようなの。頭取がすべてに絡んでいるのかどうかは分からないけど。それで明日6時にホテルで会ってほしい人がいるの」
 ホテルの名前と電話番号を控える。
「修司のいた銀行の会長よ。前の頭取。私と何度も会っている」
「頭取は?」
「知らない。頭取から身を守る最後のルート。向こうは修司を良く知ってるわ。会長も昔は私のお客でもあったの。伊藤も始めは双方に手を伸ばしていたわけ」
「分かった」
「それとサエを最近抱いてないでしょ?だめよ」
「それも分かった」








新しい道 2

 稟議を病院まで持って行って親分の決裁を貰う。息子の組長の貸付の段取りに入る。親分は姉さんにいい旦那を見つけて隠居を考えているようだ。私がサエと一緒になったことを残念がっている。その姉さんはまだサエに恋心を抱いている。
 昼過ぎに記者が隣の喫茶店に来ている。『白薔薇』のママの連載をこの記者は書き続けている。彼にとってカオルはキーマンなのだ。
「すいませんね。あなたがママのアリバイを証明したと聞いています」
「いつも早いですね」
「実は大蔵省が動き出しましたよ」
「と言うことはメインバンクに?」
「検察も2人の重要な証人を失い裏の手を出したというところです。嘘発見器もかけられたそうですね?」
「残念ながら記憶は戻っていません」
「それで思い切ってあなたのメモに基づいて調査が始まりました。伊藤は架空名義で50億ほどバックを受け取っていた。その半分を頭取に。その口座はあなたが管理していた。そしてそこからNに流れた」
「検察もそう思っているでしょうね?」
「でも記憶のないあなたから引き出すのは無理と思っています。私は『白薔薇』のママを書いていて、二人は恋人同士であったと。あなたを殺そうとしたのは伊藤ではなく頭取だと思います」
「それには証拠がありませんよ」
「だから私は『白薔薇』のママを書き続けますよ。ママはあなたと頭取の間にいます。今は何とか頭取の要望をかなえていますが、その壁はいつまでも持たないような気がします」
 彼の言うことはよく分かる。だからカオルには共に戦うと言った。
「これは私の感想ですが、あのママなら男でも愛せると思いますね」
 彼は未発表のゲラのコピーをテーブルに置いていった。そこには新宿のマンションと部屋の中の写真が入っていた。それにかなり克明にカオルと私の愛の巣を聞きだしている。私は頭取に殺されそうになってカオルに助け出されて逃げたと推測している。






新しい道 1

 私の娘を結衣と名付けた。カオルに頼んで私の住民票を東京からこちらに移して貰った。これで正式に結衣は私の長女になった。だがサエは妻として入れることは出来ない。
「悪いな」
「うんこれで充分すぎるほど幸せよ」
 ユイ、ユイと何度も呼んでいる。
 今日は親分の息子の組長が持ってきた案件を小頭に案内してもらう。事前に病院に行って話をしたら、問題なければ貸してやってくれと言われている。
 小頭にベンツに乗せてもらって、阿倍野通りを走る。資料を見ながら小頭に説明を求める。
「これはITMファイナンスの貸付先の中にありますね?」
「ああ、ここはこの不動産会社に依頼を受けて地上げをしていたところなんだ。それが資金が切れて競売になるという話だ。やっと真ん中のビルを口説いたところで」
 車を降りてビルの中を案内してもらう。築25年と古いが9割がスナックで埋まっている。
「単体として運用が出来そうですね?2億3千なら利回りも悪くない。取り敢えず1年貸しとして利息はまかなえますね。周りのITMファイナンスはゆっくりと見ましょう。管理は当社がするという条件で稟議を上げます」
「やっとまともな儲け話が来たんや頼むわ」
 事務所まで送るという小頭に頭を下げて歩き出した。なんとこの裏通りにサエの店があるのだ。久しぶりに店を覗くと、サエがユイをあやしながら裁縫台に向かっている。フミコは産婦人科に入院をして休んでいる。
「近くに来たので」
「コーヒーを取るわ」
 ずいぶん預かりの衣装が増えている。
 テレビに黒サングラスの男の顔が映っている。タイの運河で浮いていたという。背中に銃弾を3発受けている。やはりカオルの言っていた通りになった。この事件はどこに向かってゆくのだろう。検察は重要な証人を2人失ったことになる。






