空白 2019年05月
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初恋 5

 頭取が合併人事で引退が決まりそのまま合併の委員長に横滑りした。同時に総理は意中の大臣に禅譲をしようとしたが、ITM事件の関与を取りざたされて与党内がまとまらない。どうも会長の押す頭取候補が決まらず総理が横滑りで大蔵省のOBを持ってきたようだ。それでまた私のピーナッツメモが浮上してきた。
「あのメモを誰かに渡した?」
 頭取からカオルを通じて連絡が入った。カオルが初めて事務所に現れた。姉さんは真っ赤になってお茶を運んでくる。電話が入ると変な奴と言っていた相手なのに。
「いえ」
「そうか。やはり会長だな。あの男はどうも欲深くていかん」
 携帯をカオルに渡すと、
「みんなお互いに欲深いのよ」
 と笑っている。
「君の用事は?」
「私も欲深いの。修司にこの話を持って来て見返りにススキのITMの不良債権のソープを譲ってもらうの」
「お金は?」
「もちろん頭取に任期最期の融資を頼んだわ」
「4軒目か?」
「全国にニューハーフの店だすよ。修司に役員に入ってほしいそのお願いに来たわけ」
「なんだかそんな気がしていたよ」
 そう言えば頭取に隠れて池袋時代は毎日そんな話をしていたようだ。株式会社ニューハーフを作りたいというのがカオルの夢だった。
「最近サエを見て私の見えなかった道も見せてもらった」
「サエのところには?」
「先程新着を5着頼んできた。宅配で16着の修繕もくる。セックスしている暇ないよね!」




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初恋 4

 サエの店の奥の倉庫も借りることとして、作業場を後ろに持って行く。それで昨夜は仕事が終わってから夜の12時まで荷物の整理をしていた。その合間にパソコンを開いて月次売り上げを見ていたが、もう始めた頃の3倍になっている。もちろんカオルの店からの仕事が半分を占めるが、店頭での販売も増えている。
 久しぶりに朝サエを抱いて記憶は戻らないがサエを実感している。
 昼から若頭の不動産を当時の1.5倍で引き取る。どうもやっさん曰くこれが姉さんの遺産相続となり、組からは完全に足を洗うようだ。代貸がそのまま組を引き継ぐらしいが、本部での位置はナンバー2から10位外に落ちるということだ。経済やくざで名を成したが、その頭脳がなくなれば組を維持するのは難しいだろう。若頭の彼女もスナックを閉めたという。
「どうや、落ち着いたかい?」
 やぶ医者がビールを注いでくれる。
「そろそろ一緒にならないのですか?」
「今度娘さんが結婚したら一緒に暮らそうと言っている」
「おめでとうございます」
「ところでサエから話があった?」
「いえ」
「陰茎切除の件だ」
「そんなこと考えてるのですか?私はサエのものが好きです。大反対ですどうしてですか?」
「医者としても進めない。どうもユイちゃんのことで悩んでいるのだろうね。体も娘に相応しい女を求めているのだよ。君が賛成しないとダメだと言ってある」
「助かります」
「じっくり話し合うんだ」





初恋 3

 ボンと2家族で天王寺動物園の散り始めている花見に出かける。今朝は女性陣で早くからお弁当作りで、私とボンはただ荷物を持つばかりだ。開園と同時に桜の木の下を陣取る。ボンの子供は男の子で私の子供は女の子なのでもう勝手な結婚話になっている。ボンはサエが男であることを知っているが、フミコには知らせていない。妙な気遣いを気にしてボンが伏せている。
「銀行には戻らないのか?」
「ああ、ずっとイサムで生きていく」
「ならこの町にずっといるわけだな」
「金融屋を続けるかどうかは迷っているがな。姉さんでは難しいので金融は一度整理の話をしてみようと思っている。今回の若頭の貸付の回収で一先ず落着く」
 サエがビールを配っている。
「そちらはどうなんだ?」
「親父は寝込んでいて息子のことも分からないでいる。母親はあの事件で懲りることなく、あの板前と駆け落ち同然でアパート暮らしだ。それでフミコを籍に入れた」
「まあよかったな」
「従業員も何とか落ち着いたのでそれぞれの彼女に今の店を分けて整理を考えている。二人なら本店だけで食べていける」
 親父には3人の彼女がいるのだ。
「ITM事件は終わったのか?」
「どうだか」
 何人も人が死んだのに事件は曖昧なままだ。これが政治の世界なのか。
「そうだ。やぶ医者が一度飲もうと言ってたぞ」
「相変わらずあの店に通っているのか?」
「そうだ。いつもちょこんと座っている」







初恋 2

 サエに地図を書いてもらってボンの店に立つ。板長も替わって落ち着いたような雰囲気だ。詳しい話はサエに聞いている。
「まだ母とは時間がかかる」
「まあ、時間をかけたらいい」
 大瓶を抜いてもらって鱧皮を頼む。
 手を上げて金融屋のやっさんが入ってくる。
「厄介やな。若頭が死んで組の纏まりがなくなった。今回の地上げ地の買い上げは姉さんに承諾して貰ったが、誰が組を継ぐかでもめている。そちらの言うように早く土地を引き上げるのがベストや」
 この措置は親分にすでに説明している。記憶が戻るのではなく知識を埋め込んでいくという作業だ。
「犯人は特定された?」
「新聞記者によると警察は同じ組の武闘派をマークしているということや。これは彼の書いた週刊誌の記事や」
 手に持っていた週刊誌を拡げる。
「武闘派の5人グループが当日アリバイがなく、今も誰も見つかっていない。その中に横浜の組長の弟がいるというのが彼の推理だ。警察も同じ推理で動いているらしい」
「ITM事件の延長上だと書いてるな。『白薔薇』のママのシリーズは?」
「ああ、あれな、事件ものから自伝ものになって第2弾を書いるわ」
 カオルは16歳の時に家出少年として上野に出てきた。この週刊誌にはその頃の東田透の写真が載っている。どうもカオルが取材を受けたようだ。丸坊主からは今のカオルが想像できない。この頃の話は私も聞いたことがない。その頃は町工場で働いていたようだ。それから職業を転々として17歳で伊藤と会っている。




