空白 2019年07月
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反撃9

 サエとユイに見送られて東京に向かった。新幹線の中で記者の記事の出ている新聞と週刊誌を読みこむ。8億の出どころに明確に警備会社の名前が挙げられた。さすが記者がよく調べている。警備会社の設立はR事件の最中で、経営塾のリーダー的存在だった会長が当時の総理の肝いりで警察の警備の唯一の下請けとして天下りを受けた。その警備会社から8億が出ているのだ。
 東京駅には2人のボディガードに囲まれたカオルがワゴンで迎えに来た。
「すでに払い込みは済ませている。どうも頭取が不正融資だと言ってるようなの」
「実権は副頭取だからな。とは言っても早く済ませるに越したことがないな」
「警備会社が人数を出して元秘書を探してる」
 いつの間にか車が検問所を抜けてビルの地下に入っている。そこからガードされてエレベータに乗り込み窓のない廊下を抜けてボディガードを置いて部屋に入る。そこにはスーツの男性が5人並んでいる。真ん中の一人が次官のようだ。振り込みを確認したから始まり15分ほど説明がある。取引はあっけないものだ。
 帰りには乗っていきたワゴンが待っていたように出ていく。その後に黒のベンツが止まっている。
「張り付いていた車がワゴンに付いて走り出しました」
 運転手はマネージャーに変わっている。
「そろそろ戦争モードだな」
「もう5寸釘はいらないわ。これから私の部屋で乾杯よ」
「会長のところに寄らないのか?」
「会長はまだ赤坂のホテルよ。珍しく元総理と元頭取が集まっている。私と修司は朝まで寝ないで会議よ」
 カオルの手がズボンの中に入って握っている。バックミラーのマネージャがにやりとしている。



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反撃8

 5億を使えなくて幹事長は総裁選挙に敗れて若手の議員が総理になった。合せて幹事長の席も失う大完敗だ。苦虫を潰したような顔で国会の喚問の席に座っている国会中継が映っている。どうも会長が元総理の派閥を動かしたようだ。反撃を始めるようだ。国会議員は週刊誌を手に持って、8億の振り込み相手と3億の支払い相手の説明を求めている。得意の秘書に任せていたの一点張りだ。
 その後幹事長の派閥の議員が赤坂の国有地払下げについて新総理に質問している。だが野党は反応を示さない。もちろん新総理には会長から5億が渡されている。それにこの審議はR事件当時の総理が了解済みで前総理も了解済みで申し送りしている。ただ私が慎重を期して止めている。
 大阪店の前の喫茶店に記者が押しかけてきている。
「週刊誌の方は第3弾の原稿を回しました。8億の銀行口座を開示しました」
「えらい勢いですね?」
「それで今日の国会中継で局長の新聞記事OKが出たんです。私が書きます。それで記事を見てほしいのですよ」
 原稿をテーブルに置く。
「銀行と支店名はいいとして、入手先はまだ伏せておいてください」
「秘書ですね?彼は警備会社を解雇されてどこに行ったのですか?」
「よく調べましたね。今海外にいます。最後は証人に出ますよ。それと警備会社の会長をもう少し詳しく載せて次にはファイクサーに繋がるようにしてください」 
 カオルからの携帯だ。
「会長から伝言よ。赤坂の国有地取引をすること。銀行内が不穏だそうよ。夜泊まるのよ」
「あの『白薔薇』のママですよね」
 記者は完全にママに恋している。









反撃7

 分厚い速達が届いた。それを見透かすように探偵から携帯が入る。
「まず、ファイクサーの赤坂のホテルだが、ここ5日間で訪ねて来た客はリストにして写真も付けてある。幹事長が1度これは2時間ほどで一番長かった。1対1で会っている」
 リストの写真を見る。
「それからファイクサーの塾の事務長が2回。例の警備会社の会長がやはり2回来てます。1度は怒鳴り声が聞えたと報告がありますよ。それと銀行の会長も来てましたよ」
 どうも会長は今度は幹事長に乗り換えたようだ。だが頭取や会長では資金に手が出せない。副頭取が実権を握っている。前頭取からの遺産は彼が引き継いでいる。
「赤坂の方はその地図にも附箋をつけたが、5社の名前で登記になっている。R事件の裁判が始まる前に代表者が変わっている。代表者を照会したが警備会社の関係者だ。それに無担保だったよ」
 携帯を切ってすぐにカオルに入れた。
「どこにいる?」
「札幌よ。東京から新しい子を5人連れてきて2人を東京に連れて帰る」
「赤坂はファイクサーと大衝突になる。カオルは顔を出さないほうがいい。今度は竿を抜かれるぞ」
「それよりいつ来るの?」
「しばらく竿は封印することだ。ところで秘書はどうなった?」
「警備会社からも解雇されたようよ。すでにタイに移されたわ」
「また殺すんじゃないのか?」
「今度は本人から提案があり証人になると。彼は蝙蝠みたいな奴だからね。陰茎を刺された私としては許しがたいのだけど」