歪める 11

 カオルは酷く疲れていて風呂に入ったら眠り込んでしまった。私は暗くなってから店の裏の露地から抜け出してサエのもとに帰った。
 翌朝は10日前からの京都駅裏の取引で金融屋のやっさんと購入していた土地の売却を終えた。それで夕方には若頭の待つスナックに直行した。この土地も伊藤絡みの融資が焦げ付いている大口物件だ。
「ご苦労!」
 と若頭の握手を受けてアタッシュケースを3つ並べて札束を見せる。それから若頭が2千万を掴みだしてやっさんの鞄に入れる。それが済んで小頭と5人の男たちが入ってきて引き上げていく。
「まあ、助かった。伊藤の事件がここまで来ていたら塩漬けもあったわな」
 ママがテーブルに大皿の寿司を並べてブランディを入れている。
「ところで検察で『白薔薇』のママのアリバイを証言したんだってな」
「それも分かりますか?」
「色々ラインがあってな」
「怖いんだよ」
 やっさんが大げさに手を広げる。
「それともう一つITMファイナンスの社長を殺したのは名前まではいえねいが、関西のやくざだよ」
「それは?」
「社長は伊藤とは別に関西やくざに資金を流してバックを取っていた。それなのに一律に競売の手続きをされた。悪いことをしていたら最後は腹をくくらなあかん。それはわしらもそうや」
 9時にお開きになってやっさんがタクシーで送ってもらう。彼は持っていた鞄からもう一つ鞄を出して1千万を入れる。
「そんなに」
「これは若頭からやない。わしからや」







歪める 10

「ごめんなさい。修司を修司を巻き込んでしまいました」
 隣の席に座っているカオルが涙を流している。
「これは二人の戦いです」
「化け物の仲間に見られます。サエも可哀そう」
「それはきっと私が選んだ人生だったのですよ」
「それで少し気が楽になったわ。ここからは力を貸して?」
「いったいどういう話なっている?」
 マネージャーは後ろの車を見ながら、
「一度店に入って裏の露地から出てもらいます」
とわざと新大阪に向けて走る。どうも新聞社の車がついてきているようだ。
「検察は伊藤がすでに殺されていると見ています。それと私が頭取の指示で動いていると見ています」
「やはり」
「それでは社長は頭取の?」
「それは違う。でも分からない」
「逆に関東のやくざも頭取もタイにいる黒サングラスの男を消そうとしている」
「それはどうして?」
「今回伊藤の隠し口座から金を引き出す許可を与えたのは頭取。その金を関東のやくざが投資の損失補填をしている。これに対して彼は金額アップをかけて脅しているの。それに警察もタイに入った」
「かなり情報を持っている?」
「検察はキーマンとして修司と彼をマークしている。彼は伊藤殺害のキー、修司はNつまり総理のキーを持っている。ただ検察は総理という判断はできないでいる」
 車が新大阪駅の中で回転をして後ろの車を巻いたようで後は大阪店のガレージに入る。








歪める 9

「マスコミに伏せるというのは守る」
 電話で話した最初に入った大阪の検察官だ。隣に作業服を着た男が座っている。
「電話で話したように任意で嘘発見器を受けてもらいたい。それとアリバイの証拠を取らせてもらう。いいですか?」
 嘘発見器の手順を取るのに30分がかかる。その間に刑事がホテルに出かける。
「このホテルに修司と透が1晩泊ったということですね?」
 『白薔薇』のママの写真を指差して言う。
「はい」
「あなたの記憶は戻っていますか?」
「いいえ」
 検察官が一人で頷いている。
「ママとは第2課長時代そのような関係だったのですか?」
「とママから聞きました」
「その関係は今回が初めてですか?」
「いえ、同じホテルで2度目です」
「ママは伊藤と組んでいましたか?」
「記憶にはありません。ただ殺されそうになったのを助けたと言っています」
 検察官が机に黒サングラスの男の写真を置く。
「彼に車にぶつけられたと?」
「いえ、私を助けてくれた人がそう教えてくれました」
 2時間ほど様々な質問を受けた。電話が鳴って事務官が頷いている。
「アリバイは採れました」
「彼は同じ階にいます。もう少し待っていただければマネージャーが来ますのでご一緒いただけますが?」
「ええ」
「あなたは頭取に命じられて伊藤とママを調べていた?」
「記憶にはありません」