初恋 1

 マンションに戻って同じ布団に潜る。二人とも体が固まったようだ。そっと形のいい胸を吸う。反り立ったものを見て同じ男とは思えない。どうも初恋の時のときめきだ。カオルの時は惚れたと言うより彼女のテクニックに誘われた感じだった。そのうちの彼女の沼から出れなくなったのだ。だがサエは心がときめくのだ。
「晩は迎えに行こうか?」
「いいよ。仕事が溜まっているから。それより気を付けてね」
 ボン達が下りてきていてモーニングを取って先に私が出る。わざわざ事務所の地図を書いてもらっている。
「どう?私の顔も忘れた?」
 大柄の女性が顔を寄せてくる。これが姉さんだと呟く。
「最後に貸した任意売約の土地を整理しないと。これは調べてみたのだが、若頭の姉さんの承諾を貰わないとダメだが、息子の組長で買い上げをして貰ってそれから買い先を調べてみるしかない」
「任せるわ」
 まずやっさんに電話を入れて姉さんと組の根回しをしてもらう。それから頭取に電話を入れた。
「ようやく総理が動き出した。助けてもらった」
「ちょっと力を貸してもらえませんか?」
「いいぞ」
「大阪の阿倍野のITMの任意の物件なのですか?」
「ああ、あれはS社が引き取る予定だ。あそこの社長に声をかけておこう。ところでサエとやったか?」
「カオルから聞きました?」
「焼き餅焼いていたさ。初恋のように抱き合っていたと」
 そう言えばあの夜カオルは部屋に帰ってこなかった。
 事務所を早めに出るとサエの店を覗いた。小柄な女の子がドアを開いた私を見て驚いている。
「お帰り私のイサム」
 サエが飛び込んできた。





記憶 11

 打ち合わせを済まして2人は帰る。カオルはステージに顔を出すと言って降りた。部屋のFAXに次々と貸付の書類が送られてくる。それを見ながら緊急度合いと対策を記入していく。マネージャーが少し遅い夕食を運んできた後ろに子供を抱いたカオルより小ぶりの女性がおどおどと入ってくる。
「サエとユイだな?」
「分かるの?」
「今この頭に教え込んでいる」
 ユイはすやすや寝込んでいる。小さな籠が運び込まれてきてそこに寝かせる。
「カオルが良ければ私は引くよ」
「私はイサムだ。サエに拾われたイサムだ」
 ゆっくりとサエを抱きかかえる。それからベットに押し倒すと、サエは目を閉じて震えている。
「店はどうだ?」
「新しい子と2人でやっている。カオル姉さんが仕事を回してくれるので大繁盛。指はどう?」
「腫れはもうなくなった。舐めてもいいのか?」
「うん」
 でも恥ずかしそうだ。口に含むと反り返ってくる。次はサエが含む。彼女に口の中で弾けそうだ。
「いつまでも一緒にいてくれるな?」
「捨てないで!」
「サエのこと一杯教えてほしい。でもこの感触は覚えている」
 サエのアナルの中はカオルより狭いがくねっていて吸い付いてくる。
「イサムだ!」
 サエの目から洪水のように涙があふれてくる。








記憶 9

「カオル、総理とも寝ていたんだな?」
「そんなこと話していた?頭取が私を抱かせたの。まるで貢物のようでしょう?」
 帰ってきた私を東京駅で迎えて一緒に大阪に向かう。探偵はここでお別れだ。
「昨夜番頭が殺されていたそうよ」
「どこで?」
「横浜の港に浮いていた。大阪の組に確認したら内々で横浜の組に引き渡したそうよ。これ以上頭取に睨まれたくないと考えたのかしら。頭取から今回金が出ていたようなの。火消しね」
「よく大阪に行くのを拒まれなかったな?」
「もう、親父みたいになってるわ。それと横浜の元組長の弟が逃げていると言ってたわ。まだ用心しないとね」
「彼も殺される?」
「それがねえ、どうも大阪の武力派の組に匿われたようよ。大阪もITM事件の後若頭独り勝ちに武闘派が不穏な空気を醸し出してるという噂。修司は若頭とは親しかったのね?」
「金融絡みでずいぶん貸している」
「これからどうするの?」
「金融屋に戻りサエとの生活を取り戻す。もう修司には戻れないからな。これからはサエに付けてもらったイサムで暮らすよ」
「カオルも忘れないでよ!」
「いつまで3人でやれるだろうかな」
 サエの写真を定期入れから出して眺める。ここ1日に何回もサエの写真を取り出してみている。何となくほんわりとサエも顔が浮かんでくるようになっている。
「貸金庫はどうするの?」
「しばらく封印だな」