反撃6

 週刊誌が出た。反響は大きい。カオルには会長から2人ボディガードをつけさせた。当面動いているのは『白薔薇』のママと見られているだろう。副頭取に連絡を入れて国有地購入費の別枠の120億の融資を受けた。幹事長の意を受けた野党が答弁を求めてきたが、幹事長の裏金の声がそれを上回っている。
「300万の振り込みが入った?」
「週刊誌を見た。次は?」
 探偵の声だ。
「赤坂のホテルにいるファイクサーを見張ってくれ」
「写真を撮るんだな?」
「それと例の赤坂の土地の地図で黒く塗った部分の謄本を上げて所有者の確認をしてほしいんだ」
 待っていたようにカオルから携帯が入る。
「5億は送金してくれた?」
「ああ今朝送った。今度は誰に渡した?」
「5番目の派閥の長が連合艦隊をまとめたわ。これで総理の支持もついて幹事長の数を上回った。今度いつ東京に来る?」
「しばらくサエでたくさんだ」
「もう使えるのに!」
「しっかり仕事をするんだ。次の原稿を送った。秘書のテープの引き起こしだ。ここで伏字で幹事長と警備会社の会長を出す。それとファイクサーの影も見せる。最後に党首選で負けるようなことはないな?」
「もちろんよ。赤坂の決裁は来るのよ絶対に!」












反撃5

「今度の読みましたがこれは余程慎重にやらないとというのが局長の意見です。でもトップ記事ですよ」
「まずは週刊誌でジャブですね?」
 乗り気の記者の顔を見て言う。彼は私が『白薔薇』のママと組んでいると知っている。だが会長の影は見えていない。今日は姉さんの事務所から帰りに寿司屋に寄っている。
「幹事長の裏金の8億ですが、3億はすでに若手議員に配られたと書かれていますが、残りの5億は?」
「今回与党内の派閥に配られる予定です」
 それまでに阻止することが今回の課題だ。5億を凍結する。
「8億の裏金の口座履歴のコピーはぼかして使ってください」
「出どころは?」
「党首の首になった秘書です」
 さすがに銀行の副頭取とは言えない。
「本人のテープ証言もありますが、これはその時に渡します。まだ伏せておいてください」
 記者はビールを飲みながら器用にメモを取っている。
「彼は党費の使い込みで首になったのですね?」
「実は元々幹事長と組んでいたのです。8億の繋ぎ手でもあります」
「出どころは?」
「これもテープに出てきます。ファイクサーと呼ばれている男ですよ。その金は警備会社から流れていて秘書は今そこの秘書になっています」
「その警備会社は過去に調べたことがあります」
 私は警備会社から出てくる秘書を撮った写真を出す。
「この写真も使ってください」









反撃4

 久しぶりに精液が枯れたような気分だ。だがサエの顔を見ていると幸せだ。今日は大阪店に出て溜まっている仕事を朝から片づけている。赤坂の進捗具合を携帯で確認する。順調な段取りで進んでいる。フィクサーに知られることなく予定地を買い込める。
「修司?」
 カオルの声だ。
「もう退院した?」
「あんなところにいちゃ腐ってしまう。グローブをぶら下げて会長に会ったわ」
「テレビで見たが総理は持たないな?」
「想定内よ。彼は赤坂の国有地の払い下げを通してくれたからもう用済み」
 頭の中で赤坂の地図を描いてみる。あの土地の真ん中にどんと国有地があった。これはR事件の時に当時の総理が引き渡しを約束していたものだ。これはファイクサーも狙っているはずだ。
「第1秘書に党首の引き渡し交渉をしているわ。それでまた資金を用意してほしいのよ」
「そんなにして採算は合うのか?」
「国有地だけで儲けが100憶には化けるわ」
「親父になってきたな」
「修司の声聞いてるだけでちんちんが立ってきたよ。今度は党首候補に5億よ」
「後は連合艦隊だな」
「おそらく会長の言うのにはコロコロ総理が変わるって」
「それといよいよ幹事長の8億の暴露よ。例の記者に頑張ってもらわないとね。わあ。立ったちゃって縫ったところから血が出てきてる」









反撃3

「カオルさん大丈夫?」
 新店の方を覗く。間に合ったようだ。サエがレジを締めていて研修生がシャッターを閉めかかっている。
「ああ、彼奴は殺されても死なんよ」
 5寸釘を刺されたグローブの様な陰茎を思い出して答えた。
「先に出るけどいい?」
「はい」
 高校生のようなニューハーフだ。私はもう眠っているユイをバギーに乗せる。今日は少し路地を歩いてやぶ医者の女房の小料理屋を予約している。暖簾を潜るとやぶ医者がカウンターの中で着物を着てビールを出している。
「医者は廃業ですか?」
「いや、夜だけ手伝っているんだ」
 サエが私の腕を抱えている。
「私はもう子供産めない歳だから羨ましいわ」
「そんなことありませんよ」
 サエが否定している。男と知っているやぶ医者はにこにこ笑っている。
「野党総理になったが人気は急落だな」
 そう言う客の声でテレビ画面を見る。また総理の失言で国会が混乱している。それに合わせて母親から受けた金が野党から質問を受けている。こちらの裏金ではない。これは秘書があらかじめ幹事長に渡していた情報だ。反主流派ボスの罠だ。やはりあの総理を守るのは不可能だ。
「サエ、帰ったら2回はやるぞ」
「聞こえるよ」
 真っ赤になっている。






 