歪める 8

 他誌だが『白薔薇』のママの伊藤共犯説が見出しになっている。サエがモーニングを食べながら涙ぐんで見ている。ボンが見つけてきて見せたようだ。
「ほんとなの?」
 この記者は元々ママは伊藤に女になる手術代を出してもらって、『白薔薇』を持たせてもらっている。それで彼の勧めで頭取と寝ている。それで頭取の情報を流していたと説明する。だから社長との絡みも伊藤のために撮っていた。伊藤が姿を消してからも伊藤の隠れ家の横浜の倉庫に出入りしていた。これには黒サングラスの車に乗る写真が載っている。
 今話題の第2課長を自分の部屋に迎え入れたのはママだ。そこで伊藤の指示を受けた係長がガスの栓をひねった。それは頭取の指示で彼が伊藤とママの関係を調べていたという。この辺りはそういう風に見られているのかと思う。情報を都合よく繋ぎ合わせている。となると今回はママが社長を殺したという繋がりになる。
 朝刊を取る。やはりITMファイナンス事件の経過が記事になっている。ここには『白薔薇』のママが検察に留め置かれていることが殺人の疑いと書かれている。アリバイについては証拠になるものがない。
「この日はカオルと白壁のホテルにいた。証言してもいいかい?」
 サエは赤ちゃんにミルクを飲ませている。
「私はカオルと目の前でイサムが寝ても構わないから」
「カオルは私を助けてくれた。今も私のために頭取の要求を呑んでいる」
「そうよねえ」
「今日検察に行くよ。出来るだけ週刊誌の餌にならないようにしてみる」
 検察は本気でカオルを共犯者とは見ていない。






歪める 7

「寿司を食べませんか?」
 帰るところを見透かして記者が訪ねてきた。
「昨日から『白薔薇』のママが検察に泊められています。任意同行ではないのです」
「泊められた?」
 さすがにその情報はなかった。
「この情報はまだどこも記事にしていません。それだけに第2課長の意見を聞きたくて」
と言いながらビールを注いでくる。
「まず警察は社長の自殺を疑っています。確かに不正融資のあなたのメモが出て不利になっていますが、その証拠を示されたわけではありません。本人も今回は退任後の次の顧問も決まっています。それに彼が受けたバックは不明のままです」
「さすがに番記者ですね」
「『白薔薇』のママはちょうど社長が検察を出た時間には大阪に戻っています。つまり彼女にはアリバイがないのですよ。社長は検察で待っていた黒塗りの車に乗りました。警察で調べましたが盗難車でした」
「まさかママが社長を殺してどうなるのですか?」
「検察はそう思っています。これは私の勘ですが、頭取に検察は注目しているようです」
 それは何度かの聴収でも私も感じました。どうも伊藤はもうこの世に中にはいないような気がする。
「殺人は警察の管轄ですからね」
「ママはどう答えていますか?」
「大阪店にいたと。だが証人がいません」
 その時間だと私と阿倍野の白壁のホテルにいた。カオルはそれを伏せている。
「検察は殺人とは考えていないが、聞いておくにはいい機会だと思っているはずです」
 困ったことだなあ。






歪める 6

 集金の合間に昼飯にボンと女将に店に入る。ボンは親父が倒れたので取り敢えず本店に5時から入るようになっている。それで最近は酒の配達はアルバイトを雇い、夜学はしばらく休んでいる。
「フミコ入院したんか?」
「サエのようにボンとはいかんもんな」
「確かに」
 ボンはサエが男だともう知っている。フミコもだ。最近は前ほど妹を強姦したという噂は少なくなっている。妹から抱きついたに変わっている。これはサエがボンを通じて流したものだ。
 ご飯を口に放り込んでテレビの画面を見る。
「あれITMファイナンスの社長やないか?」
とボンが音を大きくする。
「・・・検察の取り調べの後、5時間後死体で浮いていたと・・。外傷は見られず自殺ではないかと・・・」
 自殺か他殺か。伊藤の話を聞いてから頭取に恐ろしいものを感じている、そんな男だったのか。その男の忠実な手下だったわけだ。
「何か裏にとんでもないことが隠れているような気がするな」
 ボンがぼそっと言うのに妙に頷いている。私の記憶が戻ればおそらく解明されることは多いだろう。記憶が戻らないというのも危うい気がする。
「記憶が戻ってもサエを捨てたら許さんから」
「それは分かっている。その言葉はボンに返しておくよ」
 画面には『白薔薇』のカオルの写真が出ている。
「・・・検察が再度大阪にいる『白薔薇』の身柄を確保した…」