記憶 8

「サエと会ってからに?」
「いやすぐに戻ってくる。動物園に3人で行こうと言っていたと伝えて」
「記憶が戻ったの?」
「いや、サエの約束をメモしていたんだ」
 探偵と翌朝一番に新幹線祈り、昼には私設秘書の用意した赤坂のホテルに入った。廊下に5人ほどのボディガードが並んでいる。鞄の中身と服装検査を受けて部屋の中に入る。入口で私設秘書が苦笑いをしながら招いてくれる。
「久しぶりだ。記憶が戻ったらしいね?」
「ええ。鮮明に。でも手前の記憶をまた失ってしまいました」
「そうか。記憶は鮮明か」
 鞄の中から2日かけて再現したピーナッツの記録とスケジュールを重ねて作った。それを私設秘書が受け取って総理のスケジュール表と合わせている。無言の1時間が過ぎて、
「一致しますね」
「そうか」
「いい加減腹をくくってください。これ以上足掻くと総理経験者として君臨できませんよ」
 私設秘書が強い口調で言う。
「分かった。分かったと頭取に伝えてくれ」
「分かりました」
と手帳をテーブルに戻す。
「白髪が増えましたね?」
「ああ、カオルにもよろしく伝えてくれ。いい思い出だ」
 カオルは総理にも抱かれていた!?





記憶 7

「この記事を見て見ろ」
 迎えに来た探偵が週刊誌を拡げる。ITMファイナンス事件のNは総理だと書かれている。
「どうしてこんなのが出る?」
「私設秘書と折り合いがつかなかったのだろう。総理もケチだからな」
 車を降りるとホテルの荷物用のエレベターに乗る。カオルから頭取との面会を頼まれている。部屋の前にはボディガードが2人ついている。私だけが部屋に通される。
「久しぶりだ。手荒い拷問で記憶が戻ったらしいな」 
 前と比べると血色がよくなっている。
「Nの件が出ていますが?」
「あれは儂だよ。私設秘書を抱きこんだ。総理はあれでケチだからなあ。たっぷり後任人事の資金を手に入れたのに、銀行局のポジションを渋っているのさ。人間なんてどこかせこいものだ。カオルでは儂も狂った」
「いえ、私が悪かったのです。男に恋をするとは思っても見なかったのです」
「カオルも同じことを言っていたわ。儂も伊藤の誘いにまんまと引っかかった。まさか男に狂うとはな。分からんものだ。今の気持ちは娘を嫁がせる父親の気持ちだ」
「でも私はカオルとは一緒になれません」
「それも聞いている。写真を見たが今の彼女は若い時のカオルにそっくりだ。いい相棒になってやってくれ。それと今日は最後の力になってほしい。総理に最期の一芝居を打ってほしいんだ。彼は気が弱いから武力で訴えることはない」
「ピーナッツを渡した記録ですね?」
「ああ」
「貸金庫を今触ることはできません。方法は私に任せてくれませんか?」
「もちろんだ。儂が君を騙せばカオルに殺される」






記憶 6

 一日中カオルの部屋で自分の作ったUSBを隈なく見ている。イサムであった時見ていたのとまた見えるものが違う。頭取とは頭で考えてていたのと違ってよく二人で飲んでいたようだ。USBでは第2総務課長からのファイルしかないが、入行した時の本店営業本部長で仕えたのが始まりだった。
「今に金融界も自由化の波が押し寄せる」
 それが口癖だった。
 その頃から金融ブローカー上がりの伊藤が頭取に色々な案件を持ち込んでいた。どちらか言うと表の私と裏の伊藤であったようだ。私が裏の伊藤の仕事を引き継ぐようになって逆に頭取とは疎遠になったようだ。
「あのなあ。俺たちは立場が似ている。あまりにも知りすぎている」
とこの頃唯一気の置けない飲み友達が総理の私設秘書だった。この言葉は彼は酔うといつも口にした。今はよく理解できる。彼も私設秘書を外され。私は殺されるところまで行った。でも今でも不思議なのはカオルに恋した自分だ。伊藤から当然男だと知らされていたし、頭取との行為も密かに知らされていた。
「何考えているの?」
 いつの間のか衣装を脱いだカオルがシャワーを浴びて全裸で立っている。最近は11時のショーが終わるとちいママに任せて上がる。私はメモ用紙にペンを走らせる。
「どうして二人の関係が始まったのか?」
「やっぱり」
 カオルは冷蔵庫から冷えた小瓶を出してきてテーブルに置いて自分も飲み始める。
「あの頃はね。私も頭取からも警戒されていた。伊藤のスパイと思われていた。私の立場も伊藤と頭取の真ん中で危うかったの。それで修司を味方に付けようと。馬鹿ね。ミイラ取りがミイラになったんだもの。私ってどちらかと言うと食べるために女になったタイプだと思っていた。ほら修司に触れるとこんなになる」
 見事に大きなカオルのものが反りかえっている。
「では頭取は?」
「伊藤が池袋のマンションを盗撮して係長から報告させた」
「なぜ?」
「伊藤は頭取を脅す必要があったのよ」







記憶 5

「ここは?」
 カオルと二人きりになった時にメモで書いた。
「私の大阪支店。今は博多にも出したわ。憶えてないのよね。指は複雑骨折してるけど治るようよ」
 戻ってきたら医者と看護婦が呼ばれていて治療をしてくれた。あの2人の内の番頭と言う男だけとらえられたようだ。助けてくれた組に監禁しているようで、探偵が確認に出かけたようだ。
 私は風呂に付けてもらってカオルに洗ってもらっている。
「サエ親子もしばらくホテルに移ってもらっている」
「サエと子供?」
「修司。いえイサムの家族よ。サエと3人でよくしたのよ」
と言うなり私のものを銜える。即座に反応する。喉の奥まで銜え込んで出し入れする。こうしたカオルとの記憶は鮮明に残っている。
「凄い!こんなに溜まっていたのは初めて」
 息が詰まったのか唇から精液が毀れ出てくるのをぐいと飲み込む。ベットに連れて行くと化粧棚から封筒を出してくる。
「これは修司が書いて私に預けたもの」
 確かに私の直筆だ。
 サエに救われたこと。どんなに彼女を愛しているか。もし記憶が戻ったらこれを見せてくれとある。もしサエを捨てるようなことをしたらカオルの手で殺してくれとある。
「私を殺人者にしないでよ。一度サエを連れて来るから3人でしましょう。サエにも記憶を失ったこと話してあるから。体がきっと憶えているよ。私の時もそうだったでしょう?」