反撃2

 カオルに引き止められたが、会長に報告だけ済ませてサエの元に帰ることにした。会長はあれから赤坂のホテルに泊まっている。同じホテルに宿敵が泊まっているのも面白い。
「もう帰るのか?」
 部屋に入ると私設秘書が部屋を出ていく。
「カオルとは引継ぎを済ませました」
「だがまだ動けないから続けてくれないか?」
「後は向こうの出かた待ちなんでしょう?それよりカオルの父親なのですね?」
「そんな話をしたか。余程君に心を許しているのだな」
 会長は立ち上げって背広の内ポケットから写真を出してくる。無造作に私の前に置く。それほど若くない会長が胡坐を組んでその後ろに娘のような女性が肩に手をかけている。膝にいるのは坊主頭のカオルだ。
「儂の女房の料亭で仲居をしていた。もうこの歳で子供など生まれんと思ってたが」
「カオルのお母さんは?」
「5年前に病気で亡くなった。それで上京してきた息子が娘に変わってしまっていた。それで当時儂の部下だった伊藤に預けた。前の女房はもう亡くなったが、それに3人の息子がいる。子供を生ませた女が彼女を入れて5人もいる。その中で儂の後を継げるのはカオルだけだよ」
「まさかカオルともやった?」
「そう言いふらしているそうだ。親子なのを知っているは番頭と君だけだ。儂は息子を抱くほど畜生じゃないぞ。だが困ったことだわ。君が面倒見てくれると思ってたんやがな」
「・・・」
「サエと言う子も男だそうだな?愛せるのか?」
「女男と言う垣根が取れてしまったのですよ」







反撃1

 病院の個室のベットでテレビを見ている。新聞も5誌買ってきているが昨夜の襲撃劇は載っていない。だが会長の報告だと15分後には警備会社の車が駆けつけたということだ。もちろん秘書の失踪も出ていない。
 新総理は早くも問題発言が続いているが、幹事長が余裕のある顔でテレビでお詫びをしている。朝刊を広げると早くも内閣改造の話が出ている。これでは会長の投資もさして効果を上げる間に終わってしまいそうだ。
 今朝は朝から手術があってようやくカオルがベットに戻ってきた。
「この際竿を取らないかと言われてそんなことしたら彼に捨てられるって」
 もう十分元気だ。
「カオルの調査の後を引き継いだが?」
「反主流派のボスの裏金ね。8億の資金の流れは証拠を取っている」
「赤坂の用地買収は会長から裏話は聞いてないのか?」
「?」
「あれはR事件の遺物でファイクサーの土地を囲むように買い込んでいる。それが脅威だったのだろう」
「秘書がそのことを執拗に聞いていたのはそれよね?また狸に騙されたわけね」
「手が切れないのか?」
「でも血が繋がってるからね」
「祖父?」
「そうじゃない。父よ」
「まさか?」





衝突10

 0時を少し回った頃、黒塗りのワゴン車が到着する。すでに道路際に工事車が泊まっている。そこから探偵のメンバーが3人降りてくる。ワゴン車からは私も含め会長の番頭を先頭に黒づくめの男たちが5人降りる。
「今この建物の電源を切った」
 裏口の窓が開かれ作業チームの探偵たちが先に中に入る。その後から黒づくめのチームが麻酔銃を手に入っていく。管理人は金を渡してまだスナックで飲んでいる。報告では廊下を進んだ部屋に警備員が2人いるはずだ。警備員に黒づくめチームが飛び込む。作業員が地下への扉を合鍵で開ける。
 私と探偵は地下室に降りていく。地下室の風景はビデオで見た通りだ。探偵が照らした光の中に全裸の女が大股を開いて縛られている。陰茎に5寸釘が刺さったままでグローブのように膨らんでいる。私が懐中電灯をカオルに当てて、
「カオル?」
と言うと眼だけが反応する。
「毛布」
 床一面に脱糞と尿の匂いが充満している。秘書を捕まえたところからカオルは放置されていたのだ。裸の彼女を毛布に包んで抱きかかえる。探偵が足を持って地上に運ぶ。窓の外にはマネージャの車が泊まっている。運び出した途端にい電気が付く。
「電源が切れたので警備員がこちらに来る」
 二つのチームが素早く撤収する。同時にマネージャーの車が走り出す。
「今やりたいとこなんだけどこの太マラではね」
「今はこれだけだ」
と言ってカオルの唇を思い切り吸った。
「病院は押さえています」




衝突9

 朝一番会長から呼び出されて熱海の別宅に入る。ひっそりとした庭の見える部屋に会長が椅子にもたれている。だがボディガードが3人付いていて警戒厳重だ。裏の仕事専門の番頭が入ってくる。
「君の言うように秘書を昨夜拉致した」
「車両倉庫を出たところを捕まえました。どうも彼の言うには警備会社の調査部に入ったようです。この鞄にこんなものが入っていました」
 小型の盗撮機だ。
「見ないほうがいい」
 会長が横を向いて言う。
「いえ見せてください」
 全裸の縛られたカオルに秘書が跨ってアナルに入れている。そう言う場面が30分ほど続いて急にカオルの陰茎が映し出された。秘書がくどいほど揉みしごいて反り返っている。それに秘書が無言で5寸釘を打ち込んだ。
「白状させるための拷問なのか?」
「いえ本人は趣味でやったと言っています」
「彼と合わせてください」
「それはやめておいた方がいい。別室から見るといい」
 番頭に連れられて地下室に降りる。隣のマジックミラーで覗けるようになっている。まさに頭巾を被った男が全裸の秘書の陰茎と玉に五寸釘を打ち付けているところだ。
「彼はこの道ではプロです。Sの男は案外に責められるのには弱いらしいですよ。今日中にすべて吐きます。画像は口封じで撮っています。ここからは携帯はできませんよ」
 そう言われて庭に出て携帯をかける。
「今夜救出の段取りをしてください。医者の手当てもお願いします」
 うんと頷く探偵の声がした。