歪める 5

 もう立たないというまでお互い精液を絞り出した。最後には透明な一筋の水滴が亀頭の上に流れた。カオルも私も追い詰められていく恐怖感に包まれたようだった。
 カーテンから朝陽が漏れてきて時計を見た。カオルが風呂から出てきて、
「サンドイッチ頼んだよ。会社に行くのでしょう?食べたら私はもう少し寝てから大阪の店に出るわ」
 ドアブザーが鳴ってモーニングセットが運ばれてくる。カオルがバスタオルを巻いてドアを開ける。私はさっとシャワーを浴びるとタオルで拭きながらベットに座る。
「さすがにしょぼくれている。私はまだこれよ」
とカオルはバスタオルの中から反り立ったものを見せて笑う。
「まだ若いんだから」
 なんだか昔こんな光景を見たような気がした。
「新宿のマンションでは朝も必ずやったよ。サエは可哀そう。彼女はまだ若いんだから朝でも2度はしないとね」
「これからどうする?」
「頭取もそろそろエッチも表舞台もお終いだと思うわ。もう自分のが入れられないのよ。だから瓶やらを入れたがる。それに引退の時期を図っている」
「院政を引くのじゃ?」
と言いかけて少し記憶が戻り始めている妙な気がした。
 カオルも目を光らせた。
「修司夜私ののどちんこに思い切り入れたでしょう?」
「憶えてないな」
「あれは修司の癖よ。私が涙と涎まみれになるのを楽しみにしていた」






 

歪める 4

「明日7時にいつものホテルに来てとカオルねいさんから電話があった。泊まってきてもいいよ」
とサエに言われて頷いて事務所に向かった。どうも刑事が張り付いているような気がする。それで姉さんに言ってミナミの集金をして直帰を伝えた。そこからタクシーに乗って路地を何度も迂回してもらってホテルに入った。カウンターに行くと奥から支配人が出てきて部屋を教えてくれる。
 カオルは風呂を上がってきて取り寄せた寿司にビールを飲んでいる。少しやつれたような気がする。
「修司も飲む?後でたっぷり可愛がって」
「今回は頭取の指示?」
「ええ。でも検察も馬鹿じゃないわ。私ができることはこのくらい。サングラスのやくざ、殺されるかもしれないわ。頭取が親分と話をしてた。検察で架空口座の話出たでしょう?」
「ああ」
「12億ほど残っていたのよ。それを親分が回収した。頭取の同意でね。元々頭取の持っていた口座なの。頭取を脅して口座はそのまま抜けてるね」
「検察はNを気にしている」
「そうね。でも寝たのは私だけど、詳しい話は知らない。伊藤の言うのには頭取に渡した半分の大半はNに流れていると聞いた。それを運んでいたのは修司よ。修司がその口座とビデオを持っていると今でも頭取は思っている」
「じゃあ殺しに来るか?」
「それはない。修司の記憶は戻っていると思っている。と言うことは殺して済む相手ではないと思っている。頭取は修司を買っているのよ」
 カオルは肌けたバスタオルにょっきり反り返ったものをしごいている。








 

歪める 3

 今日は1階のレストランに制服の警官が張り付いている。マナージャーはどこまでを話しているのだろうか。それとカオルはどこに姿を隠したのか。今姿を隠すのは彼女にとって不利だ。今一つ見えない。
 検察官室に入るとどこか騒がしい。
「先程福岡で『白薔薇』のママが任意出頭に応じました。ITMファイナンスの焦げ付いたラブホテルを価格の2割ほどで任意処理をしたようです。これは社長にとっては非常に不味い。向こうでも検察が今調べておますので連絡を取りながら午後は進めていきます。ところでママが面白いものを提出しました」
 ファックスで送られてきたものを机に載せる。これは私のパソコンにあったITMファイナンスの融資のリストだ。どうしてここにある。
「これはママがあなたから預かっていたものだと言っています。総額の不良債権の7割が集まっています。再建の後ろにあなたの得意の暗号がついています。Iというのは伊藤です。ここにあるSはさしずめ社長のことですね。ISとあるのは双方が係った?SとISでも300億はあります。でもこの時期にママがこんな行動に出たのかが分かりませんね」
「ママはどう説明してるのですか?」
「伊藤と確かに組んでいた時期があると言ってますが、頭取からあなたの資料を見せられて諫められたと言っています。それにあなたを殺そうとした伊藤を恐れたと」
 どうやら頭取の指示でカオルは動いているようだ。
「だが私はあなたのNの人物に興味を持っています。ママはどうしても頭取からNへの繋がりを隠そうとしているように思うのです」
 そう言いながらファイルを拡げて、
「これは捜査秘密ですが、伊藤の架空名義口座が見つかっています。50億ほどの金が一度この口座に入って、Tの印で半分は出金されている。今残高はほとんど残っていませんが。Tは頭取ですよね?」
 返答は期待していない。
「これを受けた口座はまだ残念ながら見つかっていません。頭取にもこの話はしましたが知らないとだけでした」
 どうも検察はかなりのところまで詰めてきている。