記憶 4

 水を飲まされて蒲団に巻き込まれた。折られた指はもう感覚がなくなっている。それに彼らの言っていたように言葉が出ないよう見なっている。体を持ち上げられ階段をゆっくり上がっていく。どこかに移されるようだ。しばらくして荷台に転がされる。それからゆっくり車が走りだす。
 布団で包まれているので息が苦しい。車は何度か細い路地を曲がった時激しくぶつかる音がして後ろのドアに叩きつけられる。喚き声がして蒲団ごと外に運び出される。もう一台車が来ているようで蒲団ごと運び込まれる。
「私よ分かる?」
 カオルが蒲団から顔を出す。私はうんうんと首を振る。
「走り出すのよ。後は小頭に任せるの。部屋に医者を呼んでおいて。指が潰されているわ。段取りは東京から来てくれた探偵がしてくれた」
 探偵の顔も覚えている。
「カノンが見つけてくれて知らせてくれたが覚えてる?」
 首を横に振る。
「鞄のありかを教えた?」
 首を振った。鞄は覚えているが、どこに隠したかは覚えていない。すっかり車にぶつかったところから記憶が消えてしまっている。
「記憶は戻ったけど、イサムの時の記憶が消えたんだわ。サエは?」
 サエと言う名前に覚えがない。
「こんな日が来るのを恐れていたわ」








記憶 3

「お前なあ」
 肩幅の広い男が天上から降りてきて、しょぼくれた男に怒鳴っている。今日も3本目の指を折るのだろうか。男が私の髪を掴んで顔を上げさせる。
「お前の名は?」
 私は首を振る。
「とぼけるな。お前の名はイサムだ。金融屋の部長だ。公園の前のある金融屋だ」
 全く記憶がない。私は銀行員の修司だ。
「組員が言っていたが口がきけなくなっている。やりすぎたんだ。それに組長からも出て行けと言われたんだぞ」
「どうしてや。分け前も出すって話してあるんやろ?」
「組の上の方から何かあったようや」
「そんなら早く吐かそうや」
「そんな余裕ない。晩にホテルに運ぶ。何せ俺の組は預かりで手下も使えない。それに頭取のルートもたたれている。軍資金も底をついてきた。この組も上から睨まれるのを恐れている」
 グローブのように膨れた指を持ち上げて、
「もう1本で落ちるのやがな」
と残念そうに言う。
「取りあえずそこにある蒲団で包んで夜のうちに運ぶ。上に運ぶのは誰も手伝ってくれんからな。ライトバンの運転手は手配した。だが中身を見せられない。ここの組長にも内緒にしている」
「どうして?」
「上からイサムと言う名が出ていて手を出すなと言われている」
「そんな大物じゃないですよ」
「いや、ITM事件の重要参考人だ。それで俺の兄貴もぶち込まれた」
 どうも頭取が始め組んでいた横浜の組と係わりがあるようだ。














記憶 2

 揺り動かされて水を飲む。どうもやくざの子分みたいで目に憎しみはない。
「何やらかしたんや。素人にはきつすぎるわな」
と言ってから猿轡をはめて隣の押し入れのところまで引きずっていく。
「今日はな。ここでショーがあるんや。えげつないショーやで。見るんやったらここのテープ剥がしてやるから見たらええ」
 とくに鍵は掛けた様子ではなく何かの箱を置いたようだ。穴からはシーツを引く男たちに混じって客たちが下りてきて思い思いに座っている。30分ほどして部屋が真っ暗になって音楽が流れる。全裸の女が檻から運ばれてきて逆さに吊るされる。ストロボが至る所で弾ける。どうも穴からT字に広げられた毛のない裂け目が見える。
 これは時々カオルがするディルドのプレイだ。男が巨大なディルドを2本持っていて、まずは膣の中の深々と刺し込んでいく。潮がもう溢れていて足を伝わる。次はそれより長いのがアナルに突き刺される。その状態で吊るされた女が回転する。ディルドが抜かれると男がアナルの中に片腕を入れていく。
 指を折られて押し込められているのに思わずカオルとのプレイを思い出して下のものが反り立っている。カオルの場合は肘のところまで入って、へその当たりに指の押上げが見える。この女も同じ状態まで見せているが、裂け目から赤い血が垂れている。
 さすがに疲れて壁にもたれる。ライトがすでに落ちていて荷物を片付ける音がしている。
「明日はできんよ。傷が広がったわ。ゆっくりするの分かった」
 女の声がしてそれから静かになる。
「やっぱりただ見客がいた」
 女の顔が覗く。
「カノンや!分からんの?」
 どうも顔見知りのようだが記憶がない。