衝突8

 連日秘書は車両倉庫に通っている。昨夜は朝方までいたようだ。昨夜は疲れて寝ていたらちいママが朝には全裸で私の傍で寝ていた。酔った勢いで抱いてしまった。ちいママのものはもう反り返っている。マネージャーの内線で慌てて裸で出て行った。
「昨日付で秘書は解雇になりました。どうも党費の使い込みがあったようです」
 私設秘書からだ。動き出した。
「どこに泣きつくか探ってくれ」
 受話器を置くと寝不足の探偵の顔があった。
「昨晩3軒はしごして聞きだした。カオルは間違いなくあの倉庫にいる。だが地下室で近寄れないという。2人の警備員は地下の入り口になる部屋にいるようだ。秘書が頻繁に通ってきている」
「無事か?」
「明日地下の地図を持ってこさせる。金を握ったから裏切れない。突入するか?」
「いや、カオルは赤坂の件でもファイクサーに絡んでいる。彼女は会長に知らされずこの仕事を受けている」
「倍の人数を手配する」
 探偵が部屋を出ると会長に直接携帯を入れる。
「赤坂がらみですね?今度は秘書をそちらで拉致してください」
「人質交換するのか?」
「いえ秘書はもう弾かれますよ。その前に情報を吐き出すのですよ」






衝突7

 幹事長になった反主流派のボスは8億から3億を引き出した。この引き出しを実行したのはあの秘書と警備会社の会長だ。銀行の防犯カメラの映像も撮った。この資金は一度幹事長の個人通帳に入った。それから今回の新人議員の活動資金に回されている。計画は着実に進んでいる。
「今日は秘書は幹事長と相談の後、始めてあの警備会社の車両倉庫に入った。やはりここの食事は1人前多い。夜に泊まりの警備員に居酒屋で『白薔薇』のママの写真を見せた。顔色が変わった」
「そちらもそこに出かけているのか?」
「この男不満が多いようだ。金を握らせる」
「慎重にやってくれ」
 今日は私は赤坂の現場に来ている。カオルは山のように仕事を残して行った。3時間現場と打ち合わせして地上げ費用を200億に圧縮して実行にかかる。ここで気になったことがあった。どうも赤坂の地上げはR事件の時にはファイクサーと会長が組んでしていたようだ。仕上げた根元の土地は半分が会長の手にはないようだ。今度の購入地は碁で言うと囲む石になっている。カオルには知らせず会長が絵を描いている。となればそうはカオルを釈放しないだろう。
 帰り赤坂の狭い路地を歩いていると後ろから誰かが付いてきている気配がする。嫌な予感がして人の家の塀の中の入る。正面から2人、後ろからはあの刑事上がりの男だ。
「どうした?」
「誰ともであってません」
「逃げられたか」


衝突6

 朝刊のどの1面も野党連合内閣の写真ばかりだ。反主流派のボスは幹事長のポストに収まった。週刊誌もどこも主役は新内閣だ。だがあの記者は律儀にも2面に載せてくれた。どうも彼はカオルに恋しているようだ。
「さっそく抗議が入った」
 その記者だ。
「それはどこから?」
「反主流派の秘書だと言っていた。名前は・・・」
「それは総理の秘書だ。ありがとう」
 今日は会長と新総理歓迎会に出かける予定だ。そこで別室で会談をする。総理も資金主に会わないわけにはいかない。会長にはボディガードが2人ついている。スーツに着替えた私はホテルの広間から会長と別室に入る。別室にも3人のボディガードが立っている。
「忙しいところ悪いね。用件は彼が伝える」
 私は黙ってあの雑誌を開いて写真をテーブルに5枚並べる。これは探偵が送ってきたマネージャーの写真だ。一つは反主流派のボスの部屋に入るところ。それから警備会社に入るところ。これでさすがに総理にもマネージャーが狗だと分かったようだ。
「彼を第1秘書から外してください」
「どこまで関与?」
「この誘拐事件にも関与してます」
「分かった」
 もう会長は立ち上がっている。
「カオルではできない芸当だな」
「カオルに何かあったら会長も首を洗って貰いますよ」




衝突5

 カオルの行方不明後5日が経った。副頭取に8億の口座確認をしているがお金はどこにも出ていない。夕方野党の党首のマネージャーから携帯が入った。
「明日正式に発表がありますが、党首が総理を受けることになりました。でも内閣には反主流派から3人も入る」
 どうも椅子取りは終わったようだ。取り敢えず実を採ったわけだ。これで党首の資金が切れるのを待って党首交代に出るのだろう。だがカオルの消息は依然と不明だ。
 いつの間にか探偵が入ってきていて地図を急に広げる。
「私設秘書と摺り合わせをしたが、8か所の内警備車両があるこの倉庫が怪しいと。ここは高級警備がない限りでない車両が配置されていて、普通は管理人1人だ。それが5人の食事が運び込まれている。だが臨時警備に入っているのは3人。出入りの顔は確認した。残る1人は彼女だ。だが確定はできない」
「だがリスクは冒せない」
「会長のところで5人を張り付けてもらって、こちらは得意の調査を行う。建物図面を手に入れる。住み込みの管理人を囲み込む」
「こちらは野党党首の秘書をマークしているが、彼が頻繁に会っているのは警備会社の社長だ。彼だけが警察上がりではなくファイクサーの塾生でもあった。ここに3人交代で貼り付けている。動き出すのはこのあたりだと思う」
「これは?」
「一つ池に石を投げ込もうと思っている。『白薔薇』のママのシリーズを書いていた記者に彼女が消えたという記事を送るところだ」
「●●警備、野党●●秘書、反主流派●●代議士ここまで書くのか?」
「ああ勝負だ」