 

歪める 2

 翌朝検察のあのビルに呼ばれた。前回受けた検査官と違う。
「私は東京から来ました。『白薔薇』のマネージャーからお話を聞いていました。ママはどこに出かけたのか今は不明です。どうも色々な人から話を聞いてきましたが、あなたがキーマンのように思うので是非とも会ってみたかったのです」
 事務官が調書のファイルを順番に並べてからパソコンの前に座る。
「あなたとママは伊藤が引き合わせたとマネージャが言っていますが?」
「記憶にないです」
「そうでしたね。その頃は伊藤とママの関係は終わっていて頭取がママのパトロンになっていた。でも一度も店には顔を出さなかった。頭取がママの部屋に来る時は必ずあなたが先に店に現れる。そう証言しています」
 ページを繰りながら返事は求めず顔色だけ見ている。
「あなたは頭取の連絡係のようだったと。例の3人が写真を写した日、あなたは店に現れていない。と言うことはママが社長と寝たのは伊藤の依頼で頭取は絡んでいないと」
 私は記憶がないから反応もしない。
「マネージャーは伊藤がよく取引先をママに紹介していたと。その頃あなたもよく伊藤と飲んでいたようですな。ここからは今の記憶で聞いてください。黒サングラスの男はあなたを車でぶつけた?」
「はい」
「今あなたは総合的に判断して誰の指図だと思っていますか?」
「伊藤だと」
「なぜ伊藤だと?」
「これは『白薔薇』のママに直接聞いたのです。金を貰っていた係長がママの部屋に入った私をガス栓をひねって殺そうとしたと」
「ママの部屋にどうして入りました?」
「分かりません」





 歪める1

 ビデオの1部があの記者のネームで公開された。テレビでもぼかして放映し、西成の飲み屋街でも話題騒然で検察が現物を証拠物件として提出を要求した。あのビデオにはたっぷり伊藤の指紋がつけられている。すぐにITMファイナンスの社長も呼び出されている。だがカオルが見つからない。
 サエがその週刊誌を見て今朝涙を流していた。カオルが社長のものを屈んで咥えている。
「そこまでしないとダメだの?」
 昼にノミ屋で見たことのある刑事が事務所に現れて取調室に任意で連れて行かれた。
「この男知ってるな?」
 番頭の写真を見せる。
「番頭がな、あんたのことをしゃべっている。関東のやくざから狙われていたと」
「それは事実です」
「番頭はな、記憶が戻っていると証言してるんやがな?」
「それはないですよ」
「だがな、彼奴はあんたに恨みを持っていてな、暇を見ては事務所に張り込んでいた。この写真の男は誰や?」
 マネージャーが車で迎えに来たところだ。番頭はどこまでしゃべっているのか。その時急に戸が開いてスーツ姿の男が顔を出した。刑事は軽く頭を下げると出ていく。
「話は検察が続けて聞きます。あなたは『白薔薇』のママと何度か会っていますね?」
「・・・」
「この男は東京の『白薔薇』のマネージャーです。すでに検察に呼んで聞いています。大阪のホテルの売買の時に偶然に会ったと言っています。それから3度車で運んだと言ってます」
 3度?東京へ行ったことなどは数えていない。こういう時は迂闊にしゃべらないことだ。
「マネージャーはあなたが頭取の依頼を受けて伊藤や『白薔薇』のママを調査していたと言っています。今話題のビデオは伊藤が社長をはめるために取ったと証言しています」







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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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