記憶 1

 暗い穴倉のような部屋だ。どれほどの時間眠っていたのか思い出せない。天井窓が開いて男が二人降りてくる。同時に眩いほどの照明が点く。一人は背の高い肩幅の広い男でもう一人は見るからのしょぼくれている。どうも私は両手両足を縛られているようで感覚がなくなっている。どちらも覚えのない顔だ。
「今日はもう1本折るからな」
 しょぼくれた方が楽しそうにペンチを手にしている。
「まあ、慌てることはない。まず左手を見せてやれ」
 左手の一指し指がグローブのようになっている。パンパンに張れているところに釘を刺す。
「今日は中指だな」
「そのくらいで吐いた方がいいぞ。こいつは楽しみでやっている」
「君らは誰だ?」
「あまりの痛さに記憶をなくしたか?お前は金融屋の部長のイサムや。ふいにやってきてめちゃめちゃにされたんや。最低5本の指は貰うまで吐くなよ」
「待て、貸金庫の鍵は?」
 そうだ。私は貸金庫の鍵を持って逃げてきたのだ。それでガードを越えた道路で跳ねられてた。彼らに捕まったのだろうか。でも死んでもいいと思っていた。私は敬愛する上司の頭取に捨てられたのだ。やはりカオルに手を出したのが不味かった。でも逃がしてくれたのは確かにカオルだ。私を捕まえたのは頭取か伊藤か。
「やりまっせ」
と言うなり中指をペンチで捻る。
「こいつまた記憶失ったんやろうか?」
 その言葉とともに暗闇の中に落ちておく。






一区切り 9

 最近サエとは穏やかなセックスになっている。同じ布団で寝てその日の気持ちでキスだけの日もある。今度の日曜日に動物園にユイを連れて行って、その後食事をしようと約束した。ここ3日とくにボンの店は目立ったことは起こらず、従業員も板長を除いて戻ってきた。それでもフミコは常連には人気で子供をベビーシッターに預けて夕方からカウンターに立つ。
 サエの店は常連の男女の人形のような子が入った。元々自分で服を作っていたらしく腕がいいようだ。今日は作業台を一台増やすので私も直行で手伝いに入っている。最近は作業がサエだけではこなせないようになっている。彼女は自分で服も作るので修繕はすべて任すようだ。ちょうど宅配で大きな袋が届く。
「カオルさんところの衣装の修繕を受けている。新着の衣装の依頼も3着来てるの」
 その時電話が鳴ってサエが出る。頷いて私に受話器を渡す。
「事務所に入れたらここだと。頭取から横浜のやくざの逮捕された組長の弟が大阪に入っていて、どうも修司の持っているものと交換を申し出ているのよ?あの黒サングラスを殺す計画をしたのは彼だそうよ。あの探偵に調査は依頼した。それで心配で」
「とくに動きはないがなあ」
「頭取から総理への約束の資金を私が引き渡した。向こうは編集長が来ていたわ。一度電話を入れてくれと言ってた」
 さっそく伝えられた電話に入れる。
「やあ、これで総理への約束は果たしたことになるが、問題は反対派閥が君の持ち物に注目している。何か動きが出るのか心配だよ」
 外に出ると路地を抜け公園に出る。もう人夫出しは終わっていて労働者の姿も少なくなっている。いつも姉貴が乗っているトラックの姿もない。ここから事務所が見える。私の横にブラックのワゴンカーが目に入る。急に目の前が真っ暗になる。ソファーに押し付けられ腹に強烈なボディブローを受けてそのまま気が失われていく。







一区切り 8

 翌日やはり従業員は誰もボンの店には来ない。新しい板長が急遽仕入れをして入る。フミコが開店からボンと並んでカウンターに入る。小頭が若いものを連れて頻繁に覗く。私も昼は姉さんとボンの店で食べる。
「ゆっくり歩くのでガードのトイレから後ろに付いて来ている奴を見てくれ」
 小声で姉さんに伝える。それからのんびりと通りを抜け路地を曲がる。そこからやぶ医者の裏口に隠れる。今度は姉さんの後ろからゆっくり付いていく。後ろの目隠し帽をかぶった男は慌てて路地に入って走り出す。姉さんの肩を叩いて逆に跡をつける。男は何度か角を曲がりながら事務所にたどり着いている。明らかにイサムと知った追跡だ。
「あれは番頭の背格好よ」
「確かに」
「一緒に付いていくわ」
 公園から今度はどんどんと早足で商店街を抜けていく。
「親分のところだわ」
 病室も心得ているらしく、そのまま親分の個室に入る。30分ほど廊下の隅で待つ。今度はジャンバーのポケットに封筒をねじ込みながら出てくる。
 姉さんが番頭の姿が消えてすぐ飛び込むように部屋に入る。
「また金を貸したんじゃ?」
 親父はばつが悪そうに頭を撫でている。
「近々金が入ると言うので100万都合した」
「まさかボンを脅す気では?」
 姉さんが愚痴をこぼす。あり得ない話ではない。番頭は私にとっては厄病神なのだ。だが彼にとっても厄病神だろう。







一区切り 7

 若頭の貸付を実行した。頭取に権限があるうちに決めておこうと私も若頭も暗黙に同意している。カオルから事務所に電話が入って頭取が新しい店の上の部屋に泊まっていったと報告した。
「少し使えるようになったみたい」
 精神的に落ち着いてきたのだろう。
 ボンの店の報告を小頭から受けた。どうも板長とボンの母親とは10年程の体の関係があるようだ。その板長を紹介してきたのが今宮戎のところにある組だと言う。組本部は同じだが若頭と敵対する武闘派である。この組はITMファイナンスと関西では組んでいて今資金的にはパイプを失っている。
 ボンは昨日は寝込んでいる親父と話し合った。本店を任せてほしいと訴えて珍しく親父が頷いたとのことで今夜板長と話し合いがある。私が彼の補佐で入ることになっている。
 9時過ぎに近くの喫茶店に向こうは板長と組の人間が座り、私とボンが店じまいを確かめて遅れて入る。
「あんたみたいなチンピラで店は賄えんわ」
 最初からけんか腰だ。
「親父から本店の運営を任されている」
 ボンが精一杯答える。
「明日からみんな来んよ」
「来た人で続けて行きます」
「若造が!」
 隣の男が吠える。私はそのタイミングでボンの腕を取って立ち上がる。鞄の中には小頭から借りた盗聴器が入っている。小頭も顔を出せないが近くの飲み屋に若いのを連れてきてくれている。どうも向こうもそれらしい男達が路地にいるようだ。
「明日の仕入れから親分の紹介者に入ってもらう。他の店員は?」
「分からないのでフミコに頼んでいる」
「子供は今度サエが預かる」