衝突4

 サエの店のオープンに顔を出す予定だったが、仕方なくお祝い電報を打った。私はカオルの東京店の部屋に陣取る。野党の党首の秘書にも張り込みをつけた。カオルのパソコンを一日中覗いている。昔からカオルはこのパソコンに暗号を入れて管理している。
 どこで調べたのか反主流派のボスにファイクサーから8億流れたという事実が書かれている。これは元頭取が副頭取に調べさせたようだ。履歴証明が付いている。送金会社は例の警備会社だ。
「赤坂の料亭のビルの裏口であの時間警備会社の車が停まっていたという情報が入った。あの警備会社だ。会長に警備会社の車庫や寮を調べさせてほしいんだ。こちらでは手が足りない。事務所からリストをそちらに流す」
 探偵が一つの糸口を見つけてきた。
 そのメールを確認して私設秘書に送る。8か所あるが15人を動員したと彼からメールが入った。私は時計を見て野党の党首の事務所に出かける。もう簡単には党首とは会えない。応接室に秘書が顔を出す。
「総理は決まりましたか?」
「いえまだです。派閥同士で会談が持たれていますが」
「どうも、反主流派のボスにお金が流れたようですが、当社の社長からは事実が確認できなかったと報告があり、それ以降行方不明になっています」
 鎌をかけた。
「と言うことは総理は?」
「判断できないことになりました」
 この鎌は反主流派のボスにすぐに流れるだろう。勝負があったのだからカオルは必要なくなる。私はそれだけ報告すると事務所を出た。後はマネージャーに付けてもらう。
 15分後、マネージャーが反主流派のボスの部屋に入ったと連絡が入る。それから20分後にタクシーに乗って警備会社に入った。
「そちらに野党党首のマネージャーが入った。監視してくれ」
 探偵に携帯をつなぐ。





衝突3

「カオルは何をしていたのですか?」
 ホテルの一室で一人煙草を吸っている会長の背中に声をかけた。
「遂に御大が出動してきた。野党再編を手掛けたのは彼だ。R事件の怨念だろうな。ITM事件の発端を作ったのも彼だ。人脈で言えば儂なんかはまだ子供だ。だがこちらも押されてばかりはいられない。総理も頭取ももう隠居の気持ちだ」
「なぜカオルを危ない世界に出すのですか?」
「あれは昔の儂に似ておる」
「何をしていたのですか?」
「先の先だよ。今回反主流派のボスに金が流れた。ここまでは仕方がない。先手を打たれたのやからな。だがさすがに現党首を押さえて総理の座を手にはできん。彼はその次を狙う。その資金だよ。カオルにはその資金の流れを追わせていた。だが彼らはカオルが資金を阻止しようとしていると見て監禁している」
「拷問するんじゃ?」
「分からん」
「それは冷たすぎるではないですか?」
「かもしれん。カオルはすでに流れを確認したと言っていた。すでに野党の党首の秘書は反主流派に取りついている。それで鎌をかけるので会ったのだ。だがこちらの裏をかかれたのだ」
「どういうことですか?」
「秘書が薬を盛った。ビルの防犯カメラに映っていない。裏口から運び出した」
「でもちいママは携帯を受けとっている」
「ちいママに確認したが車の騒音も入ってなかったとな。前もって部屋から入れたのじゃ」






衝突2

 会長から10人ほど赤坂付近の聞き込みを行っているという連絡が入った。こちらも探偵から3人を出してもらっている。私と探偵は現場を離れてファイクサーの泊まっている赤坂のホテルに入った。やはりカオルを拉致するというのは今は彼の周辺しかない。彼から資金が流れ反主流派のボスに流れているというのはカオルが持っていた情報だ。
「こちらにも1人配置した。ファイクサーは3日前にこのホテルに入っている。2日前までの出入りは分からないが、先程マネージャーから送ってもらった男の出入りは今はない」
 探偵が携帯の写真を見せるが見たことがない顔だ。
「野党の党首の秘書は彼女が会長の要望を持って来ていて1時間半ほど打ち合わせをしてその店で別れたと言っている。彼女は店を出て携帯を取って誰かと話していたようだと」
「東京のちいママだ」
 話しているとサングラスの男が椅子に掛ける。私設秘書だ。黙ってホームページのコピーを置く。
「この防犯カメラの男はその警備会社の班長です」
「警備会社?」
「元警察官で固める会社でこの男は知能犯の警部だった男です。ここはファイクサーの顧問会社でもあります。ここは警察の上層部の天下り会社です。直接政府から高額な政界の警備を任されているようです。ここは反主流派のボスもよく使っているという話です」
「取りあえずそこならルートがある。張ってみる」
「あなたはこれから会長に会ってもらいます。このホテルに来ておられます」




