空白 

戸惑い 6

 サエが子供を産んだという噂は町中に広がっている。この発生元は約束していたやぶ医者のものようだ。腹痛と飛び込んできたサエがその日からつわりを起こして翌日出産。どうもやぶ医者が隣の兄ちゃんに故意に話したようだ。この町は噂に尾ひれがつくことこの上ない。兄が寝ている妹を犯したと異母兄妹も故意に飛ばされている。私はちょっとした犯罪者のように白目で見られている。
 今日は姉さんに散々嫌味を言われて、痛風で病院に行っている親分を置いて、地上げの短期貸付の抹消手続きに昼から信組の応接室に到着した。
「思ったより早かったですね?」
「ああ、ITMファイナンスの影響や。短期資金が底ついてきてる。売り手も妙に心配して粘らんようになってると言う話だ」
 スーツ姿でも派手な赤いネクタイの若頭が笑う。取引が終わって司法書士は法務局に出て行き、銀行員は返済の処理をしている。部屋には不動産子会社の社長だけである。
「伊藤はどうなるんですかねえ?」
「これは噂やが関東やくざに沈められたという噂だ」
「そんなことってあるんですか?」
「よくあるさ。俺だっていつ鉄砲玉に狙われるか。伊藤のように派手にやったら消えるしかないわ。しゃべると困る人が仰山いてる」
と言って携帯を取る。
「これからカラオケに行くから車を回せ」
と言って切ってから、
「ママあんたに気があるみたいや。今夜は付き合ってやってな」







戸惑い 5

 夕食を済ませてサエをベットに誘ったが拒まれた。
「今日の記念すべき日にやりたくないわ」
 その一言である。サエは子供を抱いてベットでミルクをやっている。
 その時フロントから電話が入っていると知らせてきた。
「おめでとう。お父さんね」
 カオルの声だ。
「替わろうか?」
「いえ、サエとはよく話をしているから。とうとう昨日私も任意で地検に呼ばれたわ。伊藤との係わりと頭取の係りを聞かれた。これは頭取とも話の筋を合わせていたわ。ここにはほとんど大きな嘘はないわ。頭取にも聞いているらしく頷いていた」
「第2課長の件は?」
「殺された彼は警察が調べているらしく検察は修司のことを盛んに聞いてたよ。銀行は無届欠勤で解雇になっている。どうも頭取と私の関係も知っているようだわ。これは伊藤がしゃべっていたらしいけど証拠はないわ。それよりあのマンションが調べられたよ」
「パソコンは?」
「3日前に全面改装して募集を始めた。もちろんこれはマネージャーに動いてもらった」
「伊藤は?」
「あれから会っていない。どちらにしても大阪の店に行くわ。今日はこれからお楽しみね?」
「それが母親になってしまったよ」
「へえ、子供ができると変わるんだ。今日は淋しくマスターベーションやねえ」







戸惑い 4

 やぶ医者の協力を得てサエと博多に出かけることにした。親分にはサエの急病で付添すると申し入れをした。それで二人での初めての旅となった。新幹線で並んで弁当を食べてあかちゃんの話が尽きない。まるで自分で子供を産むようだ。ここ2日夜なべして肌着を縫ったりおしめを作ったり、フミコにはすでに子供を産むと打ち明けたらしく、昨晩にはミルクなどが運ばれてきた。
 博多に着くとタクシーに乗って警察ではなく病院に向かう。どうやら犯人は挙がって警察の手は離れたようだ。サエが何度も病院と話を続けている。病院に入ると手続きを済ませて思わず簡単にあかちゃんが籠に入れられて引き渡しを受ける。
「これが亡くなった人の鞄です。中は警察が調べてすべて戻されています。ここにイサムさんへの手紙も入れておきました」
 サエが手紙とカラオケバーでみんなで撮った写真を見ている。
「これはいつか娘が大きくなった時に渡します」
「いいのか?」
「本当の親を知らないのは不幸です。これから無縁墓地にお参りします」
 今日のサエは別人のようにしっかりしている。
「どうも尻にひかれそうだな」
「母になるんですから」
「父になるのか」
 まだ実感がわかない。
「今日はカオルさんが博多のホテルを取ってくれています」
「カオルにはもう話したのか?」
「お姉さんだから。喜んでくれていたわ。しばらく東京を離れられないと言ってたけど」







戸惑い 3

 始めてやぶ医者を飲みに誘った。もうすでにこの小料理屋では二人とも常連に数えられている。
「どこかに行っていたのか?」
 やぶ医者が最近は明るくなったように思う。
「あの女は相変わらず出たり入ったりですか?」
「ああ、最近は針のプレーでばい菌が入ってう~んう~ん言ってた。君のことを心配してたぞ」
「それよりサエは2週間に1度先生のところでホルモン剤を打ってもらっていたのですね?」
「男と女の関係になったわけか」
 やはりやぶ医者だけはサエが男であることを知っていた。
「カノンが殺されたことは?」
「うちに来る情報通から聞いた。赤ん坊を生んで死んだようだな」
「それがその赤ん坊が私の子供のようなのです」
「厄介なことだあ。今日はその話があったんやなあ」
 美味しそうにコップ酒を飲みながら、
「そういやサエは子供が生みたいと行ってたな。医学的にはそれは無理だと言っておいたが」
「引き取ると言ってるのです」
「サエならそう言うだろうな」
「引き取ったら力貸してもらえますか?」
「異母兄妹が子供を産むか。えらい話題になるぞ」
 笑いながらビールを注いでくれる。
「そのお返しは覚悟しておけよ。サエは子供産んだら最強のいい女だわ。大切にせい」






戸惑い 2

「迷惑をかけてすいません」 
ソファに座っている親分に頭を下げる。いつの間にか姉さんとも普通に会話を交わしている。
「ねえ、あのカノンが殺されたと聞いている?」
 姉さんが興味半分に大衆誌を買っていてみせる。驚いた風をしてページを開く。親分はステッキで歩けるまでになったので公園に人夫出しに出かける。私の机に休んでいる間に新規で貸付したのと完済したもののファイルが積み上げられている。
「そこにここのカラオケバーのことが書いてあるの。出産した子供はその店の常連だったそうよ」
 イサムの名前はさすがに出ていない。
「カノン結構際どいことしてたけど、本番はしてなかったと思うけど。私も2度ホテルに誘ったけど私では子供できないものね」
「姉さんは男には興味がないからな」
 何の気なしのページを繰っていたら、地元の博多の中州に『白薔薇』が来ると言う記事が出ていて、カオルの大写しの写真が出ている。購入予定のビルはITMファイナンスの不良物件で任意競売で手に入れたとある。これがマネージャーが言っていた店舗展開らしい。
「私男だめだけど、このママなら抱きたいわ。でもこういう男女はあれが細いって言うけど?」
 姉さんはこういう話になると際限がない。私は自分より立派なカオルのものを思い浮かべてしまっている。ここで口を滑らしたら。ふと思いついた。
「実はサエとやっちまって」
「異母兄妹って言ってたよね!」
「血は繋がっていない」
「イサムはとんでもない男よね」












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学生時代に書きためたノートの埃を払って万年筆の文字を打ち直し始めた2作目です。この作品は未完で今回はなんとしても完成したいです。

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