一区切り 6

 今夜は記者から誘いを受けてやぶ医者の馴染の小料理屋に行く。
「今度の記事でキャップになりました。今日はそのお礼です」
「いえ、お互い様ですよ」
 私から記者にビールを注ぐ。
「あなたは頭取と何か取引をしたのですか?」
「もう記事取りですか?」
「今回の合併延長もあまりにもすんなりしています。それに『白薔薇』のママが姿を現せて動き回っています。どうもママとあなたは恋人同士だと今更気づきました」
「私には子供を産んだ女性がいますよ」
「あなたには二人のあなたが住んでいると思うのです」
「二人の?」
「つまりイサムであり修司でもあるのです。記憶は戻らなかったが、記憶に相当する情報と感情が戻ったと思うのです」
 記者はサエが男でカオルとも寝ていることは知らない。でも二人を愛する私を感じているのだ。
「これからITM事件はどうなるのでしょうか?」
 彼は頭取の後ろに総理がいることは知らない。どこまで最後を飾るかは二人にかかっている。あるところまでの準備はできたがこれからは手が出せない。
「『白薔薇』のママのシリーズは続くのですか?」
「次は銀行合併です。どうもITM事件は根元はここのような気がするのですよ」
「それは正しいと思います」
 どうも彼はこの答えを期待していたようだ。




一区切り 5

「少しボンの力になりたい」
 サエを抱きながら昨日の夜の店の様子を話す。どうも本店の板長が従業員をまとめているようだ。
「一度フミコからも話を聞いてくれ」
「分かった。ボンにはお世話になってるものね」
 事務所に出ると小頭に会いに行く。組事務所には入らず喫茶店に入る。
「地上げビルの件なら組に来てくれたらいいのになあ」
「その報告もある。あの周りはやはり若頭が買うことで貸し付けをすることになった。ビルの購入は指値することになったよ。数字が決まったら組長に報告する」
「何か話があるようやな?」
「ああ、ボンの店のことなんだが、親父が倒れてどうも本店の板長がボンを追い出そうとしている。どうも板長だけの動きではないように」
「あの店はなあ。この辺りでは小金持ちで知られているさ。とくに新世界ではいい場所に店を4軒も構えている。欲しがっている店も多い。それにあそこはうちの組の敵対している組と親しい。一度調べてみるわ」
 小頭は色々な店の面倒見がいい。貸付に際しては私も意見を貰っている。
「それとなあ。そちらの番頭が執行猶予でその組の世話になっている。これは姉さんから調べを頼まれている。どうも親分の病院に出入りして金をせびっているようや」
「知らないうちにいろいろあるんですね?」
「街の情報はいくらでも入る」






一区切り 4

 念入りに調査をして親父の入院している病院を姉さんと訪ねる。姉さんは着替えを整理している。
「確かに大きいな?」
と言いながら手帳を開いて見ている。
「それぞれの担保を入れてどれくらい借りれる?」
「二つは地上げ中ですから担保に取らないでしょう。大きい土地は更地になっているので15億は可能かと」
「なら今の根担保で8億は出る。それで手元現金は?」
「2億残ります」
「たまには息子を儲けさせんとな。会社は娘に継がせるからなあ」
「そんな気の弱いことを言わんでくださいよ」
 了解を取るとさっそく若頭とやっさんに連絡を入れる。その足で信組の理事長に融資申し込みを上げる。最近は姉さんにも仕事の流れを覚えて貰うために同行している。
 帰りがけリヤカーを引いているボンを見つけて降ろしてもらう。
「少し飲むか?」
 二人で飲むのは久しぶりだ。
「元気なさそうだな?」
「親父が寝たきりで本店の店員が言うこと聞かんのや。母にいろいろ告げ口してこのままやったら店から追い出される」
 どうもボンは親父だけでなく母親とも旨くいってないようだ。
「これから本店に飲みに行く」
 ボンにはお世話になりっぱなしだ。




一区切り 3

 ボンのところで預かってもらっていた鞄から5百万を出してきて3百万をカオルに2百万を探偵に送金する。さっそく事務所に、
「冷たいね」
とカオルから電話が入る。
 今日は久しぶりに若頭にスナックに呼ばれている。
「どうや、記憶は戻ったか?」
「記憶は相変わらずですが、事実は積み重なってきました」
 いつものようにママと3人だと思っていたら金融ブローカーのやっさんも同席している。
「まず仕事の話だ」
 ファイルを3束出してきてやっさんが説明する。どれもITMファイナンスのものだ。1時間ほど彼が説明して私が質問する。若頭は時々メモを取る。ママはゆっくり寿司を大皿に並べる。どうやらやっさんの持込案件のようだ。
「合わせて23億ですね?」
「すべて6カ月短期勝負や」
 若頭は長期案件はめったに手を出さない。最後のファイルを睨んでいると、
「それは金額が大きいか?」
 それは15億の兄貴の組長の囲み地だ。確かに若頭の最高実績は17億だ。
「金額もあるので即答はできません。それとこの案件の真ん中のビルは親父さんの息子に貸しています」
「それも分かっている。値段は指値してくれ。お互いにギブアンドテイクでいいさ。この先の売り先は彼の力ではどうにもならん」
 どうも紐付きのようだ。
「ところでなあ。横浜の経済やくざの失態が関西にも影を落としているわ。武闘派が元気を出してきた」
 笑いながら言っているが目は笑っていない。