衝突1

 野党内閣の陣容がまだ固まらないようだ。これはどうも反主流派ボスが派閥固めをしているという噂が流れている。それについてカオルからどうも反主流派ボスにファイクサーから新しい資金が流れていると言っている。ここで総理に反主流派ボスかその派閥から出す可能性があるという。今は資金が勝負を決める。
 そんな最中マネージャーから携帯が入った。
「至急に東京に来てください。昨夜からママが行方不明なのです」
「直近まで何をしていたのですか?」
「会長の用事で野党の党首の秘書に会いに行っていたはずです」
 その足で東京に飛び立った。空港で探偵を呼び出して足取り調査をしてもらう。
 空港に着くとマネージャーと探偵が迎えに来てくれる。
「秘書は夜の9時まで料亭で一緒だったと言っている。その後彼女の携帯でちいママに10時には店に入ると連絡があった。そこから消息が消えている」
「ちいママの話では最近店に新顔がよく来ていると言っているわ」
「今防犯カメラを見てもらっている」
「総理争いか?」
「でも党首が総理になるのでは?」
「反主流派ボスが最大派閥だ。金を封じていたから後ろに下がっていたが」
「長野のファイクサーが東京に出てきているということだ」
「厄介なことにならなければいいが」




起承転結13

 カオルが持ってきた地上げの資料全体をここ5日間丹念に見る。昔の買値が半分まで落ちている。だが交渉が行き当たりばったりで行われている。さっそく赤坂の現場責任者に地上げ順位の確認のメールを入れた。このままでは融資枠の200憶では収まらない。カオルはあれから大阪から東京に飛んだ。どうも会長とパイプは相当太い。
 3時過ぎにカオルの事務所を出て阿倍野の新店舗のリホーム状況を見に行く。
「サエ着てたのか?」
 サエがジーパンに作業着を着て職人に細かい指示をしている。
「5時から研修生も入ってみんなで展示をするの」
「手伝うよ」
「カオルさんからもうお祝いの花束が届いているの。まだ大阪に?」
「いや、もう東京に飛んだ。エッチをする暇もない」
「恥ずかしい」
 5時になると3人がユイを連れて集まってきた。どういうわけか姉さんが商品をトラックに積んで運んでくる。今回は壁に大型のテレビをつけて女装の録画を流すようにする。だが今はテレビを流している。衆院の結果を見るためだ。早くも野党連合の当確が続出している。会長の大逆転が起こるのか。
「入居祝いは私が持つからね」
 姉さんが寿司とビールを運び込んできてサエと腕を組んでいる。
 テレビの画面に野党の頼りない党首の顔が映し出されている。なんとその真後ろにカオルがいる。サエも見つけたようでビールの入ったグラスを軽く上げている。
「カオルさんはイサムの力を求めている。私は横にいるだけで幸せよ」












起承転結12

 カオルの事務所でパソコンでサエの店舗を阿倍野の表通りで探している。そのうちに今回金融を引き上げって姉さんが買ったビルを見つけた。ここは大規模な地上げ物件が真後ろまで迫っている。
「このビルに空き部屋はない?」
「そうね。今月末なら2階に空きが出るわ。1階が半地下になっているので店舗にはいいわ。誰か店を出すの?」
「サエが今のところを仕事場にして店舗を出すと言っている」
「ここなら路地で仕事場と繋がる。条件のメール送るわ」
 姉さんもしっかりと不動産屋になっている。
「しっかり亭主やってるな?」
 いつの間にか札幌から大阪に戻ってきたカオルだ。即座に鞄を広げって地図を出す。
「融資が出たわ。それでこの黄色い部分を固まった3か所買うの。現場はチームが出来ている。修司に取りまとめしてほしい」
「地上げもやるのか?」
「それで土地と建物代を貰う約束を会長としたの」
「大した女だ」
「サエは修司の女房だけど私はパートナーよ。失敗したら穴に大きなのぶち込んでやるから」
 事務員がくすくす笑っている。
「衆院の選挙だがどうなんだ?」
「6分4分で野党連合のようよ」
「あの頼りないのが総理か」







起承転結11

 カオルに泊まるのをせがまれたが、どうしてかサエに会いたくなって新幹線に乗った。新大阪からタクシーに乗ってサエの店に乗りつける。「少し遅くなるが夕食を食べよう」と連絡を入れた。
 8時過ぎに店の前につく。まだ1階も2階も赤々と光が灯っている。ちょうど2階のカーテンが引かれドアを開けるとサエがユイをベビーカーに乗せて立っている。
「遅くなったな」
「いつももっと遅いから。ユイはもう済ませて眠っている。時々寄る店でもいい?」
 サエが路地に入って小さな店に寄る。
「この壁の商品は?」
「ここで展示してもらっているの」
 奥のテーブルに店の従業員がいつの間にか2人座っている。
「隣に来てもらったら?支払いは持つよ」
「いいの?一度主人に会わせてと言われてたの」
 サエが嬉しそうだ。
「社長いつもイサムさんの噂ばっかりなんですよ」
 古い馴染の子が話す。
「こちらはカオルさんの店にいた子よ」
「向こうでは指名のかからないナンバーワンでした。ここに来て幸せです」
「私もイサムさんのような彼氏が欲しい」
 二人ともニューハーフだ。でも普通の女の子のように見える。
「もう一人研修生で入ってもらう予定なの」
「それじゃ今のところじゃ狭いだろ?」
「店はそのまま仕事場にして売り場を表通りにと考えてる」
「それはこちらで探そう」










起承転結10

 久しぶりに副頭取室に入った。名刺は会長の秘書だ。
 椅子から立ち上がって握手をする。それから備え付けのソファーに掛ける。ここには身近なものしか入れない。彼は昔から熱烈な頭取の腹心だった。ある時からまだ課長に過ぎない私にすらライバル心を抱いていた。彼は表で私が裏だった。
「例の赤坂の土地を動かそうとしています」
 私は鞄から赤坂の住宅地図を広げる。懐かしい色とりどりに塗られた古びた地図だ。この地図は頭取に渡されて再調査をしたのだ。どうも頭取はITM事件が起こらなかったらこれに手を付ける気でいた。
「この赤い部分を担保にこの会社に融資してください」
「これは『白薔薇』のママの会社だな?だが無借金とは凄い」
「ママは金を産むのは旨いですから」
「元頭取もいるわけだな?」
「この部分は全体から言うとへた地ですので将来は売却します。時価総額で224億なので単名で200億頼みます」
「初めから大きいな?」
「これからもっと大きな融資をお願いすることになりますよ。この資金はこの黄色の部分に投資します。ここが地上げの未消化部分です。頭取の道が見えてきますよ」
「頭取の道か」
 彼が相談役と新頭取の生え抜きの家系に打ち勝つためには会長のバックが絶対条件だ。彼自身元頭取のように資金源を作る能力はない。頭取を獲得するにはITM事件の様な山がいる。
「一度『白薔薇』のママをセットしてくれないか?伝説のママだからねえ」
「新宿の店に来るのですか?」
「お忍びでな」
「深入りしないように」







起承転結9

「ボンの言っていた男現れた?」
「いや人違いだったようだ」
 サエには一生この話はしないつもりだ。あの夜3時間もカオルの言いなりになった。どうも手術後はフイリッピンに掘りだすそうだ。ひょっとしてカオルは会長とそう言う関係だったのかもしれない。伊藤の監禁にもカオルが係っていたのではないか。翌日カオルと東京に戻り会長のところに行く。
 会長室に入る前にカオルは姿を消した。
「送金ご苦労さんやったな。彼で出来ん仕事を頼もうと思ってな」
 隣に座っているのは私設秘書だ。どうも記憶が戻っていないようだ。淡々と地図を広げている。赤坂の地図だ。この地図は何度も見た記憶がある。R事件の時の不良債権の大型の一つだ。これはいつの間にか正体不明の会社の持ち物なって表舞台から消えた。
「これは伊藤がITM事件の中で手をつけようとしていました」
「よく覚えているおるな。いよいよ金脈の再発掘や。手伝おうてほしい」
 隠していたのは会長か。
「カオルは?」
「すでに赤坂のヘタ地を貰うつもりでおるわ」
 会長が名刺をテーブルに置く。資料のファイルを私設秘書が並べるように置く。
「副頭取になったようですね?」
 彼は頭取の腹心の部下だった男だ。


起承転結8

 3日後段取りをしてサエの親父を呼び出した。あれから親父の話は一切していない。今後サエに伝えることもないと思っている。親父を目隠しして小頭にカオルの指定の部屋に運び込んでもらった。親父と私は殺風景なベットだけある部屋に通される。
 ノックがしてショートカットのサエが入ってくる。もし仕組んだことを知らなければサエだと思ってしまう。
「サエなんだな?」
 サエと確信した声だ。サエはビールを運んできてコップにそれぞれ注いでくれる。それから返事することもなく乾杯をして飲み干す。カオルの化粧術は凄い。だが声を出すのは押さえている。
「一度親子の縁で抱かれるがこれっきりだと言っている」
 これはセリフを決めていた。だがあまりにも似ているので驚いたままだ。
「ああ、俺も長くない。もう一度抱けたらと思い続けてきた」
 サエがいやカオルがスカートを下す。立派なものがそそり立っている。親父が思わず立ち上がるとそのままベットに倒れ込んだ。瞬間に移動ベットが運ばれてきて白衣の看護婦が連れ去っていく。
「立たないとダメだなと気合が入ったわ。それで修司のものを思い浮かべた」
「サエそっくりだ」
「化粧って怖いのよ」
「ここは?」
「ニューハーフになるところ。親父さんには悪いけど竿も玉も抜くわ。膣は作らず穴ぽこよ」
「怖いな」
「そんな冷たいこと言うなら許さない」
「いや今日は何でも聞く」
 実はあまりにも似ているサエに押さえられなくなっている。






起承転結7

 サエに夜親父の話をした。彼女は小刻みに震えだして蒼白になった。
「会ったら私殺すかもしれない」
 その言葉を聞いて頷いて目を閉じた。
 今日中に5億を振り込む約束になっている。午前中に銀行を回って事務所に戻ると、カオルのメモがあり部屋で待っていると言う。事務員の女が含み笑いをしている。
「振り込みをした」
「ご苦労さん。衆議院選挙の金らしい」
「情勢は?」
「会長曰く今回は野党の勝ちらしいわ。それと修司の銀行の頭取が変わったわ」
 そう言いながら背中に手を回してくる。
「やる前に頼まれてくれないか?」
とサエの親父に会った話とサエの怖がりぶりを話した。
「私がサエになって会うの?」
 あの時ふとカオルのことが浮かんだのだ。
「カオルとサエは似ている。ただ一回り大きさが違うが逃げてから7年もたっている」
「修司は姉妹を抱いてるわけね?殺す?」
 カオルの生きてる世界では普通の会話だ。
「殺さない。不能にするまで」
「分かった」
 もうカオルの口の中に私のものが。