一区切り 2

 銀行の合併が案の定延期になった。しばらく頭取が業務を続けることになったわけだ。これは総理も承諾済みだし会長も知っているだろう。それを待っていたように他行の合併話が2件新聞に発表された。3面記事に横浜の組長が収監され組も本部預かりとなったと書かれている。
「大変だったようね」
 久しぶりに顔を出した事務所で姉さんから声をかけられた。
「こちらこそ勝手をして」
「その代り毎日サエのところに行ったから楽しかった。ユイがはいはいしたよ」
「親父さんは?」
「1度事務所に顔を出したけど、歩けないからね。それと兄貴が相談に来るって」
 言い終わらないうちに表に車の止まる音がして、小頭と組長が顔を出した。
「待ちかねていたんだぞ」
「あの雑居ビルの件ですね?」
 小頭が立退き状況説明する。心配をよそに思ったよりのスピードで立退き合意が取れている。資金は出来るだけリスクのないように最大に後ろに引っ張る作戦だ。
「問題が出たんだ。あのITMファイナンスの差押え地が任売になるようなんだ。それが若頭が噛んできたんだ」
「どうします?」
「戦争などできんわ。今の立退きを仕上げたら売渡の間に入ってほしいんや。親しそうだからな」
「一度会って打診してみます」
 若頭はITMファイナンスの不良債権を買い漁っているようだ。確かに兄貴のような小さな組は口の出しようがない。だが何とか親父さんの気持ちを立てていい値段を付けようと思う。






一区切り 1

 10日ぶりの帰阪だ。安全のためにマネージャーが新大阪まで車で迎えに来て店まで運んでくれる。すでにテーブルには肉料理が並んでいてカオルとサエがお揃いの衣装を着て並んでいる。どうも見ても姉妹だ。
「修司はビールの小瓶だよね?サエもそうか?私はブランティを頂くわ」
 話してる部屋に携帯が鳴る。
「はい。着きました。よく言っておきます」
とカオルが答えて携帯を切る。
「頭取から。総理と条件整理に入ったそうよ。よろしく抱いてやれって」
「それは余分だろ?」
「頭取にはサエのことも話してあるし、3人でよくやるとも言っているわ」
「頭取にあのことも言っている?」
「ええ、確認の電話も前にあった。東京の店の最上階に今手を入れている。頭取の部屋を作っている。親父と娘時として男と女って言う話になっている。もちろん修司に抱かれてもよしと了解とっている。サエにもとったよ」
「いいのか?カオルのあれは大きいからな」
「私にはユイがいるし、3人で抱かれるのも好き」
「でも凄いのよ。この前サエとやった時私の全部飲み込んでしまうの」
「ねいさんが無理やり」
「あれは無理やりの顔じゃない」
 




模索 11

「サエをたっぷり抱いたよ」
 朝サエの電話にカオルが出た。
「頭取と会った。会長の話勧めるよ」
「ええ、頭取とは妙な愛情が湧いているのよ。でも欲求不満は修司が責任を取るのよ。ちいママとしっかりやった?」
 カオルの指図でちいママが夜に押しかけてきてもうへとへとになっている。
 下の喫茶店から編集長の外線が入る。もう下に来たようだ。
「どうでしたか?」
 編集長がコーヒーを手にのんびりと話しかけてくる。朝一番に探偵からこの編集長の調査を貰っている。どうやら今は政財界のブラックジャーナルの編集長らしい。そのきっかけは総理の秘密を暴露したことから始まっている。余程冷たい仕打ちを受けたのだろう。
「夢のようなポジションではなく、もう少し実体のあるものを用意せてもらえば引退は考えていますよ」
「でしょうね。たとえば日本の金融再編成の有識者・・・」
「さすがに頭が切れる。引き際としてはきれいですね。Nは近く禅譲の予定です。それは追及を受けている反対派閥ではなく身内に近い派閥です。それで頭取にはもう少し資金を応援いただきたいと。もちろんNにではなくその後継者にです」
「そのためにはしばらく時間が入りますよ」
「そのために私は他派閥の今回の合併疑惑を書きます。Nはそれで合併をしばらく見合わせてもらいます」
「分かりました」
「へえ凄い美人がロビーから出て来ましたよ」
 それは化粧を直したちいママだ。
「男かもしれませんよ」







模索 10

 なんと大胆に編集長は頭取の応接に私を送り込んだ。カオルは今大阪に出かけてサエと会っているだろう。カオルは今後のことを考え始めている。サエにいろいろ説明すると言ってくれている。
「どうだ記憶は戻ったのか?」
 頭取から声をかけてくる。
「戻っていませんが、あの頃の状況はかなり掴みました」
「恨んでいるか?」
「いえ、カオルを寝取ったのですから仕方ないと。でも私は今カオルを守る立場です」
「そうか分かった。私もとことん追いつめられたものよ」
 寂しそうに笑ってコーヒーを勧める。
「カオルはいい女だ。もう交わる力も失った。面倒を見てやってくれ」
「頭取はこれからどう考えているのですか?」
「総理は逃げ腰だ。おそらく今のポジションも実現しないだろう。お互い夢を持って組んだ。一方は足を踏み外してこのざまだ。総理はもう朋友ではない。私には動いてくれる味方がいない。自業自得だな」
「カオルからも手伝いしてほしいと言われています。金融再編はなったのですが、どうも総理も頭取もそれを横取りされた格好になってますね?」
「よく分かるな?」
「USBを見ているとよく分かります。でもこれ以上進まれると危険です」
「だがその向こうには何も見えんのだ」
「幾つになられました?」
「今年で67歳だ」
「引退してカオルの会社の会長でもされたら?」
「カオルには君がいる」
「カオルには悪いのですが私には今サエがいます」
「らしいな。カオルは嫌がるだろう?」
「これはカオルの提案です」