起承転結6

 これは他の人間の力を借りれない。サエが男だということを知られてしまう恐れがある。陽が暮れる前に日払いのホテルについた。玄関に眠っているような老人に声をかける。
「人を探してると?」
 同時にメモを目の前に出した。薄目が開いて隣の暖簾を指差す。
「黒の帽子を被ったのがいるそいつや」 
 暖簾を潜ると席はまだらで一応にみんなこちらを見る。この街に住んでいるがこの辺りにはめったに来ない。一番後ろで髪の長い女と話している男が黒の帽子を被っている。私はメモをちらつかせる。
「お前はあっちへ行け!」
 女が振り向いたが明らかにお釜だ。男は痩せこけてはいたが掘りが深く昔はいい男だったと知れる。
「雑誌の女いたか?」
「あの女と違う」
と言ってポケットから初めて会った頃のショートカットの幼いサエの写真を見せる。明らかに目が反応している。
「どこにいる?」
「ミナミで働いている。やくざの旦那がいるが?」
「金は出す。会わせてくれ。俺は彼奴の親父だ」
「母親は?」
「別れたままだ」
「それで今更どうして?」
「俺の命は長くない。シャブ漬けだ」 
「会って謝るのか?」
「もう一度入れたいんや彼奴の中に」
 むかついてくるのを堪えながら、
「一度会いたいか聞いてみる」










起承転結5

 二つの記憶が融和するのに時間がかかる。サエ以外はカオルにもしばらく内緒にしている。事故後の記憶が重ならず視点が少しずれて見えるようになっている。あの時はサエしか見えなかった。その気持ちが蘇ってきている。その分朝の愛撫が長くなっている。
「最近サエがキラキラに見える」
 ボンがモーニングの席でぼそっと言う。サエはフミコと子供の話をしている。
「妙な男がサエの写真を見せて店で居場所を尋ねてきたんだ」
「妙な男?」
「昔も訪ねて来た記憶がある。あの時は白塗りの人形のような写真だったが、今回は彼女の写った雑誌だ」
「サエは?」
「追っかけだと思っている。人気だからなあ」
「どんな男だった?」
「昔に比べてげっそりと痩せていた。西成のアパートにいるとメモを残して行った。こういうのはすぐに捨てるんだけど」
 それはどうもサエの言っていた親父かもしれない。
 今日は半月ぶりに姉さんの事務所に行く日だ。
「そのメモのところに訪ねてみる」
「気をつけろや」
「しばらくサエに内緒だぞ」
 メモをポケットに押し込むと、ユイを背負って店までサエを送る。店の前にはもうマニアらしき人物が並んでいる。
「なんだか紐みたいに見えるな」





 

起承転結4

 最終の新幹線で大阪に戻った。サエとユイの顔が浮かんだのだ。疲れたところでビールを飲みながら大阪に戻ったので部屋に戻るとそのまま倒れ込んでしまった。そこから記憶がない。朝起きるとスーツ姿の自分に妙な気分だ。だが体が動かない。
 サエが覗き込んでいる。何か言おうとするが声が出ない。車が傍を通っていく。人だかりができていて太陽がまぶしい。ショートカットの幼い顔のサエが私の肩を抱きかかえている。両足を持っているのはボンだ。リヤカーに乗せられると物凄いスピードで走り出す。
「どうしたの?」
 ロングヘヤーのサエの唇を思い切り吸う。
「あの日の光景が戻った」
「事故後の記憶も戻った?」
「ああ」
「私を思い出した?」
「思い出した。しばらくサエのアナルを膣と思って入れていた」
「ごめんね」
 サエのパジャマを引き下ろすと両足を抱えてアナルに指し込む。この感触も戻ってきた。
「凄い声だな」
「もう我慢できない!修司」
「サエのイサムだ」





起承転結3

 赤坂の料亭を会長の名前で予約している。元総理も元頭取も今は名前を出さない。表舞台から消えた存在になっている。私はポケットから会長の秘書の名刺を出す。
「なんだ君か」
 白いものが急に増えた銀行の会長が驚いたように名刺を見る。
「条件はご存知ですね?」
「ああ、今度は総理の意向ではなく会長の意向だね?今回はしてやられたな。副頭取を抑えられるとはなあ。彼とはライバルでもあったが残念だ。野党再編に乗ったが勝ち馬から外されたよ。まさか新党首の後ろに会長が付いているとはね。今回は後ろに元頭取の影も見える。痛しかゆしだ。君は記憶を戻して昔の関係に戻ったみたいだな?」
「なかなか清算できないものがあります」
 今はカオルの関係と言ってもいい。
「営業部長を常務にというのは分かった。だが条件がある。今の頭取が会長になるのは流れだが、私を取締役相談役に残してほしい。君もご存知のように彼では頭取職に飲まれてしまう」
 確かに頭はいいのだがボンボンだ。
「ところで君は政権が変わると思うか?」
 会長は次の頭取のかじ取りを早くも考えている。
「そのような流れですね」
「だがそれは長くないと思うが?」
「かもしれません」
「しばらく乗ってみよう」
 これは独り言だ。





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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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