模索 9

「この間は失礼しました」
と名刺を出す。編集長の肩書だ。
「なぜ検察と一緒にあの席にいたのか不思議だろう」
「そうですね」
 案内されたのは永田町にあるビルの編集室の奥にある応接室だ。
「当時のNの私設秘書でした。あなたとも仲良くさせてもらっていましたよ」
と私とグラスを傾けている写真を1枚置いた。
「あなたが行方不明になった頃、裏作業が閉鎖になり私も独立の道を選びました。それが今になってNから再登場させられた。我儘な人だ」
「頭取とNの間はどうなのですか?」
「よくない。だが戦争を始めたわけではない。ただ和解の案がまとまらない。私も動いてみたが接点を見つけるには至っていない。まずITM事件をこれ以上拡大させない手を打った。頭取は資金の流れを横浜の組から変えた」
「私に何をしろと?」
「今のままではまだ『白薔薇』のママもあなたも危険だ。2人は組の命綱になっている。Nも頭取もあなたのカードを気にしている。私が思うに記憶がないあなたなら逆に情報に基づいて冷静な判断ができるのではと。昔も私とあなたは我儘な主人のお世話をしてきた」
「でもNは頭取を切りたいと思っているでしょう?」
「もちろんそうですが、Nも派閥の裏の追及を受けています。それに現実資金不足になっています。Nも資金パイプを失っているのです。合併の新頭取は他の派閥のパイプです。私が頭取とあなたを安全なところで合わせます。まず頭取の意思を確かめてください。その後私とあなたの立場も含めた摺り合わせはどうですか?」












模索 8

 早くも警察が関東やくざのナンバー3の横浜の組長を任意同行した。合わせて組事務所の捜索が始まった。どうもあの検察の人物の動きのように見える。新聞には日本1位となる合併の詳細が載せられている。ただこの決定には閣内の反対もあるようだと書かれている。この2行だけの合併では認められないという意見だ。
 カオルは朝一番の私との濃密な交渉を終えてマネージャーのワゴンで『白薔薇』に戻った。私は次の作戦のために大阪の若頭の携帯に電話を入れる。
「そろそろ掛かってくる頃かと思ってたぞ」
「もう少し東京に仕事を残しています。横浜の組はどうなるのでしょうか?」
「そのことだな。組としては出過ぎたようだ。裏情報ではどこから手を回したのかタイに行っていた子分がゲロしたようだ。これは仲間内の抗争になったようだ」
「そういうことってあるんですか?」
「金と力だ。私だっていつそうなるかもな。関東のやくざの金の流れが変わってきている。どうもナンバー2の武闘派に誰かが金を流している」
 今敵対しているのは頭取ということになるが。
「これはここだけの話だが、あの黒サングラスの身内が親分を売ったと噂だ。関西もこれから厄介なことになる。関東と連携している武闘派が動き出した。今度の銀行の合併でもやくざ界は大変動になる。金の流れが変わるのだからな。その頭取と早く話を付けた方がいい」
 若頭の電話を切った途端内線のランプが点いた。
「外線からです」
「・・・」
「先日検察の幹部と同席したものです。今から車を迎えにやらせましたがもう一度会えませんか?」
 確かにあの横にいた男の声のようだ。あの時は漠然と見ていたがどこかでよく見た顔だったような気がしていたのだ。
「やはり記憶がないようでしたね」







模索 7

 朝サエに生存確認の電話を入れた後、カオルが引き継いで長電話をしている。今日は第1課長の車で検察の庁舎に入った。すでに会長から原本のUSBのコピーが渡されている。部屋に入ると事務官もいなく背広姿の男性がソファーに2人掛けている。向こうは名刺は出さずに記録もしないようだ。
「USBを見ました。頭取が積極的にITMファイナンスに関与していたのはよく分かりましたが、不良債権については伊藤氏の比重が大きいでしょうね。これはすでに検察では見解が出ています。問題は頭取とNの係わりです。どうもこの部分はあなたが担当していたようですね?」
「記憶は戻っていないのですが、確かに担当していたようです」
「NはNのままで話してください。伊藤氏の過去の証言では裏金の半分を頭取にバックしていたようです。伊藤氏の裏通帳は確認しましたが、すでに全額引き出されています。調査では関東の組だろうと考えています。頭取側の裏金は全く調査できていません」
「それは記憶にありません」
 貸金庫は墓場まで持って行こうとカオルと話してる。
「ただUSBを見て金融再編を考えていたようです。Nとはそこでは意見が合ってたようです」
「Nを特定するのは検察では考えていません。とくに現在の段階ではNの証拠のようなものはありません」
 隣で黙って聞いている男性が初めて口を開く。
「あなたはよく週刊誌を使っていますが、Nについては触れないでほしいのですよ」
「了解しています。私の情報では今一番危ないのは関東のやくざです。タイでの殺人はおそらく関東のやくざの指示です。『白薔薇』のママの監禁もそうです。それに私の交通事故も彼らでした」
 頭取の関与を軟らかく否定した。





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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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